第2話〜孤独なはずの怜侑君、友達が出来る〜
「はい、海鮮定食一丁。味噌汁は熱いから火傷しないように気を付けろよ?」
「はい、ありがとうございます。頂きます。」
ふはは、ふはははは。我が店の海鮮定食の味をとくと味わうがいいわ…
なんてふざけたことを言ってはいるものの、実は内心かなり緊張している俺である。
と言うのも、同級生に料理を振る舞うのはこれが初めてなのだ。より正確には、同じ学校の同級生にだな。ほかのやつはわざわざ来ないからな。美味しいと言ってもらえればいいのだが。
「美味しい…鮮度がいいし、わさびも物がいい。何より酢飯が完璧…」
酢飯は拘っているからな。そこに気がつくとは、お主もやりおるな。
「喜んで頂けたようで何より。海鮮の鮮度はもちろん、酢飯はかなりこだわっているんだ。強すぎれば邪魔をしてしまうしな。そこを褒めてくれるのは有難いね」
お世辞では無いのだろう。俺は今まで沢山の客を見てきた。目を、態度を、食べっぷりを見ていれば嘘かどうかはわかる。心の底から美味しいと思ってくれてるのだ。料理人として、これ以上の喜びはない。
「このレベルの味なら毎日食べに来たいかも…」
「毎日来て貰っても構わないけど、外食は出費が嵩むぞ。計画的に利用することをおすすめするよ。」
「流石に毎日は無理でも、週に一回は来る!ご馳走様でした!美味しかった〜!」
「ありがとう。780円だ。…っと、ピッタリだな、これがレシートだ。今度は気を付けて帰れよ。」
俺はそう言って、彼女を見送った。変わった奴だな、俺に積極的に話しかけてきた。
久しぶりに人と話していて楽しかったかもな。たまには人助けするといい事もあるもんだ。
「よし、片付け片付けっ!ささっと終わらせて明日の仕込みだ!」
さあさあ、舞台は変わって翌日のお昼12時30分。今日はテストの返却日だから登校しなくてはならなかったので、仕方なく学校に来ている。
テスト?今の所赤点は回避してるよ。追試に時間を取られるのが勿体なさすぎるからな。
さて、学校での唯一の楽しみはなんと言っても食事だ。と言っても弁当を自分で作って来ているから学食をする訳では無いが、屋上で食べるご飯は最高なのだ。基本ほぼ全員、学食や弁当問わず食堂で食べている。屋上まで来るようなやつは俺以外に居ない。
1人で優雅に景色を見ながら食べるのがいいよな〜と、移動しようとした瞬間、教室が一気にざわついた。
「お、おい…あれ…」
「ああ、天使様じゃねぇか……」
「宵空彩月様だ……こんな近くで…」
天使様ねぇ。アニメみたいなあだ名をつけられて、本人は嫌じゃないんだろうか?
にしても、この人だかりは邪魔だな…
「あの、明星怜侑と言う男の子がこのクラスに居ますよね?少し用があるのですけど、呼んでもらえませんか?」
ざっと、一斉に無言だ俺の方を見てくるクラスメイト達。ああ、こりゃ知らんぷりは無理だなぁ…
「俺に何か用か?昼飯を食べるとこだから、手短に頼みたい所だが。」
「少しだけ付き合って貰えますか?とりあえず、ついてきてください。」
「すみません、屋上までついてきてもらって」
「別にいいさ、元からここで飯を食べようと思ってたからな。で、俺に何か用か?」
「…もう、誰か忘れたんですか?」
失礼な。そんな人をおじいちゃんみたいに。ばっちり関わりがないことぐらい覚え…て…
「え?…え、ええっ!?昨日の…!」
「そうです!今日あなたを呼んだのは他でもありません!私と、友達になってください!」
友達?何言っとんだこいつ?俺が誰だか分かってんのか?孤独な店主様だぞ………孤独な、ぐすん。
「…私、親切心で助けて貰ったの初めてなんです。みんな、私には下心ありきで関わってきます。なので…あなたとなら、ちゃんとした友達になれるかな?と思いまして…ダメ、ですか…?」
さて、断る気だったんだけど、純粋に友達になりたいっぽいし。そもそも涙目で上目遣いはちょっとずるいと思うが…
「…俺がなんて呼ばれるか、知らない訳じゃないだろ。自分の評判が下がるぞ。それでもいいなら構わない。」
「えへへ、じゃあ、LINE交換しましょう!LINE!」
……ばあちゃん、俺、友達が出来たよ。ばあちゃんの言ってたことは、本当だったんだな。
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