第八話 欲しいものは全て手に入れる。それが恋よ!
夏休みに入って一週間。オレは財布の中を見て落胆した。
夏休みの軍資金が足りない。
これから海に夏祭りとイベントは盛りだくさんなのに……。なんか日雇いで時給のいいバイトとかないかな……。
そんなことを考えているとスマホが小刻みに震え、着信を知らせてくる。
「もしもし」
『おう、俺、俺』
「オレオレ詐欺ですか? うちに息子はいません。それでは」
『おい、俺だって。白夜だよ。分かってんだろ』
「で、用件はなんだ? しょうもないことだったらすぐ切るからな」
『いいバイトあるんだけどお前やらね? 』
「……詳しく聞かせてくれ」
こんなタイムリーなことがあるか。ちょうどバイトしたいなと思っていたところにこの話だ。部屋にカメラでも仕掛けられてるんじゃないかって怖くなってしまうぜ。
『俺の知り合いがやってる店なんだが、そこのパートさんの子供が夏風邪をひいたらしくてな。その人の代わりを他のパートで埋めてるんだが、どうしても明日だけ誰も入れなくて困ってるらしいんだよ』
「それは大変だな。オレで良かったら行くぞ。ちょうどバイトしたかったし」
『さすが! 達也くんならそう言ってくれると信じてました』
「なんだよその喋り方、気持ち悪いからやめろ。で、そのバイトってなんの仕事だよ」
『バイトについては大橋が知ってるから』
「なんで心菜が知ってんだよ」
『それは大橋も明日お前と一緒にバイトするからだよ』
「は? 」
『この話をお前より先に大橋にしたら、お前が行くなら行くって言うからさ』
「心菜が行くなら俺いらないじゃん」
『話聞いてたか? お前が行かないなら大橋も行かないって言ってんだよ』
「でもそうしたら二人になっちまうぜ」
『それは大丈夫。元々二人探してたから』
「お前、説明が足りなさ過ぎるだろ。もっとちゃんと説明しろよ」
『まあ、そういうことなんで。明日朝九時に大橋と一緒に行くように。じゃあ』
「おい……」
切りやがった。あいつ全く説明なしかよ。でもまあこれでお金の問題も少しはマシになりそうだな。
この時のオレはこれが白夜の罠だとも知らずに呑気に浮かれてしまっていたのだった。
1
翌朝。夏休みに入って数日ぶりの早起き。睡眠時間は普段の学校の時と同じはずなのに全然寝た気がしない。まだまだ寝れる。
眠たい目を擦って身支度を整え、八時過ぎに家の前で心菜と待ち合わせする。
「おはよ、眠たそうだね」
「しっかり寝たはずなんだけどな」
「それじゃ行こっか」
「白夜に何も聞いてないんだが、そもそも今日はなんのバイトに行くんだ? 」
「行けばわかるよ」
行き先も知らないオレはただ黙って心菜の後ろをついて行く。
そしてたどり着いたのはショッピングモールだった。
このショッピングモールはここら辺で一番大きなショッピングモールで地域の人はもちろん。うちの学校の生徒もよく放課後に遊びに来たりと頻繁に活用している。
中に入るとまだ開店前だからだろう。いつも人でいっぱいのモール内は開店準備をしている従業員と食料品売り場に人がちらほらといるだけで入口から反対側の入口が見えるほどガラガラだ。
「こんなにガラガラなモールを見るの初めてだわ。なんか興奮するな」
「確かに。ちょっと中の人って感じでいいよね」
オレも心菜もバイトは人生初めてだ。こういう店の背景知ると自分も知った側になったみたいでなんだかワクワクする。
さて、オレたちがバイトする店はどこだろう。
一階の食料品売り場――――は素通りで二階へのエスカレーターに乗る。
