七月八日 晴

晴天

 すっかり降り止んだ雨音に代わり、僕は、いつも以上に騒々しいサイレンの音で目を覚ました。最初は、こんなにもサイレンの音は大きかっただろうか、と疑問に思った僕だったが、それは救急車両の到着先がとても近いことや、その数や種類が多いこと、そして、僕の意識がまだはっきりとしていないことに起因していた。しかし、一時期を皮切りにサイレンの音はしなくなったため、僕は気づけば、そのまま眠ってしまっていた。


 僕が再び目を覚ましたのは、何日かぶりに見た朝日と、外の喧騒が原因だった。まず、僕は、昨日までの雨が嘘だったかのような雲一つない晴天に驚愕した。久方ぶりの朝日に目を焼かれながら、寝惚け眼で、枕元の時計を確認する。時刻は、午前八時十一分。休日の、いつも通りの、静かな朝だ。


 しかし、そんな思いは、それから五分も経たないうちに、完全に消え失せた。僕の頭は、意識がはっきりとしてくるほどに、外で起こっている事態の異常さに気づき始めたのである。

 窓から遠目に見ても、その光景は充分に非日常なものであったが、僕は、その真相を確かめるべく、すぐに現場へ向かった。そこは、小さな頃から何度も見た場所あるはずなのに、今日だけは、今まで見たことのないような、全く違う景色を形作っていた。


 ― たくさんのカメラやメモ帳を持って、必死に中の状況を探ろうとしている人々、立ち入り禁止のロープの前で、その人たちの進行を食い止めている警官らしき人、口々に噂話をするように話している、それを取り囲む大量の一般市民たち。


 「これじゃあまるで、殺人現場じゃないか。」

 思わず口からこぼれた僕の予想は、あながち間違いではなかった。

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