七月六日
別の何者か
翌日、雨は、未だ振り続いていた。僕は一人になりたい気分だったが、その音が、僕を放っておいてはくれない。いい加減止んでもいいのではないかと思う自分をよそに、きっと止むことはないのだろうと、確信する自分がいた。あの時もそうだったのだから、と。
時計はすでに、午後十時を示していた。当然今日も、家には何もない。それでも、体は、新たな燃料を欲している。となれば今日も、僕はまた、例のコンビニへ行くしかなさそうだ。あの元気な店員は、今日もまた、僕に希望を見せてくれるだろうか。いや、そんな大層なものではないか。
玄関に並んだ二枚の黒い文字。
僕は左に吊るされていた方の黒い文字を、もう片方にあったはずの文字にならって引きちぎると、雑にポケットに入れ、家を出た。
最後に残された願いは、物憂げに、そして悲しげに、雨風に揺られていた。
――― 雨が止みますように ―――
黒光りした水滴は、更に激しさを増していた。それらは道に刺さり、町を濡らし、僕の寿命をも、少しずつ蝕んでいるかのようだった。溜息交じりに歩き始めた僕の肩は、今日もまた、瞬く間に変色した。
例の入店音と共に聞こえてきたのは、どう考えても憂鬱そうに仕事をこなす、そんな若者の声だった。僕は、現実から目を背けるように真っ直ぐ歩くと、目の前にある商品に目を向けた。どうやら、今日は割引をしていないらしい。しかし、そんなことはどうでもよかった。どうせなら、と思った僕は、その中で一番高い商品に目をつけ、レジまで持っていった。しかし、店員はそれに気づかない。僕が声をかけると、彼は一歩一歩、地団駄を踏むようにレジへ入った。
今日は挨拶が無く、やはり、昨日が最後だったのだということに気づきながら、僕は外へ出た。
今日の彼の行動は、人間とは、なんとも変わりやすい生き物だということを裏付けるように、大きく変化していた。変わらないのはその外見だけで、中身は昨日の明るい店員ではない、全くの別人に、いや、それどころか、彼はもはや人間ではない、別の何かに変わってしまったのかもしれない。
なんにせよ、希望とは非常に儚いものだ。
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