第五話 名探偵達也登場!?

 いつも通りの何気ない昼休み。サンドイッチを片手にパックのコーヒー牛乳に舌鼓を打っていると白夜からコーヒー牛乳を吹き出しそうになるような話を切り出された。

「実は最近、誰かにつけられてるんだ」

「……は? つけられてるってなんでだよ。万引きでもしたのか? 」

「お前、俺が万引きするような人間だと思ってたのか……割とショックだぞ」

「まあ、万引きのことは置いといて。なんでお前がストーカーされてるんだよ」

「知らねーよ! 」

「お前の気の所為なんじゃないのか? お前自意識過剰なところあるし」

「それは絶対ない! これを見てくれ」

 白夜は自分の席からカバンを持ってくると机の上にカバンの中身をばらまいた。

 カバンの中身は大量の手紙で軽く見積もっても二十枚はあるだろう。

「なんだこの手紙、脅迫状か? 」

 オレは一番手前にあった手紙を一つ手に取り、封を開けて中身を確認する。

 中には一枚の便箋が入っており、文字がびっしりと書き綴られていた。

「えーっと、窓辺の王子様へ? 」

 導入から常軌を逸しているがこれより先はさらに異常だった。何が書かれていたか、簡単に言うと白夜の観察日記だ。

 もちろん、白夜は観察対象で内容はその日、白夜に起こったこと。その時自分がどう思ったのか。それが延々と便箋の下まで書き綴られていた。

「……情熱的なラブレターだな」

「ラブレター? 冗談やめてくれよ。言うならさっきお前が言った脅迫状の方が近いわ」

 だが、これは確かに脅迫状並に怖いな。なんてったって内容があまりにも正確かつ細かすぎる。朝、白夜が登校してきた時間。授業中に起こった出来事まで把握されており、まるで白夜にGPSと盗聴器が仕掛けられているみたいだ。

 オレは残り一口のサンドイッチを口に放り込み、それをコーヒー牛乳で流し込むと席を立ち上がった。

「それじゃ、大変そうだけど頑張れよ」

 こういうのは関わらないのが一番。あくまで他人事だとその場を去ろうとするオレの肩に白夜の右手がそれを阻止するかように置かれる。

「貸し、あったよな」

 どうやらあの時の借りはあの時無理して食べたスイーツよりも高くついてしまったみたいだ。

「……俺は何をすればいい……」

「それより先にこれまでのことを詳しく話そう」

 オレは席に座り直し、事の発端を聞くことにした。

「これは二週間前の話だ。朝、学校に登校して自分の下駄箱を開けると中に手紙が入ってたんだよ。内容はお前がさっき見たやつとほぼ同じだ」

「……お前、二週間も前からやられてたのか」

「うっせ、黙って聞け」

 なんだろう……。とりあえず、こいつ殴っていいですか?

「それで、その日の帰る時にも手紙が入ってたんだよ。けど、名前が書いてないから誰からのか全然わっかんねぇーし。その日から一週間それが続いてたから俺は犯人を突き止めることにしたんだよ」

「はあ? 」

「俺は早く登校して下駄箱を見張ったり、帰り道にいきなり振り返ったりと色々したんだ」

「それで、犯人はわかったのか? 」

「俺がお前にこうして下げたくもない頭下げて頼んでる時点でわかるだろ」

 一度も頭を下げられた覚えはないが……。

 でも確かにな。オレを頼ってる時点で事件はまだ解決してないというのは明白だな。

 白夜が一人で片付けられないほどの難題か……。

 正直、こいつはゴミでカスで最低だが、能力はそこらの高校生とは比べものにならないほどずば抜けている。大抵の事は一人でできるし、頭も切れる。スペックだけでいうなら生徒会のメンバーを入れても一、二を争うレベルだ。