そして二階のフードコート――――を通り抜けた。
「一体どこに向かってるんだ? 」
「ん? ここ」
心菜が指さしたのはフードコート横の普段、一番人通りの多いエリアに位置する下着屋。正確には女性専門のランジェリーショップだった。
「……ここ? 」
「ここ」
……白夜のやつ、わざと黙ってやがったな。
白夜が
ただ、分からないのはなぜ白夜はオレにこの仕事をさせたかったのかだ。ただオレがランジェリーショップで狼狽える姿をみたいがためだけにあいつがここまで動いたのか? ないとは言いきれないが目的はもっと別にあるような気がする。
まあ、どっちにしろあいつは許さねぇ。
そんなことを考えて店の前に立っているとランジェリーショップの中から高身長の女性が姿を現した。
「君たちが今日ヘルプで来てくれた大橋さんと天国くん? 」
「はい……」
「OK。私店長の
「わかりました」
店長の何をしたらいいかを明確にして指示をする姿に優秀を感じながら店の奥へと歩いていく。
店内奥のバックルームは中央に置かれたテーブルと椅子、壁際にあるロッカーだけのシンプルな空間だ。
「これじゃない」
テーブルの上に用意されていた二人分の制服を持ち、心菜がこちらに振り返る。
「ちゃっちゃ着替えるか」
「おっ、たっちゃんやる気だね」
「白夜の思い通りになってたまるか」
そうだ。ここで恥ずかしかっていては白夜の思うつぼ。なにもやましいことをしてる訳じゃないんだ。正々堂々仕事してやる。
制服に着替えてバックルームから出ると店長が一人で店内を行ったり来たり。
「着替え終わりました」
「OK。じゃあ大橋さんは私と品出しを。天国くんはそこのマネキンを店の入口に運んでこれ着せといて」
店長から受け取ったのは上下セットの水色のランジェリー。
(落ち着け。これは仕事、これは仕事)
そう自分の言い聞かせ動揺を鎮める。
マネキンを店前に運び、ランジェリーを着せるため今着ているランジェリーを脱がす。
「なに、相手はマネキンだ。緊張する方がおかしい」
口に出して自分に言い聞かせ、作業に移るが初めて触るランジェリーの肌触りに敏感に反応してしまう。
(なんだこれ。男用下着と違って布がツルツルサラサラしている。触っていて気持ちいいがそのせいで余計に女物だということを意識してしまう)
プルプル震えた指先ではなかなかブラのホックが外せず脱がせるのに時間がかかる。
開店まであと十分。急がないと間に合わない。
なんとかマネキンを着替えさせ、店内に戻ると店長たちも作業が終わったらしく一息ついていた。
「おつかれ。と言っても今から営業なんだけどね」
レジは店長、接客はオレと心菜が担当することになったため商品の周りを歩き、営業時間になるのを待つ。
それにしても……。どこを見渡しても下着、下着、下着。目のやり場に困る。
「営業開始! 」
隣の店からそんな声が聞こえ、しばらくするとエベレーターとエスカレーターから人が雪崩のように押し寄せてくる。さっきまでガラガラだったモール内は一瞬で客で溢れかえった。
もちろん客はうちのランジェリーショップにも訪れ、店内の商品を見て回る。
「ちょっと店員さん! 」
「は、はい! どうなさいましたか……」
まるでモデルのような美人で背の高い女性客に声をかけられた。
「男性的にはこのフリルの付いた可愛いピンクの下着かこっちのちょっとエッチな黒のレースの下着どっちが脱いだ時に着ててドキッとするのかしら……」
(えー! ランジェリーショップの店員ってこんなこと聞かれるの! )
