第39話 北条さんの気持ち
楽しかった二日間の龍王祭をグランプリ優勝という形で終わり、俺たちは通常生活に戻っていた。
しかし、なぜか北条さんの距離が前よりも近いたのだ。
ご飯食べる時も前は、隣あってはいたが普通の距離だった。しかし、今は間は一メートルもなく時々肘が当たってしまっていた。
俺は机の端っこであるためこれ以上ズレることは出来ないため、北条さんにもう少し向こうにずれてくれるようお願いするも「別にいいでしょ」といわれてしまう。車や他のところでもこんな感じだ。
克人さんや翔子さんに助けの視線を送っても笑顔が返ってくるだけであった。
まあ別に好かれているってことだから悪いことでは無いんだけど……
にしても、理由が分からないため気になって涼に聞いて見ても、「さあ?」と笑顔で返ってくるだけであった。
不思議だ……。
それ以外はいつも通りに戻り授業が終わったら生徒会と学校生活を楽しんでいた。
そしてこの日俺は夕食後いつも通り自室で勉強をしていた。ひと段落して疲れたため伸びをする。
うーん、ふう。ちょっと休憩するか。
そう言ってベランダに出る。近年温暖化のためなのか、11月になったとはいえぎりぎり長袖のパジャマで外で出ても耐えれるくらいの気温だった。
少し肌寒いけど、ちょっと眠かった頭には効くね〜。
黄昏ながら月明かりが照らす庭を眺める。
『ギィー』
するとその時下の階の扉が開いた。
「どうしたんですか?わざわざこんな所まで来て」
「ここに来たのは少し頭を冷ますためだ。ただ愚痴をきいてほしいだけだよ」
「ふふっ、いくらでも聞きますよ。どうしたのですか?」
開いた扉から出てきたのは克人さんと翔子さんだった。
どうやら話しをする様だったので盗み聞きしてはいけないと思って部屋に戻ろうとする。
しかし、次の克人さんの言葉が俺の動きを止めた。
「……実は、陽葵と修くんのことだ。二人の婚約の承認を理事会に掛け合ってみたのだ」
俺の名前が出たため、悪いと思いながらも続きを聞いて見ると気になる単語が聞いて来る。
こん、やく。婚約⁉︎
聞き間違いか、他の漢字かとも思ったが文脈的にこの字しか思い浮かばなかった。
俺と北条さんが婚約!なんで!?
いきなりのことに戸惑っていると続きが聞こえてくる。
「あら、最近いい感じとは思っていましたけど……まさか本当にそうなんですか?」
「ああ、梓が陽葵に聞いたところはっきりと言ったそうだぞ。好きだって」
ここで俺の頭はパンクした。
北条さんが好き!?だ、誰を!?俺を!?
まさに寝耳に水の気持ちであった。
北条さんが全くそんな素振りを見せていないからだ。確かに最初に会った時よりは仲良くなったとは思っているが、それでもあくまで友達のとして……
……いや、確かに最近ちょっと距離が近いなーって思ってはいたけど……まさか本当に!!
「陽葵が仲良くなるだけじゃなく好意まで寄せる相手は初めてだ。……だから陽葵のためにとまず理事会に掛け合って見たのだが……」
「……ダメでしたか?」
「ああ、修くんの家柄と今の家庭環境からは、とても北条財閥は継がせられない、だそうだ。クソッ!あの前世代のジジイ共め……私に力があれば」
「あの人たちは先代から北条財閥を支えて来た方達ですもの。仕方ありませんわ……」
二人の会話を聞きながら俺は頭をフル回転させていた。
北条さんの気持ちを知ってしまった。しかも本人からではなく他の人を盗み聞きして。申し訳なさはあるが、これからも一緒に暮らしていくにあたり、無視はできないだろう。
もうすぐ冬になる夜に外に薄いパジャマ姿でいることも忘れ、物思いにふける。
俺は……北条さんの事をどう思っているのだろうか……。
好きではある。でもそれはあくまで友達としてのものだと思っている。
一緒にいて心地よく、楽しい、何よりも北条さんが笑ってくれるのが嬉しい。北条さんに笑っていてほしい。
そこまで考えた時俺は気づいた。
ああ……これが好きって言う感情なのか……?
しかし、今まで恋というものを経験したことのない俺は、まだ自分の気持ちが好きっていうものなのかよく分からず、戸惑ってしまう。
いや、焦るべきではないな。もう少しだけ時間をもらおう。
「あなたは……どう思うのですか?」
自分の考えがひと段落ついたところで翔子さんの声が頭の中に入って来る。
「私は……父親としては、修くんに陽葵をやるのは賛成だ。彼はとても誠実で素晴らしい人間だ。しかし、数万人の従業員の生活を握っている財閥の会長としては……容易くうなづく事はできない……」
北条さんが自分のことを高く評価してくださるのはとても嬉しいが、家庭環境が悪いがゆえに婚約を認めてもらえない事はとても残念に思う。
色々とあるすぎてどうすればいいのか分からず、気づいたらベランダに座り込みより考え込んでしまっていた。
この時俺はもちろん、克人さんと翔子さんも気がつかなかったであろう。
書斎の本棚に借りた本を戻しに来ていた北条さんがたまたま二人の会話を聞いてしまい、自分の恋が実らないことを知って、悲しみを隠すため逃げ帰ったことを。
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