 そんな白夜が一人じゃ手に負えないと思った程の難題。

 ……正直自信ないなぁ。

「今回の件、俺で力になれるか? 」

「多分だが、この犯人は人の視線にものすごい敏感なんだと思うんだよ」

「なに故? 」

「俺が早く登校して下駄箱を見張ってた日は俺の下駄箱に手紙を入れようとする人物はいなかった。だが、下校時には手紙が入っていた。それも朝も分も合わせて二枚」

「たまたまその日は寝坊して遅刻してきただけじゃないのか? 」

「いや、それが一度じゃないんだ。これまで計三回全部空振りだ」

 三回もドンピシャで入ってなかったとなるとさすがに偶然ではなさそうだな。

「それでお前は俺に頼ってきたってわけだな」

「ああ……」

「俺は何をしたらいい? 」

「犯人の特定だ」

「無理」

「ケーキにアイス。美味しかったよな? 」

「くっ……」

 なにか裏があるとは思っていたが、ここまでの見返りを要求してくるとは。海老で鯛を釣るとはまさにこのことだな。まあ鯛はマグロへとグレードアップされてるがな。

 結局オレは白夜にうまいこと言いくるめられ、この事件の探偵役とされてしまった。



1



 家に帰ると玄関に両親の靴が並べられていた。

「おかえり~、My Son~」

 リビングの扉を開けるとそんなオペラ調で一番にオレを出迎えたのはオレの父さんだった。

「ただいま。今日帰ってくるって言ってたっけ? 」

「おや、まさか明日のことを忘れたのかい? 」

 明日? なんかあったっけかな? 