「ど、どちらもお似合いになるかと……」
なんて答えるのが正解か分からずとりあえず安牌をとる。
「どっちがいいか聞いてるのよ! 」
どうやらこの安牌だと思った選択は一番してはいけない選択肢だったようでお客さんがお怒りになってしまった。
「えーと、では黒の方がよろしいかと……。私の好みですが……」
「黒ね! ありがと! 」
こうして女性客は黒い下着を持ってレジの方へと去っていった。
(まるで先生に説教されているような感覚だったな……)
開店してまだ数十分だがなんだかどっと疲れた。
「へぇー。たっちゃんは黒い下着が好きなんだー」
背後から現れた心菜に心臓を跳ね上がらせる。
「あ、あくまで店員としてあの人に似合いそうなのを選んだのであって別に俺の好みって訳じゃ……」
「でもあの人には『私の好み』って言ってたじゃん」
「うっ……」
そこを指摘されると何も言い返すことが出来ない。
「まあ、たっちゃんも男の子だしね。机の二重蓋のことだって私知ってるよ」
「えっ……」
どうして親にも内緒で自作した机の引き出しの二重蓋のことを……。
でもあそこは……
「あそこには何もやましいものは入っていなかったはずだが……」
心菜はオレを無視し、店の奥へと歩いていく。
えっ……。何も……入れてなかったはずなんだけど……
「ちょっと、何も入れてなかったよな! 」
なんだか不安になってきた……。そういえば入れたような記憶がないこともないような……。
それからオレは悶々として過ごした。
2
「OK。店も落ち着いたし、順番に休憩行こうか」
午後一時前。お客さんが隣のフードコートへと流れたタイミングで店長から声がかかる。
「たっちゃん先行っていいよ」
「そうか。じゃあ休憩いただきます」
オレは店のバックルームに戻り、制服を脱ぐと真っ先にとあるところに電話をかけた。
『現在この電話番号は使われておりません』
「おい、白夜お前どういうつもりだ? 」
『現在この電話番号は使われておりません』
「繋がってるだろ! なんの恨みがあってお前は俺にこんなことをするんだ」
『恨み? 自分が何をしたか、胸に手を当て聞いてみな。お前のせいでオレは毎日毎日あいつに――』
ようやくまともに喋った白夜だが、オレは白夜の恨みを買うようなことをした覚えはない。胸に手を当てて心当たりを探しても――。
あっ……。
「コ、ココロアタリナンテナイヨ」
『おい、動揺してるのバレバレだぞ』
額から滲み出てくる汗を拭い、一つ深呼吸をする。
『お前のせいで俺の夏休みは散々だ。どう責任取ってくれるんだ? 』
白夜がここまで怒るわけ、オレが何をしたのか。これは夏休みが始まり、神無月が帰った翌日のことだ――
オレはらしくもなく朝からオシャレなカフェでコーヒーに舌鼓を打っていた。この店は少し前に白夜のストーカーこと宇佐美きなこにラブレター(偽)で呼び出されたあのカフェだ。
オレがなんでこのカフェをまた訪れているかというとそれはもちろん宇佐美きなこに半脅迫気味に呼び出されたからだ。
有名人というのはやはり大変らしく、プライベートでこそ人目を気にして行動しなければいけないため、この個室のあるカフェは重宝するらしい。
そして待ち合わせから十五分。きなこは姿を見せた。
待たせたくせに何も言わず座るきなこにカチンと来たオレは一言言ってやることにした。
「遅れてきてごめんのひとつもなしか」
「は? 逆に遅れてきてくれてありがとうと感謝して欲しいぐらいだわ。この世紀の美少女、宇佐美きなこと喋るなんて心の準備なしじゃ心臓が何個あっても足りないでしょ? 」
