第4話 放課後①
「ねえ、ちょっと来て?」
「ああっ、鈴奈」
放課後の教室で鈴奈が、こちらへ来ていった。俺は別に君のことは意識してないけど、という態度を見せるためさりげなく手を挙げた。
実は、昨日の突然の契約の申し出や、衝撃のキスが家に帰ってから頭の中によみがえってきて、全く眠れなかった。
「こっち、こっちよ~」
「いいけど、どこへ行くの」
隣に並んで歩きながら、横を向くと彼女のブラウスから透けて見える胸のシルエットが再び視界に入った。わああ~~~っ。最接近したときのほんの少し触れた瞬間の感覚、最高だった。今度は、何かが起こるんだろうか!
「ここよ……」
「こんなところ?」
廊下の隅にあるスペースに模造紙が無造作に広げられている。書きかけの絵のようだ。隣には絵の道具が置かれている。
「ああ、ポスターを描いてたんだ」
「そう。文化祭で使う看板。パーツごとに分けてあるから、何の絵だかよくわからないでしょうけど」
「あとで、組み合わせるのかあ」
「そう、一緒に塗ろう」
「よ~し。どんなお願いでも聞いてあげるんだよね、契約彼氏だから」
「そう、だけど、契約彼氏のことは口にしないでよ。ほかの人には一言でも言わないで」
「それはそうだよ、約束する」
そうだな。他人に言うようなことではない。二人で向き合ってしゃがんだ。すると、ミニスカートのから太ももがちらりと見える。だが、硬い廊下で正座したらひざを痛めてしまう。
「あ、ここに座っていいよ」
「ジャージの上に、いいの?」
俺が差し出したジャージを受け取り丁寧にたたんでから尻の下に敷いた。
「その方が少しは楽だよ」
「そうだね」
二人で筆を持って色を塗り始めた。今日のデートは、これかな。時にはそういう時間もいいかもしれない。隅の方で二人きりの世界に浸れる。
二人でせっせと手を動かし塗っていく。彼女は器用に手を動かし、白い模造紙に色を載せていく。俺も負けてはいられない。塗ることに集中する。大方塗り終えたところで、鈴奈がカバンからお菓子を取り出した。これはよくあるポッキーを二人で食べるやつ!
お決まりの展開。どこかで見たことがあるような。
取り出したお菓子は、予想とは違った。
「これ食べる?」
「チョコパイ」
「疲れた時には、甘いものがおいしいよね」
「そうだ。頭の回転がよくなるよ」
「じゃあ、二人で食べよ、これ」
「うん、おいしい」
鈴奈は、ミニチョコパイを一口かじった状態で、こちらを見ている。何を考えているのだ。
わ、分かった。
よおおお~~~~~~しっ! 接近して、接近して、口を開ける。すると、彼女は手を引っ込めた。えっ、食べさせてくれるんじゃあ……。
「これを上に投げるからね」
「そして……」
「口でキャッチ」
「あ、そういうこと」
「そうよ。行くわね」
彼女は箱の中から一つ取り出し上にポン放った。
こんなの簡単だ。よ~~しっ。体を動かしてキャッチ……するはずが床に落ちた。
「ああ~~~あ、残念!」
「って、食べられないよ」
「じゃ、次は私の番」
「行くよ」
今度は俺が一つ取り出しなるべくゆっくりと近くで放る。ほぼ真上だからキャッチできるかな。おっ、だが彼女の顔に当たってジャージの上に落ちた。
「あああ、私もダメだった」
「意外と難しい」
が鈴奈はジャージの上に落ちたチョコパイをつまみ口の中に入れた。
「あれ、食べちゃった」
「服の上だからいいわよ」
「まあ、そうかな」
何度か繰り返し、ようやくこちらは一つだけキャッチできた。失敗したせいで、何個かが無駄になってしまった。
「アハハ、チョコがついてるよ、ほら」
鈴奈が、人差し指で俺の口元に着いたチョコをぬぐった。恥ずかしいなあ。
「どうも」
「まだ唇についてる」
と言いながら、てぃっすを取り出し拭いてくれた。ううう~~っ、なんということ!
ちょこんと座っているが、スカートの下からはすらりと白い足がのぞいている。ボタンの隙間からはちらっと胸が見える。
「もう一つ食べる?」
「うん、ありがと」
箱の中からミニチョコパイを取り出し、口にぽいと入れてくれた。今度は自分の口にポイっとそれを投げ入れる。口元が可愛らしくて見とれてしまう。
座っているとハイキングをしているような、リラックスした気持ちになる。このままずっと彼女との時間が永遠に続きそうな、穏やかな気持ち。だが、冷静に考えるとこれが一か月後には終わる!
「ポスター上手にできてよかった」
「そうだよね。鈴奈は絵が上手だったんだね」
「あら、知らなかった?」
「だって一緒に描いたことがなかったから」
「ふ~ん、私のことあまり知らなかったのかな」
「だって、遠い存在だったから」
「じゃ、これからいろんな発見ができてよかったね」
「そうか、そういうこと!」
ちょっと手を出して。
「なに?」
「ほら、手をくっつけるんだ」
お互いの手のひらと手のひらをくっつける。すると、だいぶ俺の指が外側に出ている。それにかなり長い。
「へえ、結構指が長いね。私の方が小さい」
「本当だね」
まっすぐな指をちょっとだけずらし内側に曲げる。彼女も同じように曲げるとぎゅっと手を握り合う形になった。
「これは友情の証!」
「はいっ! 友情も手に入れた。それじゃ、困ったときは助け合わなきゃ」
「そういうこと」
廊下は薄暗い。手をつないでいるところは誰にも見られていないだろう。
一か月のうちの一日で、さらに親しくなれた。この調子でいけば、一か月後からも彼氏になれるだろうか。
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