「おいおい、嘘だろ。明日は一年で一番大切な日といっても過言じゃない日だぞ」

 本当に心当たりがないんだが。

 父さんはやれやれと呆れた表情でため息をつく。

「明日はな……父さんと母さんの二十回目の結婚記念日なんだよ! 」

 父さんはそう言うと台所で晩御飯の支度をしている母さんの元へ駆け寄り、後ろから抱きついた。

「ゆーみこ! 」

 いきなり抱きついてきた父さんに驚いた母さんは一瞬肩を跳ね上がらせた。

「ちょっとー、私包丁持ってるんですけど……」

「オーマイガー! 」

 母さんの持っている包丁の存在に気が付いた父さんは慌てて離れようとするが母さんの手がそれを制止する。

「包丁置けば危ないくないからやめないで……」

「裕美子……」

 二人は目を閉じ、お互いの体温だけに意識を集中させる。

 ……こうなると長いんだよな。

 二人のことはほっといて晩御飯までオレは自分の部屋に籠ることにした。

 部屋に入るなりベッドにダイブし、スマホを何気なしに操作する。

「おっ! 天使寧々子あまつかねねこ配信してるじゃん」

 天使寧々子というのは最近オレが密かに推している新人バーチャル配信者だ。

 ゲームの生配信をメインに活動しており、オレのやっているFPSを配信しているのを見てすぐにファンになってしまった。

 今月のお小遣いはこの天使寧々子の配信中にした投げ銭(ギフティング機能)で消えていった。

『それじゃあ、そろそろ晩御飯の時間だからまた後でねー。バイバーイ』

 配信を見始めて三十分ほどで晩御飯のため、一旦配信が終わり、オレもそろそろ出来上がるだろう晩御飯を食べにリビングの食卓へと向かう。

「今日の晩御飯はハンバーグよー! 」

 食卓に家族全員が揃うとみんなでハンバーグを食べる。

 出来たて熱々で噛む度に中から肉汁が溢れてくる。控えめに言って絶品。

 オレがハンバーグと白米を口いっぱいに頬張っていると父さんが俺に聞いてきた。

「そういえば、達也はパソコン要らないのか? 」

「パソコン? 別になくて困ることはないかな。どうして? 」

「琴美が最近授業でパソコンを使うから買ったんだが、達也は授業で使わないのかな? って思ってな」

「俺は別にそんな授業ないな」

「そうか。要らないならいいが、欲しくなったら買ってやるからな」

「ありがとう」

 その後の話によると琴美はウン十万のパソコンを買ってもらったらしく、少し羨ましく思った。

 自分の部屋に戻ってスマホを見るとちょうど天使寧々子の配信が再開したタイミングだった。

 明日の予習がまだだったオレは配信をラジオ代わりにしつつ予習をする。

『今日の晩御飯はハンバーグでしたー。肉汁いっぱいでめっちゃ美味しかった』

 たまたま天使寧々子の晩御飯もハンバーグだったらしくオレは一緒に食べたような気分になってなんだか嬉しくなった。

 推しとご飯が被るというのは、いわばテレビで食べ物の特集がやっていて、その時に自分のご飯と取り上げられているご飯が一緒だった時のような、なんだか得した気分になるのだ。

 予習を一時間程し、ベッドでゴロゴロ配信を見ていたが時刻が二二時を過ぎたことに気づくと配信も半ばに寝ることにした。

 それもこれも全ては白夜のせいだ。

 明日は犯人特定のため、朝早くから下駄箱の見張りを命じられた。

 部活動の生徒が登校してくるより前に見張りを始めないといけないため、七時には学校に着かなければならない。

 普段七時半に起きているオレにはなかなか辛い命令だ。

 これまで白夜も同じことをやって犯人特定には至らなかったことを棚に上げ、なんとかその命令を取り下げてもらおうと思ったが本人じゃなければいけるかもしれないと言われ、結局言いくるめられてしまった。

 正直、明日になってほしくないなと思いつつ、オレは瞼を閉じ、眠りについた。



2



 探偵の朝は早い。

 朝は六時に起き、六時半には家を出て学校へ向かう。

 学校到着時、時刻はまだ七時になっておらずまだ正門が開いていない状態だった。

 七時になり、正門が開いてすぐに下駄箱からビオトープを挟んで反対側の校舎に向かった。

 ここはオレたち二年A組の下駄箱まで一切、障害物がなく下駄箱を一望することができる。我ながら完璧な位置取りだ。

 オレは持ってきたあんぱんと牛乳を食べながら双眼鏡で怪しい人物が現れるのを気長に待つことにした。

 あんぱんを食べながら張り込みをしている今のオレの状況を見たらまるで探偵ごっこを満喫しているかのように見えるが、そんなことは微塵もない! ……こともない。実はちょっとだけ楽しかったりする。

 だが、これは仕方がないことなのだ。男とはそういう生き物なのだから。

 張り込みを始めて三十分が経ち、部活の朝練に来た生徒がチラチラ現れたが、誰も白夜の下駄箱に近づく者はいなかった。

 その後、続々と登校して来た生徒全員を注意して見ていたが、一人も白夜の下駄箱に何か入れたりする素振りをした者はおらず、朝の張り込みは空振りに終わった。



3



 一日、周りの視線や行動を意識をして過ごしたが手がかり一つ掴むことができず放課後を迎えてしまった。

「はぁ…」

 一日の疲れと明日もこれが続くのかと思うと自然とため息が出てしまう。

 今日は生徒会の集まりはないので教室を出てすぐに下駄箱に向かった。

 ガチャッ。下駄箱を開けると中には自分の靴と一枚の赤の封筒が入っていた。

 これはもしや、ラブレターと言うやつでは! 

 恐らく、人生で一番のモテ期の今ならありゆる。

 周りにこちらを見ている人がいないことを確認し、こそこそと手紙を開ける。

『天国先輩へ どうしてもお話したいことがあります。駅前のカフェで待ってます』

 ふむふむ…。! 