……こいつ
この自意識過剰ぷりはもはや呆れを通り越して尊敬するわ。
まあ実際、最近ではCMに出るほど人気でそれこと世間では百年に一度の美少女などと言われているみたいだしな。
もういいか、と話を進めようとしたところできなこは何かを思いついたようで一瞬ニヤッと不気味な笑みを見せる。
「そんなんだからモテないんですよー。あっ! モテてはいるのか。優柔不断なだけで」
……
内心、一年も本当に待たせていいのか? みんな本当はこんなオレに呆れているんじゃないか? と思い始めていた。それも相まってこのきなこの言葉はオレの心に深く突き刺さった。
……。
「それじゃあ早速本題だけど。白夜様の夏休みのスケジュールについて教えてもらうわよ」
これはさすが芸能人と言うべきか、地雷を踏んだことに気づき、すぐに話題を変える。意図的にしているのか、それともただの空気の読めない自己中なのか。こいつだから分からないが、おかげで辛気臭い雰囲気になることは避けられそうだ。
「ああ、一応今決まってるだけの予定は絞り出して来た」
きなこの飲み物とパフェが運ばれて来るとオレはきなこに白夜の情報をリークした。
十分ほどかけ、詳細まで長々と話したところできなこの電話が鳴った。
「もしもし、小瀧? 」
どうやら相手はきなこのマネージャーの小瀧さんのようだ。
「……うん……うん……えっ! 」
きなこはいきなり立ち上がり荷物をまとめ始めた。仕事のことでなにかあったのだろうか。
きなこはそのまま電話をしながらオレに片手だけ上げ、個室から出て行った。
きなこが去ってから十分。帰ってくる気配が一向にないきなこに全てを悟ったオレは恐る恐る伝票をみた。
オレの前にあるコーヒーのカップ一つとその奥にある空になったジュースのコップとパフェの容器。これだけで三人の英世さんがオレの財布からいなくなってしまった。
いくらオレよりお金を持っているからとはいえ、後輩の女子に後からお金をもらうのはなんだかかっこ悪くて躊躇われる。これはいい人生経験だったと思って諦めよう。だが、次から絶対にあいつの呼び出しに応じてやらねぇ。たとえ脅されてもだ。オレはそう心に強く誓った。――ということをしていたのを今思い出した。
どうやら白夜は夏休みもきなこに付きまとわれて迷惑してるようだ。まあ全部オレのせいなんですけどね。
『全部思い出したようだな。オレになにか言うことはないか? 』
「ご愁傷さま」
『おし、やっぱりお前は俺の思った通りのクソ野郎だったわけだ。これでさっき仕込みも良心が痛まずに済みそうだ』
「おい、なんだ仕込みって! 」
『ご愁傷さま』
プープープー。
白夜そう吐き捨てて電話を切った。
仕込みってなんだ……。白夜を敵に回したことを若干後悔しつつ、オレはお昼ご飯を食べるためにフードコートへと向かった。
3
一時間の休憩をし、店に戻ると入れ違いで心菜が休憩に行った。
店内はちょこちょこ人がいるだけでこれならオレと店長の二人でも何とかなりそうだ。
「あのーすいません」
店内を歩き回っていると背後から声をかけられた。
「はい、いかがなさいましたか」
振り返るとそこにはオレのよく知っている顔があった。
「会長! なんでここに」
「いやー、達也くんたちがここで臨時バイトしてるって聞いてね。面白そうだから来ちゃった」
きっと白夜の言っていた仕込みとは会長のことだったのだろう。っていうかなんであいつが会長の連絡先を知ってるんだ?
