涙のガーデンクリスタル
鈴ノ木 鈴ノ子
涙のガーデンクリスタル
涙のガーデンクリスタル
人が嫌にやる。
群れが嫌になる。
組織が嫌になる。
そうなれば、必然的に世の中が嫌になる。
いつだってそうだ、神様は不公平。
いつだってそうだ、仏様は不公平。
私はベッドで布団にくるまり泣きながら、世界を恨んだ。
ふと、白いシーツの上に涙が溜まっていた。まるで、柔らかな若葉の上に溜まった水滴のように輝いている。
なんなの…。
目から流れ落ちた涙が、その水滴の塊に自ら擦り寄ると、小さな小さな波紋をたてながら加わった。
え…。
嗚咽を漏らしながら、私はそれに手を伸ばす。
硬い感触があった。
頭まで被っていた布団にをどけて、夕焼けに染まる室内にソレを掴んで持ち上げる。掴むまでは消し終わりの消しゴムの大きさだったのに、今では新品の消しゴムの大きさまでそれは成長していた。
思わず、夕日にそれを翳した。稲穂色の光がその中で優美に光を通して、時折、その中で漣を立てる。
綺麗…。
泣いていたことなど忘れて、私はそれに魅入った。
じっくりと眺めているうちに、いつのまにか、私はその中に入り込んでいた。
暖かい…。
長いこと感じたことのない温もりに、思わず身を預ける。私はその空間をひたすらに漂うことにした。
不意に気泡が現れて、今日の嫌なことを映し出した。
辛く、苦しい、理不尽な出来事。
でも、この中では見ていられた。まるで、他人事と自分事が混ざりあったような、複雑な感情ではあったけれど…。
その気泡は、やがて全てを移し終えると爆ぜた。
再び、私は暖かい空間に身を委ねる。
同じように今日の嫌なことが、気泡で浮いては爆ぜを繰り返して…。私は複雑な感情のまま見続けて、最後の気泡が爆ぜた時、一筋の涙を零した。
とたんに、暖かい空間は爆ぜて、私は意識を失った。
目が覚めた時、私は布団に包まったままだった。どけて起きてみれば、あたりは真っ暗になっていて、掛け時計がカチカチと音を立てている。
立ち上がって、制服を抜いて、ふと机の上にある物に驚いた。
一枚の水でできた便箋だった。
そこには懐かしい人の筆跡でこう書かれていた。
苦しいなら、苦しいと言いなさい。
しんどいなら、しんどいと言いなさい。
辛いなら、辛いと言いなさい。
そして、涙枯れるまで泣きなさい。
我慢はしない、ひたすらに泣いて心を洗いなさい。
そして、泣き腫らしたなら、涙の分だけ戦いなさい。
誰でもいい。
親友、
友達、
警察、
役所、
マスコミ、
相談電話
なんでもいいから叫びなさい。
文字通り、死ぬ勢いで行きなさい。
そして輝かしい未来を掴みなさい。
頼るのは良いこと。考えが及ばないなら、頼りなさい。
妥協、遠慮、はいりません。
アナタノオモイヲブツケナサイ。
読み終わると便箋は水へと戻る。
私は便箋とハサミ、死ぬために買ってあった包丁を取り出して、いつもの鞄に詰める。
泣き腫らした、もうどうなってもいい、次は戦ってやる。
終わるくらいなら、終わらせてやるべきだ。
この理不尽な世界を。
復讐が復讐を生むのは、戦争だけだ。
復讐には復讐を。
社会的な復讐を。
他人を巻き込むな?
結構、結構、巻き込むことの何が悪い。
傍観者でいたなら、それはもう加害者だ。
最低災厄て、周りを全て叩き落として、絶望の深淵の淵へ誘って…。
誘いのダンスを踊ってやる。ファンファーレを奏でてやる。
気をつけるがいい、諸君。
人間は 詰まるところ動物 なのだよ。
猫には猫の、犬には犬の、戦いがある。
人間には通じない?馬鹿を言うな。
もう一度いう。人間は 動物 だ。
やってやれないことはないのた。
私はそう言って部屋のドアを閉めた。
私は夢から覚めた…。夢まではいかないにしても行動を起こそうと決めた。
あのまるで涙のガーデンクリスタルの中での出来事のようなことを、起こさないために。
涙のガーデンクリスタル 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki
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