第5話 放課後②

 ちょっとだけ質問していい。


「うん、な~に」

「俺を選んだのはどうしてなの?」


 ついに訊いてしまった。わくわくするぞ。どんな答えが返ってくるんだろう。


 やっぱり今までず~ッと好きだったけど言えなかったんだという答えを期待した。

 

 彼女は首をかしげ、思い出すようなしぐさをする。だが、きっぱりといった。


「特に理由はないの」

「はっ、そうなのか……」


 俺はきょとんとして彼女の顔を見た。彼女は口を尖らせている。俺の口も尖っているに違いない。


「周りには何十人、いや何百人も男子がいるのに、どうして俺が選ばれたのかな。実はそこが一番知りたいところなんだ。何を言われても怒らないから、教えてほしい」

「ふ~ん、気になってるんだ。一番かっこいいからとか、今までず~ッと気になってたんだとか、言ってほしいのね?」

「いや、そういうわけでは」

「やっぱり言ってほしいんだ」


 う~~~~ん、難しい局面だ。俺の心は見通しか。


「本当の事が知りたいだけ。鈴奈ほどの魅力的な女の子だから、告白してくる男子はたくさんいるだろうから、俺が選ばれた理由が知りたい」

「もうっ、そんな怖い顔をしないでっ! 選ばれて嫌じゃなかったんでしょ」

「まあ」

「だからそれでいいじゃない。特別な理由なんていらないのっ!」

「そ、そうかあ」


 選ばれた理由は特になかったってことか。そんなはずないのになあ、だって彼女超人気があるし、どんなイケメンだって彼女の方から声をかければ断るはずがない。


 俺がそれほどいい男ってことか? でも自慢じゃないが、一度も女子と付き合ったことがないし、告白されたこともなかった。


 鏡の前でしみじみ顔を見てみると、それほど目立つわけではないし、どう見ても普通だ。

 あえて言えば、胸の筋肉がイケてるのかもしれない。体育の時に目立つこのボディに惚れ込んだのかな。それはそれでいいなあ~~。顔に関してはイケメンを見飽きてしまい、普通の男子と付き合うことにしたのだろうか。


「あのさ、今まで付き合った人と比べて俺ってどう?」

「まあ、まあ、だよ。でも今まで付き合った人って特にいないけど」

「い、い、い、いないの? は、は、はっ、初めて男子と付き合うの?」

「デートしたことはあるけど、何回かは」

「だよねえ~」


 それなのに、あんなに自然にキスできて、甘い雰囲気を作って。


「でも、それだけ」


 なんだあ、そのぐらいの軽い気持ちだったのか。今まであまたの男子と付き合って決めたと思ったんだから。


 彼女が振って終わりになったのか、まさか振られてしまったのか、そんなはずはない。だけど、人は見かけによらないものだ。彼女を振ってしまう輩がいるのかもしれない。


 心境の変化っていうやつか。あ~~~~っ、分からない。でも理由なんか別にいいや! ぐじぐじ言うのはやめよう。嫌われちゃう。


「だからあ、もうその話はやめようよお。どうして付き合う気になったのかっていう話」

「ごめん、しつこかったね」

「お詫びは? 今日は何かあるの?」

「何でもいいよ」

「じゃあ、デートかな」


 今度は食堂へ行った。


 自販機で飲み物を買い、並んで座る。これは俺のおごりだ。


「乾杯!」

「何に?」

「二人に!」

「二人の仲にね!」


 二人のこれからの二十九日にか。それでもいい。期限付きなんだよな、この付き合いは。知らないことが多かったんだ。一つ一つ謎を解明することにしよう。


「あのさ、鈴奈の家って?」

「ああ、知りたいの。父と母がいるよ。仕事してるから忙しいけど」

「そうか、二人とも仕事で忙しいんだ」

「まあね。礼人の家は」

「うちも同じようなもの。仕事が忙しいから、結構自分でやってるよ」

「独立心旺盛なんだ」

「そうだな」


 鈴奈は炭酸飲料をグイッと飲み、ウッという顔をする。


「炭酸苦手だった?」

「それほどでも、いつもはあんまり飲まないの」

「そうか。昼はどうしてる?」

「お弁当を持ってくるよ」

「まあ、俺も大体そうだな」

「食堂で食べるのもいいな」

「そうね! デートができて一石二鳥かな」


 う~ん、だけどまたほかの人に知られない方がいいのだろうか。一緒にいるところはかなり目立つ。

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