第3話〜大事にしようと心に決めた〜

「そろそろ昼ごはん食わないとな。お前はどうする?」


「私もお弁当だからここで食べるよ。そ、れ、と。私は

宵闇彩月よいやみさつきです〜!お前じゃなくて彩月って呼んでください!」


そんなに怒るかね?悪かったって。


「はいはい、悪かったな彩月。それよりとっとと飯食うぞ、昼休みが終わってしまう。」


「そうだった…!頂きます!」


慌てて食べ始める彩月。もっと落ち着いて食えよ。

そう思いながら俺も蓋を開ける。中身はご飯の上に乗せられている生姜焼きに、定番の卵焼き。アスパラガスをベーコンで巻いたものやプチトマトなんかがある。

ちなみに冷凍食品もある。今日で言うと和惣菜ものがそうだ。


便利だよね、冷凍食品のお弁当用のおかず。美味しいし。まさに主夫(主婦)の味方。


「頂きます。…うん、ちゃんと作れてるな。」


「美味しそうだね。やっぱり自分で作ったの?」


「だいたいはな。1部は冷凍食品のやつ使ってるよ、流石に全部を自分で作るとなると手間がかかりすぎる。最近の冷凍食品は美味しいし。」


「そうなんだ。普段からここで食べてるの?」


「まあな。誰も来ないし、景色もいい。学校に来る日は昼休みここに居るよ。」


「ふ〜ん。…え、学校に来る日?来ない日があるの?」


と、困惑しながらきいてくる彩月。普通は困惑するよな、わかるよ。でも…


「ああ。店の関係でな。仕入れや仕込み、包丁等の手入れ…挙げるとキリがない程やることがある。だから、普段学校は単位とか出席日数が足りる範囲でしか来ていない。休んでることが多いぞ。」


俺はあくまで、あの店を…おばあちゃんから継いだ店をずっと続けて行くことこそが目標だ。高校は最低限でしかやっていない。


「そう、なんだ…毎日は会えないんだね…」


本人は無意識で言ったのだろうか、彩月が零した言葉に少しドキッとしてしまう。


今まで、そんなことを言ってくれる人は居なかった。そうも寂しそうに言われてしまったら申し訳なくなってくる。だからだろうか、


「別に、家に来りゃいいだろ。店で飯を食うんなら別だが、余り物やお茶ぐらいなら振舞ってやる。そもそもLINEがあるんだから話しかけてくればいいだろ?」


そう言ってしまった。今までの自分なら、絶対に言わなかった言葉。でも


「良いの?やった!ほんとに行くからね!待っててね!」


そう、笑顔で喜んだ顔を見せてくれた。彩月なら、ちゃんと俺個人を見てくれるかもしれない。ちゃんと友達として接してくれるかもしれない。大事にしないとな。


それから、テストのことや他愛もない世間話をしながら食事していると、いつの間にか時間が来てしまった。


「あ、そろそろ時間だね!戻らないと…」


いそいで時間を確認すると、昼休み終了の5分前だった。あっという間だった。名残惜しいけど、そろそろ戻らないとな。


「ああ、そろそろ戻らないとまずいな。っと、ご馳走様でした。」


お互い急いで片付けて、教室に戻ろうとする。

ふと、前にいた彩月が振り返ってきて


「ねぇ、怜侑君。ありがとう。楽しかったよ?これから…仲良くしてね」


と、言ってきた。その時の表情は、未来永劫忘れないだろう。初めて出来た、純粋な友達。俺はその控えめな、けれどまぶしい笑顔の彩月に見とれてしまって、


「……あ、ああ、こちらこそよろしく」


と、返事が少し遅れてしまった。もっともその後の


「あ、クラスに戻ったら色々聞かれて大変だろうけど、頑張ってね!」


と言う彩月の一言で俺は現実に戻されるのだった。

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