第8話 電話②

 朝八時過ぎ。今日は土曜日だ。予定のない休日は目覚まし時計をかけず好きな時刻に起きることができる。しあわせだなあ~~。


 あれっ、電話がきたっ。うわあ~~っ、鈴奈~~、そんなに俺の声が聞きたいのかあ、ちょっとまってろよ、と心の中でわめき枕元に置いてあったスマホを取る。


「もしもし?」

「礼人、もう起きてたんだ?」


 なんだ、このぶっきらぼうな声は。鈴奈じゃないじゃないかっ!


「お前は誰だ?」

「誰だかわからない? 私よ、私、島田綾羽。同級生の」


 なんだ、中学時代からの同級生の島田綾羽か。いったい突然何の用だ。同じクラスではあるが、めったに電話などかけてくる相手ではない。何かの連絡か。


「おお、何の用だ。こんな朝っぱらから」

「最近、礼人楽しそうじゃない」

「そうか」

「彼女ができたみたいでさ」

「ええっ、何のことだよ。用件を言えよ!」

「話したいことがあるから、今からそっちへ行くよ!」

「な、な、な、な、なんだって! 来るな、来るな! 来なくていいぞっ」

「そういわないでっ! 昔なじみじゃない」

「俺には用はないっ、もう電話切るぞ!」

「じゃあ、まったね~~」


 変な奴だなあ。しかし鈴奈とイチャイチャしてるところをまずいやつに見られていたな。あんな奴にばれるなんて。


 ったく、もう一度寝るか。鈴奈からじゃなくて、がっかりだったよ。


 ごろりと横になったが、目がさえて眠れなくなってしまった。


 『ピンポーン』


 ドアのチャイムが鳴っている。誰だろう。えっ、えっ、えっ、もしかして綾羽かよお。それにしても早いぞ。


「は~い」

「開けてよお」

「なんだよ、お前本当に来たのかよ!」

「行くって言ったじゃん」

「早いなあ。ったく何の用だよ」

「へへ、すぐそこにいたんだ。せっかく来たんだから上がるよ」


 こいつを家に入れるのは初めてだ。用があってドアのところに現れたことは何度かあったが。


「おい、おいっ、なんだよっ! 入っていいって言ったかよ」

「もう! こんなところで女の子ともめてると近所の人のうわさになるよ」

「なんだ、なんだ、靴脱いじゃってよお」

「じゃ、礼人の部屋に案内してよ。玄関先じゃ話もできやしない」

「だからあ、何の話だよ!」

「それは、上がってから」

「もう上がってるだろう」


 うわわああああ~~~、たち悪いなあこいつ。がたがたやってると姉貴が出てくる。うるさいから部屋へ入れてしまうしかない。


「ここでしょ、あんたの部屋?」

「ああ、そうだよ」

「まあね。早く入れよ」

「そう来なくちゃ!」


 初めて部屋に入れたのが、鈴奈ではなく綾羽になってしまった! とんでもないやつが来たものだ!


「へえ、結構きれいな部屋ねえ。えっ、だけどこれ何よ」

「や、や、や、や、やめろ、みるなあああ~~~~っ!」


 綾羽は俺のベッドの上の雑誌をじろりと見た。慌てていたから隠す間もなかった。表紙はグラマラスな女性がある。女子に見られたくなかった!


「うわああ~~~っ、やっぱり男の子ねえ」


 素早くそれを手に取る。にやにやしている。


「なんだよお! 返せええっ!」

「興味あるよねえ。女性の体にねえ」


 それをポイっとベッドの上に投げた。次に素早く床に転がっている別の本を手に取りさらにパラパラとめくる。


「へえ、すっご~~~い。男子はこういうのに興味があるんだ」

「だからあ、こんなもの見に来たのかよ」

「そんなわけないでしょ」

「そうかよっ! じゃ、何の用?」


 さらに綾羽は、あちこちを物色するように見ている。すると、俺の机の上に載っていた、契約書に視線が釘付けになっていた。


「やばいっ!」


 ッと思ったときには、もう遅かった。


「へえ、礼人君鈴奈の契約彼氏になったのかあ。だから急に付き合い始めたんだ」

「なんだよおっ! 人のプライバシーに立ち入って!」


 俺の声は裏返った。情けなさで身の置き場が無くなっていた。

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