第2話
中学3年の冬だった
(25秒以内に来て)
風呂上がり自室に戻るとLINEの通知音がなった
スマホを見ると着信10件にメッセージ1件
全部流花だった
何が起きた。
(風呂はいってた、今気づいた、どうした)
返信
すぐに返信が来る
(25秒、早く)
なんだよ25秒って
流花はカップ麺を3分待てないタイプか
(急用?)
(生き死にがかかってる)
急用どころの形容でおさまらない、なにがあったんだ
(分かった分かった、25秒は無理だがすぐ支度していく)
生き死にがかかってるのなら、かけるべき電話は俺ではなく119ではないだろうかと思いながら
髪も乾かさずに着替えてすぐに家を出た
物理的に時空的に、お隣さんでもなければ25秒は不可能である
なんとかネジだかボルトさんなら25秒でいける範囲が常人よりも広いのだろうけれども
生憎こちとらごく普通の世界的アスリートでもない一般的な15歳男子
1kmないくらいの流花の家まで25秒は完全に不可能である
寒空の下自転車を急いで走らせた
頭が猛烈に冷たいというか痛い
真冬の夜に髪も乾かさずに自転車に乗るなんて明日風邪ひきたいやつ以外誰がやるのだろう
せめて乾かしてから出ればよかったと思ったところで遅かったというか、きっとそんな猶予与えてもらえないのだろうなと思った
25秒はもちろん無理だったが、三分ほどで流花の住むマンションへ着いた
エントランスでインターホンを押すと無言で解除された
5階へと上がる
部屋のインターホンを押す必要は無く、流花は玄関を開けて待っていた
「ごめんとりあえずドライヤー貸して」
「え、なんで髪も乾かさずに来たの?!風邪ひくじゃん!」
風呂上がりと伝え
その返答に、生き死にがかかってるから25秒で来いと言ったのは別人なのかと疑問を感じだ
敢えてつっこまずにひとまずドライヤーをあてて、ついでに冷えた体も温風で暖めた
「で、どしたのさ」
リビングにしょんぼりとした様子で座り込む流花に尋ねる
流花は姉の麗流(りる)さんと二人暮らしな為、この時間に訪問しても親御さんに挨拶どーこーはない
流花立ちの両親は海外にいる
今年の夏、転勤が決まったようで大学1年の麗流さんと流花を残し、両親共にシンガポールの支店へ行った
幼なじみであるからして、うちの親とも交友が長く、何かあった時の保護者はうちの親になっている
「未来君が居れば大丈夫よね 」
「そうねー、今から支える事を身につけさせておけぱ将来の予行練習になるし、保護者が必要な事柄があればあたしと旦那が居るし全然大丈夫ね 」
などと、2人の母親達はとんでもなく軽いノリだった
そんなわけで、流花に関しての事は門限がどうとか、用事がどうとかなどを差し置いて最優先に義務付けられている
親達から
困ったものだ、僕の都合は何処(いずこ)へ
「あれ?麗流さんは?」
「今日はお兄ちゃんの所へお泊まり」
お兄ちゃんとは麗流さんの彼氏の京さんの事だ
僕も面識があり、流花を妹と呼ぶのは分かるがなぜか僕を(義理)弟と呼ぶ
麗流さんと同じ大学の2年生で、何度か4人で出掛けたこともある
「だから、寂しくて死にそうだったから未来呼んだの」
兎は寂しいと死ぬとか聞いた事あるけど
流花も1晩1人で居ると死ぬ奇病なのか
「って、たまにあるだろ外泊。
その度寝るまでLINEして、電話してって来るけど今日に限って全力でなんで呼ぶんだよ」
「今日クリスマスイブだよ」
深い底が見えないような闇をした瞳をこちらに向けてぽつりと言った
「サプライズかなぁ、いつ来るのかな。あ、未来のおうちにあたしが行くなら支度しとかなきゃって夕方から待ってたのに、、」
僕はあまり誕生日、クリスマス、大晦日など特定の日を重視しない人間だ
しかし、うっかりしていた
流花が、気にするということを
「ご、ごめん」
ここ最近習い事が忙しくてすっかり忘れていた
子供の頃よく遊んでくれた近所のお兄さんが、学生の頃から独学で習得し、今オーダーメイドも含めてハンドメイドのアクセサリーをネットショップで販売していて、アルバイトも兼ねて手伝いながら習いにいっている
先週あたりから、クリスマスプレゼントであろうか、怒涛のオーダーメイド注文が続いて、在庫販売では無いのでお兄さんも捌き切れず、連日通い詰めだった
そういえば昨日麗流さんからLINEが入ってた
明日よろしくねー
なんの事か返信しようとしたままだったけど、こういう事だったのか
ほの暗い瞳をした流花は浅い呼吸を繰り返しながらキッチンで包丁を見つめていた
「ごめん、ほんとごめん。あっそうだこれ」
僕はピアスをあけているので、それでくれたものだと思ったのだが、もしかして今日がクリスマスイブで、誰かにプレゼントする為のものというお兄さんの気遣いだったのか
今日帰りに新作のピアスを手渡された
たまたまポケットに入っていたそれを手にした
「そういえば、流花これ」
僕は軽くラッピングされたピアスを手渡した
あ、普通にくれるだけならラッピングなんてして渡さない。お兄さんありがとう。
今にも泣きそうなほどの笑顔を途端に浮かべ流花はご機嫌に抱きついてきた
「もー、意地悪なサプライズしないでよー 」
いや、ほんと偶然だし、死にそうになるサプライズをされるこっちが言いたいところだけど
まあなんにしてもとりあえずセーフといったところだった
その後軽くだけど、と、流花が夕食を作ってくれて買ってきてあったというケーキを食べて
絶対に帰らせないという空気を受け入れた僕はそのまま泊まっていった
別に泊まりに行ったり来たりはさほど珍しい事でもないので気にしないが、こんなにも急で強引なのは初めてだった
そして普段はベッドの隣に布団を敷いて寝ているのだが、強制的に流花のベッドで一緒に寝るように、布団をやんわりとというか、出させてもくれなかった
僕は強制人間抱き枕と化した
漫画なんかじゃこういう時緊張で一睡も出来ないとかありがちだが、普通に寝た
むしろ疲れもあったし、爆睡した
流花に起こされるともうお昼だった
既に起きて食事の支度をしていてくれた流花
昼食を摂ると、支度をしてデートスポットに連れ回され、イルミネーションを見てその日も流花の家に泊まった
強制で
年の瀬もそんな感じで過ごし、やたらと2人で過ごす時間や泊まりが以前より多かった
まあ、冬休みだし、麗流さんもクリスマスに年末年始京さんとこに入り浸ってたから1人は寂しいんだろうな
兎と流花は寂しいと死ぬらしいし
それくらいに思っていた
そんな冬休み明け、クリスマスや年末年始の初詣の目撃や流花の付き合ってる発言から
こうして僕には中学3年の冬彼女が
強制的に出来た
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