 これはラブレター確定でいいでしょ! 先輩呼びってことは年下かー。

 モテ期絶頂のオレは周りにバレないように小さくガッツポーズをした後、スキップ気味の歩調で学校の門を通り抜けた。



4



 駅前のカフェは横を通る度に一瞬視線を持っていかれるほどオシャレな外観をしており、オレ自身、中に入るのは初めてだった。

 中に入ると外のオシャレな雰囲気に加え、高級感まであり、一端の高校生が気軽に入っていいものかと戸惑いを隠せない。

「天国達也様ですね。こちらへどうぞ」

 入店後、間も無くして現れた定員さんはオレの制服を見るなり、待ち合わせの席へと案内をしてくれ、優秀さがひしひしと伝わってくる。

「こちらです。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます? 」

 案内されたのはテーブルやカウンターではなく店の奥の個室だった。

 うーん、なんて言うかすごいところに来ちゃったな……。

 オレは中にいる手紙の女の子への期待と財布の不安が入り交じる心境で部屋の扉に手をかけた。

 扉を開くと大きなテーブルに肘をつきながらいちごパフェをつついているブルーブラックでボブの髪型をした美少女がいた。

「おっそっ」

 オレが現れたことに気づいた彼女の一言目は辛辣なものだった。

 そしてこの瞬間オレは色々察した。これ絶対告白じゃありませーん。

 その美少女は固まるオレに顎で向かいに座るように指示し、いちごパフェを一口、口に運ぶ。

「あんたもなにか頼めば」

 そう言うとオレが席に着くのも待たず、すぐさま呼び出しボタンを押す。

 ……この子いきなりあんた呼びとはなかなか強烈だな。

 オレが席に着くのとほぼ同士に後ろの扉が開き店員が顔を覗かせた。

「お待たせいたしました。ご注文どうぞ」

 注文も何もまだメニューすら見れてないんだよな……。オレはテーブルの隅に立てられているメニューを手に取りそれを眺める。

 うーん……。

「……お冷お願いします。」

 せっかくいい店に来たのだからコーヒーの一杯でも飲みたいところだが、あいにく財布の中にはコーヒー一杯飲むことすら出来ない程度しかお金が入っていない。

 メニューを閉じ、できるだけ気配を殺して店員が去るのを待つ。

 店員は無料のお冷だけを注文したオレに嫌な顔一つせず、かしこまりましたとこの場を去ろうとする。

「チョコパフェ」

 そんな神対応をしてくれた店員にまるで命令をするかのごとく追加オーダーをする向かいの美少女。

 一瞬の静寂が訪れ、空になったいちごパフェの容器にスプーンがカシャンとぶつかる音だけが鳴り響く。

「……! かしこまりました。チョコパフェとお冷直ちに持ってまいります」

 そう言うと店員は駆け足気味に去っていった。

 店員さん、うちの生徒がごめんなさい。

 絶対に謝らないであろう向かいの美少女に代わって心の中で謝っておいた。

 それにしてもこの子態度悪いな。この子に出会ってまだ一分程だが既にオレはこの子が若干嫌いだ。

「天国達也先輩でいいんだよね? 」

「あぁ、君は? 」

 自然な流れだったはずだがそう言うと彼女ははぁー。と一つ大きなため息を漏らす。

「先輩ってあんまりテレビ見たり、流行りに乗れてない人でしょ? 」

「いや、そんなことないと思うけど……」

 ご飯の時は基本テレビを見ながら食べるし、学校でも昨夜のドラマの話をしたりすることだってある。

 オレが否定していることに対しやれやれといった表情で彼女は首を振る。

「どうやら私の思い過ごしだったみたいですね」

 そういうと立ち上がり彼女は胸を張り言った。

「私は今をときめくアイドルの宇佐美うさみきなこですよ! 」

 そうすると後ろでガシャンとガラスが割れる音がし振り向くとさっきの店員が手からお盆を落とし固まっていた。

「う……う、宇佐美きなこー!!! 」

 静かな店内に店員の歓声が響き渡る。すると静かだった店内が徐々にざわめきだし、店内の客から『宇佐美きなこ』と囁き声が聞こえてくる。

 オレはスマホを取り出し『宇佐美きなこ』で検索をかけてみる。

 宇佐美きなこ。現役JKアイドル。ファンクラブの人数は三万人を超え、SNSの総フォロワー数四十万人越えの今一番勢いのある新人アイドルだ。と、某インターネット百科事典に書かれている。

