見間違いか、あるいは「G」の化身か…

貴音真

とある女の子の家にて。

 これは、俺がまだ高校生だった頃の夏休みの話…


 当時の俺は高校生になったのは良いが、工業だったために同学年に女は2人しかいなくてとにかく女に飢えていた。別に付き合いたいとかではなく、週に一度くらいは女も混ぜて遊びたかった。

 そのため、週末は男友達と一緒にしょっちゅうナンパをしていた。

 ちなみに、いくら工業だからと言って平凡以下の女をちやほやする程に飢えてはいなかったし、クラスも違ったので同じ学校の2人とは話したこともない。


 その日(土曜日)の朝、いつもの様に男4人で駅へ集合して電車で少し遠い駅まで行ってナンパしようとしていた。これはいつものパターンというやつだ。

 遠い駅へ行くのは兄がいたために地元にが多くいる俺の希望だったが、他の3人も快く受け入れてくれた。(後で聞いた話だが、地元でナンパはするのは恥ずかしかったらしい)

 それはさておき、その日のナンパは当たりどころかだった。

 ダメな日は帰るまでずっと女に相手をされないとか、行った先の地元の男連中に絡まれたりして散々な目に遭う事もあるが、その日は違った。着いて早々の午前9時過ぎに友達同士で海に来たという地元の女の子4人と一緒に遊ぶことが決まって4対4のダブルデート状態になった。それも相手は全員が可愛い子なのに俺達に対してぞんざいな扱いをしないという奇跡的ないい子達だった。(容姿は個人的な嗜好ではあるが少なくとも俺にとっては全員がストライクで性格も良かった)

 そして、それから午後3時頃までは本当に楽しい時間だった。まさしく青春の1ページという感じで、気がついたら時間が過ぎていたという表現そのままだった。

 しかし、そこで事件が起きた。

 女の子のうちの一人が軽度の熱中症(吐き気などはないものの発汗が減って極度にダルいという状態)になり、遊びはそのまま解散という流れだった。女の子達は俺達に対して「気にしないでいいから」と言ったが、心配だった俺が「良かったら送ろうか?」と提案したら「そうしてくれないかな?」という事になって女の子達と一緒に熱中症になった子を送りに行く事になった。

 それから歩いて30分くらいのところにあるその子の家に行ったんだけど、その途中でその子の体調もすっかりよくなってて(帰り際にシェイクみたいな液体のバニラアイス食べさせたりしたから治ったっぽい)、家に着いた時にその子が「良かったら少し遊んでいく?親は旅行行ってるからさ」って言ったからそのまま午後8時前までその子の家で遊んだんだけど、良いことがあれば悪いこともあるって感じで俺はを見てしまった。


 それは、みんなでナンジャ○ンジャをしている時だった。(ナンジャ○ンジャは市販のカードゲーム)

 時間は帰る2時間前くらいだから午後6時くらいだったと思う。

 まだ外は暗くなかったけど、時折吹くが気持ち悪かった。ちなみに、その子の家は風通しがよく、夏でも夕方から朝までは涼しいらしい。(普段なら防犯のために夜は窓を閉めるけど高校生とはいえ4人も男がいれば大丈夫ということで俺達が帰るまでは窓を開けていた)

 俺がカードを捲った時、女の子の1人が「ミソデンガグ!」と自信満々に宣言した。だが、それは「ミソデンガグ」ではなく「ミソオデン」だった。

 間違えた女の子は「うわー!引っ掛かったー!マジ最悪!紛らわしい名前はズルくない!?」と悔しそうにしながらも、その子を含めたみんなで笑っていたその時だった。


 カサコソカサコソカサコソ…


 俺の背後で音がした。

 まるで何かが様な音だった。

 気のせいかと思った俺は気にすることなく遊び続けていた。

 しかし、次に俺がカードを捲る番が来た時だった。


 カサコソカサコソカサコソ…


 またその音がした。

 その音は一度目よりも大きくはっきりと聞こえた。

 正直、気のせいであって欲しかった。

 しかし、俺がカードを捲った瞬間だった。


 カサコソ!カサコソ!カサコソ!


 捲ったカードの絵柄に付けられた名前を呼ぶ(というよりは叫ぶ)声が響いている筈のその瞬間、俺の耳にはその音だけが聞こえていた。


 カサコソ!カサコソ!カサコソ!


 その音は頭の先、俺の身体からだの正面から聞こえていた。

 床に敷かれた絨毯の上にみんなでまるくなって座り、カードを捲るために前傾になった俺の頭は地上から数十センチ程の高さになっていた。

 俺の目線(恐らく他のみんなも)は必然的にカードへと注がれ、頭の先から聞こえるその音の正体は見えていなかった。

 頭をもたげれば間違いなくそれが見える。それを

 その事がわかっていなかった俺はついその音の聞こえた先を確かめるように目線を向けてしまった。


 それは、小さな女の子だった。

 口、目、鼻、耳、顔面にあるあなというあなから黒光りした大きなゴキブリを無数に出し続ける5歳くらいの女の子。


 ガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザガザ………


 ゴキブリ同士が擦れ遭う音はそれまでに聞いたどんな音よりも不快だった。

「おい、大丈夫か?お前の番だぞ?」

 その声でやっと気がついた。俺は他の7人がカードを捲り終わる間ずっと視線を逸らさずにらしい。

 時間にして数分程だったが、俺にとってはもっと短く感じた。

 ほんの一瞬、の出来事だった。

 それが幻覚なのかどうかもわからない。

 ただ、俺は10年以上経った今も鮮明に覚えている。

 全身がゴキブリの棲処すみかであるかの様な黒光りした塊となった小さな女の子と俺のはそれ以来一度も起きていない。


 ちなみに、その直後に本物のゴキブリが窓の外の壁を這っていたのを見つけたが、俺以外に誰も気がつかないうちにそいつはどこかへ消えた。

 それから少しだけみんなでその日の出来事を話した後、近くの公園で花火をやって俺達は帰った。

 女の子達は泊まると言っていたが、さすがに男は泊められないだろうし、俺達も泊まるわけには行かないので家の前まで送ってそのまま帰った。

 余談として、その日の8人(男4女4)の中で2組がその日から付き合ったが、どちらも2学期の途中に別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見間違いか、あるいは「G」の化身か… 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