第41話 父の実家
着替えた俺は携帯と財布だけポケットに入れ玄関に向かう。
すると玄関の外には北条さん家にあるような黒塗りの高級車が止まっており、その前に父さんと克人さん、そして見送りにきた梓さんがいた。
「お待たせしました」
「おお、俺らの時と全く変わってねえな、制服」
そう言って近づくと父さんが嬉しそうにそう言って来る。
俺は龍皇学園の制服を着ていたのだ。……なぜかって?学生の正装は制服、だろう?
「じゃあ行くか。……修、乗れ」
「わ、分かった。……克人さん行って来ます」
「ああ、行ってらっしゃい。……康介後できっちり説明しろよ」
父さんが克人さんに向かってひらひらと手を振りながら、車に乗り込んで俺を急かして来るため、俺は慌てて克人さんに挨拶してから乗り込む。
俺が車に乗り込み扉を閉めた途端、車が静かに走りだす。
運転席を見ると。そこには黒のスーツを着た知らない若い男の人がハンドルを握っていた。
あの人が誰なのかを含め色々と聞きたいことがあったため、隣の父を見ると、父は頭をヘッドレストに預け、目を閉じ寝ていた。
あまりのマイペースに呆れながらも、起こすのは悪いかなと思い一旦疑問を胸の中にしまい、窓の外の流れる街の風景を眺めるのだった。
車で走り始めて2時間ほどたった。
2時ごろに出発したが、もう夕方になっておりもうすぐ冬になるので日が短くなっているのかすでにそれは赤く染まり始めていた。
北条邸のある都心から大分離れ、県をも何個か跨いだ。田舎の街を通り抜け、辺りは山木に囲まれていた。
しばらくそのまま走る。その間ずっと窓の外を見ていたのだが、ただ木が流れていく景色しか見えなかった。
「着いたか……」
父がボソッと呟く。寝ていたと思っていたためまさか起きているとは思わず、父の方を見る。
父は目を開け、父の側の窓の外を見ていた。俺も外に目をやるとそこには集落が見えた。
この場所は周りを山々に囲まれて入り、その間の盆地になっているところに村が広がっていた。大きさ的にはそこまで広いわけではなく少し高台になっているこの道路から全体を見渡せるぐらいしかなかった。
でも一つ特徴的なことがあった。それは村の中心よりやや奥側には塀に囲まれた広い敷地があり、その中心には和風の屋敷が立っていた。それもとても大きい。
車は村に入り、集落の中を走っていく。周りの建物も和風の屋敷が多く、遠くには何のための建物か分からない物まであった。
しばらくして車はある門を潜って塀に囲まれている敷地内に入る。
そう、上から見えていた一番大きな所だった。
中心にある建物の玄関前に止まる。
「着きました、若」
「ああ……修降りるぞ」
運転手の人がそう言う。若と呼んだため誰のことを呼んでいるのか分からず戸惑ったが、すぐに父が返事をする。
そうか父さんの実家ってことはこの家の使用人は父さんのことを若って呼ぶのか……
そう思っていると家から燕尾服をきた初老の執事のような人とメイド服を着た人が出て来て、執事の様な人は父さんの方のドアを、メイドさんは俺の方のドアを開けると、父さんが降りながら俺にも降りる様に促す。
その言葉に従い車をおりる。
改めて屋敷を見るととても大きく厳かで良家だというのが一発で見て取れる。
お金持ちって聞いたけどなんかめっちゃ歴史ある名家じゃね?メイドさんと執事がいる時点で普通のお金持ちだけじゃないな。
「お待ちしておりました、康介様。……そしてそちらが修様、でございますね」
父さんの横に並ぶと父さんのドアを開けていた初老の執事が話しかける。
「ああ、そうだ。爺、久しぶりだな」
俺が何か言うべきか迷っていると父が答える。
「康介様がお出になられてからなので、もう20年すぎになります」
執事さんが頭を軽く下げ感極まったように話す。
「んで、こいつが息子の修だ」
「あ、修って言います」
父さんが俺を執事の人に紹介したため慌てて俺も自己紹介をする。
「これはこれはご丁寧に。私はこの家の執事長をしております青葉龍馬と申します。……それでは康介様、修様中へどうぞ。旦那様がお待ちです」
青葉さんもまた俺に向かって自己紹介をすると俺たちに中に入る様促して来た。
「ああ、分かった」
それに父さんが同意すると青葉さんは先導する様に歩き出し、父がそれに着いて行ったため俺は置いていかれない様慌ててそれを追いかける。
そして中に入る直前扉の横にかかっていた表札に書かれていた名前を見て俺は思わず驚愕する。
同姓か?いや、でも……。
そんな様子に父と青葉さんは気付いていないのか中に入っていくため置いていかれまいと慌てて追いかける。
中は完全に和風というわけではなく、少し洋風を混ぜていて明治建築のようだった。
すると青葉さんがある襖の前に来る。そこには若いメイドさんも待機していて俺らが見えると膝をついて襖を開ける準備をしていた。
「旦那様、康介様と修様をお連れいたしました」
『……入れ』