 ネットにある写真と見比べてもそのまま。本当に画面の中から出てきたという感じだ。

 だが、一つネットに書いてあることと異なるところがある。それは宇佐美きなこが萌えキャラであるということだ。

 ネットの動画などではいい子ぶりっ子している彼女だが実際は愛想も態度も悪いではないか。

 現に彼女は面倒なことになったと頭も掻きむしり、その姿は到底アイドルとは思えない。

 きなこはテーブルに五千円を勢いよく置くとオレに一言、来いとだけ言って店を出ていく。オレは言われた通り彼女の後を追った。

 連れてこられたのは人気のない路地裏だった。

「ここでいいわ」

 そういうと振り返りオレと向き合った。

「場所も場所だし、手短に要件だけを言うわ」

 きなこはそういうと指を一度パチンと鳴らす。すると数秒後、路地裏の奥の物陰から黒いスーツを身にまとった大人な女性が姿を現した。

 一瞬、何それかっけぇ。と思ったがよくよく考えると人気のない路地裏で指を鳴らして出てくる大人なんてカツアゲかヤクザの喧嘩の時ぐらいでしか見れないものだろう。

 ボクはとりあえず今の状況的に自衛のため不細工ながらも臨戦態勢とる。

「あんたなにしてんの? 」

「え……? 」

 構えたボクを見たきなこは不思議そうにこちらを見て首を傾げている。それを見てボクもさっきまでの緊張感のある雰囲気から一転、ポカンとアホ面を晒してしまう。

「なんか勘違いしてるみたいだけど、彼女は私のマネージャーの小瀧こだきよ」

「……マネージャー? 」

「お初にお目にかかります。私、きなこのマネージャーの小瀧です」

「どうも……」

 丁寧な自己紹介にボクも会釈で返す。

「それで小瀧、白夜様は? 」

「はい。清水様は先程学校を出てご帰宅されました」

 この時、オレの中でこれまでの出来事に一本の筋が通り一つの仮説が立った。

「あの……、もしかして毎日白夜の下駄箱に脅迫じょっ――、熱烈な手紙を入れていたのって……」

「私よ」

 どうやらオレの仮説は正しかったようだ。オレは手紙の送り主の正体を暴いたのだ。

 やっと面倒事が片付いたという達成感に浸っているときなこがオレの超至近距離まで間隔を詰めてきた。

「私と白夜様の橋渡しをして欲しいの! 」

 なんて面倒な頼み事をしてくるんだこいつは! と思ったが……

「は、はい……」

 上目遣いはズルいでしょ! 

 オレはアイドルのガチ恋距離上目遣いにいともたやすく釣られたのだった。



5



 ここからは後日談になるがそもそもなぜ、きなこは白夜を好きになったのかだが、これはロマンチックの欠けらも無い割としょうもないものだった。

 ある日の放課後、クラスの罰ゲームでゴミ捨てをしに中庭のゴミ捨て場に行っていたきなこがふと校舎を見ると窓から中庭を見ていた白夜を見つけたらしい。その時たまたま目が合ったため、きなこがファンサービスの気持ちでウインクをしたらしいのだが白夜はなんの反応なくどこかに行ってしまったらしい。それがきなこのプライドに傷をつけ、白夜のことを色々調べているうちに自分が好きになってしまったらしい。

 きなこに会った翌日、白夜にきなこのことを紹介することになったのだが、一応会ってみて失望させてしまったら可哀想だと思い、白夜のクズなところや他校の女子と遊んでいることなどを伝えたが恋は盲目というのだろうか。女遊びをしていることでさえ、きなこはたくさんの女性にモテる魅力的な男性ということですね。とプラスに言い換えてしまった。

