涙の雨
――― 七月八日午前、女子学生と見られる遺体が、近所の川から発見された。遺体はすでに腐敗が進んでいたことから、女子学生は何らかの理由で高架下に入り、先日まで降り続いていた雨による川の氾濫が原因で、七日の夜遅くには、すでに溺死していたものと見られている。そして、そこに事件性が見い出せないこと、彼女は遺体が発見されたその場所にさえいなければ助かっていたこと、また、彼女は家庭環境や学校で様々な悩みを抱えており、更には制服の胸ポケットに、遺書らしきメモ書きが縫い付けられていたことから、警察はこれを自殺と断定し、早々と捜査を打ち切った。
これが、概ね僕が簡単に集めることのできた情報だった。しかし、僕は信じなかった。君が高校に入学して、僕の知らない環境に行ってから、抱えていた悩みがまた深刻になっていたことは知っていた。それでも、君が悩みを打ち明けてくれたあのとき、初めて心の底から僕らは分かり合えたはずだった。だから、彼女が自殺をするなんて、とても考えられなかった。
しかし、どれだけ探しても、それらの証拠は彼女が自殺をしたことを示し、その事実を揺るがないものとした。人間など脆い生き物で、軽い出来事であっても、なにかをきっかけに簡単に変わってしまうものだ、ということに薄々気づかされながらも、最後まで、ありもしない真相にしがみつき続けた、彼女のことを信じ続けて。なぜなら僕は、どのような現実を目の当たりにしても、彼女が自殺した、それも誕生日になんて、どうしても考えられなかったから。第三者に聞かされる彼女は、僕が知っている彼女とは、まるで別人だったから。
きっとなにかに巻き込まれたんだ。
誰かに騙されたんだ。
そうするしかなかった理由が、きっとなにか…。
そう言い聞かせ、真相を探し続けた僕だったが、そのような幻想は、つい先日、完全に打ち砕かれることになった。数年間探し続けて、最後にようやくたどり着いた遺書らしきメモ。それは幾度となく見た、あのカラフルな画用紙だった。そしてそこには、今まで、誕生日だからと何度も何度も尋ねられてきた、あの質問の答えが、こう書かれていた。
――― 二人はいつまでも会えなくて、泣き続けているんだね、きっと。 ―――
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