そんなことはさておき――
「せっかくだし、私になんか一着選んでよ」
会長はオレの手を引き、店の下着を見て回る。
「うわー! ねぇねぇ、これ見て」
そう言って会長が手に取ったのは付けても肌色が浮き出てきそうなほど薄い、透け透けの白い下着だ。
「これすっごいエロいね」
服の上から下着を当てて鏡で確認をする会長を見ているのが恥ずかしくなり視線を逸らした。
「あれれ? もしかして達也くん、私がこれを付けた時のことを考えて照れてる? 」
「からかわないで下さいよ」
オレの顔を覗き見る会長と目を合わないように視線を逃がす。
すると視線の先にまたもや見覚えのある顔を見つけた。
「彩乃先輩? 」
声をかけると彩乃先輩は肩をビクンと飛び上がらせ、ゆっくりこちらに振り向いた。
「や、やあ、こんなところで会うなんて奇遇だね」
口調からも明らかに動揺した様子の彩乃先輩はオレと話しているようで後ろの会長に目で何かを語りかけている。
「あら、彩乃ちゃんも来たんだ。そりゃあんな連絡がきたら来ないわけにはいかないよね」
あんな連絡って、白夜のやつ一体どんなメールを送ったんだか。
この時のオレは呑気すぎた。まさか、この後あんなことが行われるなんて……。
4
時刻はもうすぐ三時を過ぎようかという頃、オレは三十分ほど三年生二人に連れ回され、心身ともに疲れてきていた。
「ただいまー」
休憩に行っていた心菜が帰ってきたかと思うと隣には辻野の姿もあった
「なんで辻野もいるんだ」
「たまたまフードコートで会って、一緒にご飯を食べてたんだ」
「そういうこと」
まあとりあえず心菜が帰ってきたなら安心だ。二人のことを任せてオレはちょっと奥の方に行こう。
そう思った矢先さらに二人組の客が来店した。
「いらっしゃいませ……ってお前ら」
来店した二人組の客は琴美と神無月だった。
「なんでお前らまでここに」
あまりにも出来すぎている。まさか――
そう思った瞬間。店の隅にいる黒百合を見つけた。
「おっ! 全員揃ったみたいだね」
会長はみんなを集め、高らかに宣言した。
「では役者も揃ったことですし、始めますか! 第一回下着ファッションショー! 」
「か、会長、一体何をするつもりですか……」
「ん? 今言ったまんまだよ。みんなで下着を付けてファッションショーをするの。あっ、審査委員長は達也くんね」
下着のファッションショーなんて聞いたことないぞ。しかもオレが審査委員長なんて……。
「そんな迷惑になりますよ――」
チラッとレジに視線をやり、店長の助けを求めるが、返ってきたのはグッドサインだけだった。
そういえば店長も
こうして流れのまま女子七人によるファッションショーが始まった。
「エントリーナンバー1番七星渚! 」
いつの間にか隣に座っている店長の合図で試着室のカーテンが開かれる。
「おー! これはエロい! 到底高校生とは思えないですね! 」
出てきた会長はさっき見ていた肌が透けそうな白い下着を付けて出てきた。
あまりのセンシティブさに顔を背けると店長から感想をもとめれる。
「さあ、審査委員長の天国くん。どうですか」
「えっ、いや、さすがにこれは……」
会長らしくて似合ってはいるけどさすがに男子高校生には刺激が強すぎる。
「はい。ということでありがとうございました。続きましてエントリーナンバー2番辻野玲奈! 」
開かれたカーテンから出てきたのはザ・普通という感じの白い下着を付けた辻野だった。だが、そのシンプルさ故に辻野自身がより際立つというか……。
「いやー、清楚をそのまま具現化したかのようですね。どうですか審査委員長の天国くん? 」
「……」
いつもの辻野とのギャップで本当に見てもいいかのと心配になってしまうが一言でいうと本当に清楚そのものだ。
「さあ、どんどんいきましょう! 続いてはエントリーナンバー3番西宮彩乃! 」
彩乃先輩は水色の下着を付けて試着室から現れた。
「おー! なんと素晴らしいプロポーション! どんな下着も似合いそう! うちでモデルとして働いて欲しいわ。ねぇ! 天国くん」
「えっ、はい! いいと思います」
「おーと、ここで初めて天国くんから賞賛の声が! そろそろ下着姿を見るのも慣れてきましたか? 」