 そしていざ二人を会わせてみるときなこが出会い頭に告白。間髪入れず白夜がそれを断り、彼らの第一章が終わった。

 しかし、きなこは諦める気はないようでむしろ、振り向かせたいと前よりも熱くなっていた。

 まあ、これでオレの面倒事は全て片付いたことだし、めでたしめでたしだな。――と思っていたのも束の間、オレはいつの間にか白夜を落とし隊というオレときなこと小瀧さん三人の謎のグループの一員にされていた。

 一難去ってまた一難とはまさにこのことをいうんだろうな。

 オレの高校生活はまだまだ忙しそうだ。



6



 アイドルを始めたのは中学三年生の時だった。

 周りから可愛い、可愛いと言われていたから顔には自信があったし、私のような子がアイドルになるのは必然だと思った。

 案の定、私は事務所に所属して半年でグループを結成し、デビューすることが出来た。歌や踊りはそんなに得意ではなかったけど一生懸命努力して人並みにできるようになった。

 アイドルとしてデビューする前から告白はよくされていたけど有名になってからはさらに告白されることが増えた。

 高校に入学して一ヶ月で両手の指で数えられないほど告白されたし、相手は同級生から三年生の先輩と限定的でなく誰からも愛されていて正直、女王様になったような気分だった。

 けれど、ある日の放課後、教室掃除か終わり、最後にクラスの女子数人でゴミ箱のゴミ捨てを誰が行くかジャンケンをした結果、負けた私が行くことになった。

 中庭に出ると誰かが自分を見ているような気がして校舎の方を振り返ると一人の男子生徒と目が合った。アイドルをやっていると人の視線に敏感になり、どこから見ているのか、どこを見ているのかがわかるようになった。

 目が合った男子生徒は二年生の階の廊下からこちらを見ていて、私のファンかなと思ったからファンサのつもりでウインクをしてあげた。

『どお、嬉しいでしょ。あまりに嬉しくて窓から飛び出して落ちないでよね』

 そんなことを思っていたが男子生徒は悶絶するどころか何事もなかったかのように振り返って窓辺から去っていった。

 プライドが傷ついた。私の渾身のウインクを無視するなんて許せなかった。

 まず、私を無視した男子生徒を突き止めるために休み時間の度に二年生の廊下に行って探し回った。

 見つけてからは毎日小瀧にその男子生徒のことを監視させて弱みや隙を探しまくった。

 そして毎日、毎日その男子生徒のことを考えているといつの間にかその男子生徒を惚れさせようという思考になり、私は彼を好きになっていた。

 このことを自覚したのはつい二週間前の話だ。そこからはブレーキが壊れたかのように彼一直線だった。

 毎朝匿名で手紙を書き下駄箱に入れて、お昼休憩には監視していた小瀧から午前中の彼の行動を聴き、午後一発目の授業中に手紙に書いて、五限目と六限目の休み時間に下駄箱に入れる。

 こんなことを二週間続けていたある日、私の正体を暴こうとしている存在がいることに気がついた。それは彼といつも一緒にいるクラスメイトのモブだった。

 バレることはないだろうけど万が一バレて変なことを言われたらと思うとお昼ご飯が喉を通らなかった。

 そこで私はモブを私と彼を繋ぐ橋渡しにしようと思い、モブの下駄箱に手紙を入れた。

 そのモブは想像以上の働きをしてくれ、彼に私を紹介してくれるところまでしてくれた。しかし告白の結果はあえなく失敗。本当は地団駄を踏んで、なんでだよ。と叫びたいところだが彼の前だからそれは自重した。

 けれどこんな一度振られたごときのことで諦める私ではない。振られても何度でも、何度でも告白していつか彼を振り向かせて見せる。それは私の初めての恋だ。

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