青葉さんの言葉に中からドスの効いた怖い声が返って来て少しビビる。
そしてその声が聞こえるとメイドさんが襖を開けた。
父さんが中に入ったためそれに続く。
見ると中はそこそこ広い純和室になっていて奥の一段上がっているところに和服を着た強面の老人が脇息に肘をつき座布団の上に胡座を書いて座っていた。
どう見てもヤクザにしか見えないその老人にビビっていると、父さんはそんな俺に構わず少し入ったところに置かれてあった二つの座布団の右側に正座する。それを見て俺も慌てて空いている座布団に正座するとその後ろで襖が閉まる音がする。
しかし俺が座っても誰も話出そうとしないため父の顔を思わず見ると、普段のヘラヘラと笑っている父からは想像もできないほど無表情でで目の前に座る老人を睨んでいた。
対する老人の方は同じ様に父の顔を無表情で見つめる。
俺はそう空気に耐えれそうになかったがどうすれば良いか分からず戸惑っていた。
「……久しいな康介。お前が出て行ってから20年がたった。今更戻ってきたのはどう言う心変わりだ?」
重い静寂を破ったのは目の前に座る老人だった。やはり俺には目もくれず父に話しかける。
「……それはこっちのセリフだ、親父。今までずっと手紙、ひどくても電話だけだったのに、いきなり向こうの警察まで引っ張り出すとか何にそんなに焦ってるんだ?」
父さんが親父と呼んだ、俺にとっては祖父にあたる目の前の老人は父の言葉にふんっと鼻で笑い言葉を返す。
「焦り、か。確かにそうじゃな。儂は焦っていた……。さすがに死ぬ前には孫の顔を見ておきたかったしのう」
そして始めて俺の方を見る。すると父ははぁとため息をつく。
「やっぱり近いのか……まあいい。こいつがあんたの孫の修だ」
「修です。始めまして……」
父は老人には聞こえず辛うじて俺が聞こえるような小さな声で呟いた後俺の紹介を祖父にしたため、俺も自己紹介をする。
「うむ、お前の祖父の東雲重蔵である」
予想はしていたが、本当にその名が出てきたため驚愕する。
東雲重蔵。日本では知らない者がいない四大財閥の中で一番と称される東雲財閥の現当主であった。
「自己紹介だけが目的じゃないだろ。本題はなんだ?」
「相変わらずせっかちじゃな、お前は。……修」
「は、はい!」
父と祖父が話始めたため黙っていたら、まさか呼ばれるとは思っておらず戸惑ってしまう。
「簡単に言おう。東雲を継いでくれ」
「えっ……」
まさかの内容に驚き固める。
「……近いのか?」
父が今度は祖父に聞こえる様に話す。
「まだお迎えが来る様子はない。だが儂ももう70後半じゃ。そろそろ体力面で色々ときつくなってくるのでなあ」
「……なぜ父ではなく俺なのでしょうか?」
ようやく動き出した俺はそう質問する。すると祖父は視線を父に向けたため俺もつられて見ると父は極まり悪そうな顔をしていた。
「……それは俺が家を出たからだ。一度外に出た人間がまた戻るのはさすがにまずいからな」
「……何で出たの?」
「それは……母さんと結婚するためだ。母さんの実家の東郷家と東雲家は当時仲が悪かった。そのため結婚することを認めてもらえなかったのさ。今はもう両家の中は改善されたから大丈夫になったんだけど、さっきも言った様に一度出た手前戻れなかったんだ。俺はダメだが息子のお前ならまだ戻れる。だからお前なんだろう」
長年疑問だったが今まで気まずくて聞くことができなかったので、ようやく聞くことができた。
祖父と父の仲は悪いと思っていたが実際見て見るとそこまで険悪っていう感じではなかった。
「でも……俺がいきなりそんな大役……」
今までそんなことになるなんて思ってもいなかったので俺なんかがやっても良いものなのか分からず弱気になる。
「別に儂も今すぐ引退しようとは思っとらん。今高校一年じゃろ。せめて大学卒業するまでは待ってやる。だからその間に勉強してくれれば大丈夫じゃ。引退後も相談には乗るしなあ」
弱気になった俺をみて祖父が俺を安心させようとする。
実際俺は、それなら大丈夫かなとやる方に天秤を傾けていた。
確かに安心したから傾いたって言うのもあるがもっと大きな理由があった。
東雲の家柄なら許してもらえるかも。少し卑怯かもしれないけどこれで手に入るなら……。
その希望が見えると俺は決心し祖父の方を見て口を開く。
「分かりました」
俺の言葉に祖父は嬉しそうに顔を歪める。
「しかし一つお願いがあります」
真剣な顔をして言う俺を見て、何かあるなと悟った祖父は「ほう」と呟き、条件とも取れることを言い出した俺を面白いと言うような顔で見る。
父も頷くとは思っていたのかそのことには驚かなかったが、まさか条件があるとは思っていたい様で俺のことを見つめる。
二人の視線を集めながら俺は動じずに話し出す。
「それは…………」
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