「いや、全然慣れませんよ……」
店長が次にいこうとした瞬間。店の方から店員を呼ぶ声が聞こえた。
「あー、私行くわ。先進めといて」
そう言い残し店長は店内の方へ去っていった。
えー、今からオレ一人でこれやるの……。
心配もつかの間。着替えた会長が店長のいた席に座った。
「はーい。ここからは私が司会を務めさせていただきまーす。続きましては二人での出演を希望致しましたエントリーナンバー4番と5番天国琴美と神無月澪! 」
出てきた二人は琴美がピンク、神無月が黄色の色違い下着で現れた。
「おー、美少女二人の下着姿。これは絶景ですね! 」
「会長。おっさん臭いですよ」
オレもこの状況に慣れてきたのかそんなツッコミを入れれるぐらいには落ち着いてきた。
「そしてエントリーナンバー6番八代黒百合! 」
出てきた黒百合はこれまでの五人とは一転。スポーツブラジャーでの参戦だった。
「スポブラ! 達也くんはスポブラはどうですか? 」
「うーん、やはりスポブラにはスポブラの良さがありますよね」
「うわっ……」
「乗ってあげたんですから引かないでくださいよ! 」
まるでオレが変態みたいじゃないか。(彼は変態です)
「そして最後の出演者! エントリーナンバー7番大橋心菜! 」
カーテンを開け、出てきた心菜はオレが今朝女性客におすすめした時の黒い下着を身に付けていた。
「おー! ここちゃん珍しく攻めたね! 」
「……」
自分のおすすめした下着を同級生の女の子が付けているという状況にオレはとてつもなく緊張し、汗が出てきた。
「さーて、全員のお披露目が終了したわけだけど……審査委員長の達也くんは誰の下着姿が一番良かった? 」
「えっ、俺ですか? ……」
「もちろんそうだよ! だって審査委員長なんだからさ」
どうやっても逃げられなさそうなこの空気。オレが良かったと思ったのは――
「じゃあ……心菜で」
「えっ! 」
心菜自身も驚いた表情でこちらを見る。
「あらー、私じゃないのかー。こりゃ残念。ちなみに決めてはなんだったんですか? 」
「決めて……いや、それは言えません! 」
言えない。自分の好みの下着を付けてくれたことにドキドキしたなんて……。これじゃまるでドが付くほどの変態じゃないか……。(彼はド変態です)
「ふーん、まあいいや。でもこれであの優勝賞品はここちゃんのものかー」
「ん? 優勝賞品? 」
聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
「あれ? 聞いてなかった? 優勝者には達也くんと一日デートできる権利が与えられるんだよ」
「いや? 初耳なんですが……」
「清水くんが絶対達也くんは俺の言うことを聞かないといけない状況にあるからって」
白夜の野郎、なに勝手に決めてんだ。
ただ、白夜が勝手にやったことだとしてもみんなには罪はない。ここで優勝したのに何もなしだとみんなも肌の曝し損だ。
「わかりました。じゃあデート行くか、心菜」
「う、うん! たっちゃん、嬉しい! 」
その後、ファッションショーは解散となり、オレたちも五時に仕事を終えた。
「今日はありがとね! これ、今日のお給料」
「「ありがとうございます! 」」
お給料をもらい、店を出ると心菜は何かを思い出したようで店へと戻って行った。
「おまたせ! 」
数分で店から出てきた心菜の右手にはこの店の袋が携えられていた。
「なんか買ったのか? 」
「ん? ちょっとね。行こ! 」
心菜に手を引かれオレたちは家へと帰った。
5
家に帰った私は早速今日のお給料で買った下着を付けて鏡の前に立った。
(さすがに攻めすぎたかな……。けどたっちゃんも良いって言ってくれたし)
あのファッションショーで優勝した時のことを思い出し、思わずにやけてしまう。
優勝賞品の一日デートで行きたいところやしたいことはたくさんあるが、この賞品を聞いた時から使い道は既に決めていた。
(これで、たっちゃんをメロメロにしちゃうんだから)
少しずるくても欲しいものは必ず手に入れる。それが私の恋の戦い方だ。
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