第43話 婚約
ふふっ
目の前で文字通り固まっている思い人をみて、思っていた通りの反応をしてくれたため面白くて思わず微笑んでしまう。
見ると北条さんまでもが狐につままれたように驚いていた。
俺は自分で襖を閉めた後、「さぁ、座れ」と手招きしている祖父の隣に座る。
「初めまして……ではありませんね、お久しぶりです。東雲修です」
「……なるほど。康介の実家は東雲家だったのか……」
俺が挨拶するとようやく拘束が解けた克人さんがボソッと呟く。それはただの独り言だったが俺はうなづいた。
「騙す形になってすまんのう。修が驚かせたいと言ってのう」
「すみません。……でもこれで家柄は合格ですよね」
騙す形になったことを謝る。そして意味ありげな視線を克人さんに向けながらそう言う。
「聞いていたのか……」
流石の克人さんで、その意味に気づく。
「すみません。あの日俺もベランダに出ていて、すぐに戻るつもりだったのですが、気になっていまいました……」
「いいや、あそこで話した私も悪いから、気にしなくてもいいよ」
「ありがとうございます」
本来なら怒っても文句が言えないところを快く許してくださったことに心底感謝し、手を付き頭を下げる。
そして頭を戻すと、克人さんに向けていた視線を北条さんに移す。
いまだに驚きで口を少し開けながら固まっている北条さんの姿が可愛らしくて微笑む。
「北条さん」
「……は、はいっ!」
俺が名前を呼ぶと慌てて返事を返してくれた。
「少し場所を変えて二人で話しませんか?」
「うむ、若人が話し合うのがいいだろう。……北条殿よろしいかの?」
「ええ、その方がいいでしょう」
俺の提案に未だに状況の整理が出来ていなく、どうすればいいか分からなくなっている北条さんを尻目に保護者二人が同意する。
すると外で待機していたメイドが扉を開いてくれたため、俺は北条さんの手を取りながら一緒に立ち上がり、別室へと向かう。
北条さんは突然手を握られたことに戸惑ってはいたが、抵抗せずについてくれた。
突然手を握られた私は驚きながらも、修くんについていく。その間も私はずっと状況の整理をしていた。
修くんが重蔵さんのお孫さん……ってことよね。て言うことは修くんは私のことを好きだって……っ!
せっかくなんとか落ち着けそうになっていた時に手紙に書いてあったとお父様が言っていたことを思い出し、再び頭がパンクする。
先ほどの部屋から少し離れた部屋に修くんは私を連れて入る。
そこは、今の季節はちょうど紅葉が枯れ始め、赤い葉が空を舞っていてとても美しい庭が見えていた。
そこにあらかじめ二つの座布団を敷いてあり、二人で向かい合って座る。
座ってから修くんがずっと私の顔を見つめてきていた。私は見つめられていることが恥ずかしいし、どうすればいいのか分からなく、視線をウロウロさせていた。
「好きです。北条さん」
突然修くんの口から飛び出たその言葉に私はまたまた固まり、修くんの顔を見つめる。
「好きです、その笑顔も、髪も、優しいところも、そして時々大胆なところも」
続きで出たその言葉を聞いて恥ずかしさと嬉しさで胸が張り裂けそうになり、目に涙が滲むのを感じる。
「北条さんの隣にいることが好きだった。自分が選んで進んだ道とはいえ、この二週間。隣に北条さんがいないことがとても寂しかった。だから……だから、これからも隣に居させてくれませんか?」
この二週間ずっと心の中で練習してきた言葉を出せたことに修は安堵する。
陽葵はその言葉を聞いてついに耐えられなくなり、手で口を塞ぎ、頬に涙が伝う。
あまりの嬉しさに言葉が出ずに体が動く。
正座していたのだが、膝立ちになり逃げない様に、そしてずれない様に修くんの頬に手を添える。
そして私の行動に驚き固まっている想い人の唇に。
自分のものを重ねた。
実際は数秒だが、永遠とも取れる時間が流れそっと離れる。
目の前でまだ目を見開いて固まっている修くんが面白く思わず白い歯をこぼす。そして文化祭の時からずっと思っていたのに、言うことができず心の中にしまっていた想いを伝える。
「はいっ!……こちらこそ」
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