1-7 前進の決意

 気付くとゼアーチは見知らぬ場所にいた。


「此処は……?」


 横にはシルディが居た。


「うーん……頭痛い……。どこ此処?」


「分からん。だが……寒いな。」


 ガウローヴ王国は今は温暖気候にあるが、ここは雪が降る程に寒冷気候にある。


 この点だけでも十分察しは付いたが、加えてあのスピリアの唱えた呪文。追放イグザイルは、対象のグループを一定距離外のランダムな場所へワープさせるものである。それを知っているゼアーチは理解した。少なくとも此処はガウローヴ王国ではなく、相当距離が離れた別の場所であると。


「此処はもしや……スーラン帝国?」


 スーラン帝国とは、ガウローヴ王国の遥か北にある、帝政国家である。年中雪に包まれており、人々の生活もかなり困窮している、とゼアーチは聞いた事があった。他国とはあまり接触せず、厳しい環境に立ち向かうことを優先している、とも。そうした方向性から、あまり情報は入ってこなかった。


「随分と遠いところに飛ばされたみたいね……。」


「うむ。……国外追放か。」


 ゼアーチは肩を落とした。


 寒さが原因では無い。この状況に絶望しかけていた。


「ああ全く。忌々しい奴と再会したと思ったら早々に追い出されるとは。」


「本当に腹立たしいわ。」


「これからどうする?」


 ゼアーチが問うと、シルディは怒りを滲ませながら言った。


「決まってる。ガウローヴに戻るわ。このままじゃあの国は魔物に乗っ取られる。そんなの許せるわけないじゃない。ただでさえサリークを奪われたのに、おまけに今度は国ごと乗っ取られるとか。絶対にただじゃおかない。」


 怒りで足元の雪が溶け始めていた。


 ゼアーチもそれは同じ思いであった。面倒な事に巻き込まれた、そう思わなくも無い。だがそれ以上に、故郷を踏み躙り、次は自分たちの住まいも踏み躙ろうとしているあのスピリア……らしき魔人達を許す事は出来なかった。


「行こう。」


 ゼアーチは強い意志を込めて言った。


 何処に?


 決まっている。ガウローヴに戻るのだ。


「国を救うとか大層な事は言わん。だが、私達の住む場所を守る。そのためにも戻ろう、ガウローヴへ。そしてあのスピリアの、魔人の企みを阻止する。知ってしまった以上、我々にはそうしなければならない義務がある。」


 シルディは力強く頷いた。


「そうね。行きましょう。あいつら全員とっちめてやる。」


「うむ……。」


 そう決めたところで、ゼアーチの鼻から水が垂れた。


「……まずは暖かいところに行ってからだぶぅぇっくしょん!!」


 大きなくしゃみが降り注ぐ雪の中に響いた。

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