幕間 ガウローヴ王国・玉座の間にて

「よろしかったのですか。」


 魔法を唱え終えたスピリアに、ブライが尋ねた。ドラゴニュート達はその翼で飛び上がり、元居た上のフロアへと戻った。玉座の間にはスピリアとブライの二人だけ。廊下で気絶している兵士はさておき、整然としたその場は、まるで何事も無かったかのようであった。


「何が?」


「此処で殺しておいた方が良かったのでは。」


 プライが心配そうに言う。王としての威厳は何処へやら、まるで親を頼る子のような表情である。


「ああいうのは放っておいた方が面白い事になるからいいのさ。何の邪魔も入らないより、何か刺激があった方が計画も捗るってものだよ。」


 一方のスピリアは軽く笑みを浮かべた。その態度には余裕が見えた。


「そういうものでしょうか。」


「ええ。それにあの場で殺していたら死体の処理とか大変でしょ。今は兵士共にバレないようにしないと。まあ、脱獄犯として扱う必要はあるけどね。」


「……以前もお聞きしましたが。一気に人間共を殺すではいけないのですか。」


「それではダメだよ。私はそういう事がしたいのではない。君には話しただろう?」


「ええ、まあ、そうなのですが。今回のような事がまた起こりかねないのではないかと。」


「それは無いよ。」


 スピリアはほくそ笑んだ。


「アレは例外。私には分かる。彼みたいに気付ける人間は他には居ない。請け負うよ。アレだけは殺しておきたかったのが本音だけど、あのタイミングでは無理だったからね。」


「確かに、アレは貴方の正体にも気付いていました。相当の洞察力だとは思います。」


「ね。まあ、私の本当の姿までは分からないとは思うけれど。」


 スピリアがクックッと笑い声を上げると、ふと廊下に目をやった。壊れた扉の先にノビていた兵士達が起きだそうとしていた。


「さて。そろそろ通常営業に戻る時間だよ。」


「そうですね。次の手としては……私は兵士達に奴らを指名手配すれば良いですか?」


「ああ。そうしてくれ。私の手を汚さない方向で処理する分には問題ない。私は引き続き研究に戻るので、そういう扱いにしておいてくれ。」


「承知しました。」


 そう言ってブライは廊下に向き直った。その顔は先程とは打って変わって、威厳に満ちたものであった。




 上の階では、ドラゴニュートの兵士達が、再び出番を待って眠りに就いていた。


 その部屋の端の方には、スピリアと同じ顔の女性が、黒い何かに染まった状態で、息もせず事切れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔物は◯◯◯なんかしない!! 明山昇 @akiyama-noboru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