無理心中日和
みなみくん
第1話
「痛っ」
真っ赤になった親指と人差し指の間に消毒液を染み込ませたガーゼを充てる
みるみるうちにガーゼは血を吸い赤くなる
「無理かこれ、縫わないと、、」
激痛を堪え、指を開くと縦に、1cm余りは抉れてしまっていた
「料理中、野菜事切ったでいいか」
僕の彼女、杉並流花(すぎなみるか)はことある度に死のうとする、そして僕を殺そうとする
何かとすぐに過呼吸気味になり、刃物で自傷するのを防ぐのに揉み合いになったり、意図的に切られたり刺されたり、何度病院で縫ったことか
人間とは適応と習慣に長けている生き物であるが、なんとも恐ろしい適応と習慣だ
流花と交際して3年程になる
元々幼なじみだった
僕は昔からそんなに人見知りしたりしないし、困らない程度には社交性もある
流花はそれが皆無だった
しかしながら、持って生まれた容姿
幼い頃から美少女であった流花はいくら自分が人と距離をとろうとも、周りに囲まれる日々だった
困っている流花をフォローしたのが始まりだった
そしてなぜか僕には人見知りもコミュ障も発揮しなかった
そしていつも僕の隣にいるようになり
3年前の中学三年生の時、流花から告白されて付き合うようになった
らしい
らしい、だ
クラスの女子から「ねえ、綾瀬君と杉並さん付き合ってるんだってね?前からそんな感じはしてたけど、あんまり杉並さん話してくれなくて。でも、誰かが、チラッと見えた杉並さんのスマホの待受が綾瀬君で、やっぱり付き合ってるの?って聞いたらうんって答えたみたいでなんか綾瀬君の話だと少しはいつもより話してくれるし、凄いね綾瀬君。どうやって杉並さんを好きにさせたの?」
なんて話を聞いて知った
ちなみに、流花が僕の写メを撮った事なんて記憶の限りでは無いし、付き合ってもない
その日、帰り流花のうちへ寄って確認しようとしたら、最初は目が泳いで、開き直りへ変わり、、
いいじゃんそれで、と押し通され
断ったり否定的な反応を僕がしたら
自殺するオーラとそれをほのめかす様な言動を含む言動をとり、即決で確認作業は終了し、交際となった
脅迫という名の告白ではなかろうか
保育園や小学校低学年の頃とは違い、表面上それとなくくらいには人と接する事が出来るようにはなったから学校生活に支障をきたす事はなくなったが、代わりにいつしか重度のメンヘラになっていた
恐らくこれが超絶地雷ぴえんというやつだろう
いつかクラスで中の良い友人の、東中野がゆっていた
「なあ、よく新宿で見るんだけどさ、マイメログッズがどっかにあってエナジードリンク片手にストロー飲み、付属で手首に傷が包帯があれば俺の統計では絶対に近しい確率で、超絶地雷ぴえんなんだよな」
年がら年中新宿でナンパして過ごしてるこいつが言うのだからあながち的外れでもなかろう
東中野も、幾度か刺されかけた事があるらしい
実体験によるサンプルからの統計データ
恐らく合ってるのだろう
本人曰く、ちなみにキキララはお花畑ちゃんだとか
風評被害とか威力業務妨害スレスレな発言で、まともなマイメロファンとキキララファンが聞いたら激怒するのではないだろうか
しかしながら、流花も好きなキャラはマイメロ
あまり高カロリーな食事を好まないし、サプリやエナジードリンクを飲んでるのを度々見る
まんまじゃないか
いつから流花はこうなったんだろうか
気がついたらこんな感じになっていて分からない
最初は自傷行為だった気がする
いつしか、酷くなるとその自傷に殺意が加わり2人で死ぬという1回しか体験出来ないであろう、世界中の どの遊園地でも味わえないアトラクションを行動に移そうとする、ミラクルなコマンドを取るようになってきた
ノートパソコンの検索履歴に常々、密閉、混ぜる薬剤、致死量、心中
などといった穏やかでないワードが並んでいて背筋を凍らせた
死ぬのはいいけど、あたしが死んで未来(みくる)が別の女と付き合ったりしたら嫌だ
だから無理心中と
一緒に死んだらずっと一緒
なんかのビジュアル系バンドの歌詞の影響かな
初めこそ驚きはしたが、僕も何処かおかしいのだろうか
死への概念が少しズレているのか
どっか頭の片隅で、まあ最悪流花なら仕方ないか
などと過ぎる(よぎる)時もある
いや、死にたいわけじゃない
でも流花1人死なれては困る
そもそも死なないのが1番なんだけど
「いやしかし、たいした擬態だな。」
小声で東中野は僕に話しかける
「擬態?」
流花は何に身を扮しているんだ
「いや、まあ変な比喩だと思ってくれ。彼氏を日常的に怪我させたり殺そうとしてる子とは、表面上クラスメイトとしてはとても思えんな。俺でさえも驚くよ。お前の話と傷を見てなけりゃ 」
流花の本質はこいつにしか話してない
いちいち人にいって流花を貶めたりするような奴じゃないという信用と信頼はあるし、ある程度勘づかれていたから変に嘘をつくより正直に話したのが経緯なのだが
学校では普段の素振りを見せない
かと言ってうってかわって明るいクラスの中心人物なんてわけでもないが
むしろ最低限のクラスメイトとのコミュニケーションは取っているが露骨に心の距離を取っていて実質孤立してる
僕との交際の1件で多少周りからも会話のネタが出来て、それを取っ掛りに少し、ほんの少し女子同士との会話は増えた気がするが
それ以外は皆無だ
どれだけ周りが仲良くなろうと距離を詰めようとも
周り以外、を含めても
上級生とか頻繁に流花に接触を試みる奴が後を絶たない
幼い頃から変わらず、今も恐ろしい程に流花の容姿は美しい
昔と違って、それなりに表面上接することや、絶対零度で相手を精神的にKOする術を得て、保育園や小学校の頃と違って、今は登校から下校まで常に僕の後ろに居る必要は無くなった
「なあ、改めて聞くけど未来(みくる)はなんで杉並と3年近くも付き合ってんの?」
難しい質問だな
流石にありのままは答えられない
幼なじみの延長、、でいいか
うん、自然な答えだ
しかし、こいつの聞きたいことはただの幼なじみじゃないってスペックを見抜いての、その理由だろう
「杉並と付き合ってるって結構知れ渡ってるから、お前の耳には入らないだろーけど未来も相当モテんだぞ。みんな、杉並に勝ち目が無い事を分かってるからお前さんの耳には入ってこないんだけど。
杉並と釣り合う容姿に人当たりの良さ、他校にもいるらしーぜ普通の未来君ファンが。普通のね。」
普通の、、ね、と強調するよう付け足した
「まあ、ずっと一緒だったし、表現はどうあれこれだけ好いてくれてるんだ。これが自然だろ」
「その表現とやらでも、学校一の美少女ステータスがあってもキツいとオレは思うけどねぇ。未来もどっかおかしいよ。」
東中野は肩をすくめて言う
「MP(メンタルポイント)がヘラってるのはまだしも、少しは刃傷沙汰どうにかしろよせめて」
全てお見通しか
「幼なじみとは難しいもんだな。いや、なんか違うかお前らの場合」
ぽつりと呟き、東中野は僕の肩に軽く手を置き明後日の方向を向いた
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