第37話 文化祭二日目1
龍皇祭初日は序盤こそハプニングが起きてしまったもののそれ以降特に大きなことはなく、順調に終えることができた。ちなみに昨日の時点でのグランプリの暫定順位では俺たちのクラスが一位であり、みんなこのまま他クラスを突き放そうと盛り上がっていた。
そして龍皇祭2日目の今日。俺たちは昨日と同じ衣装に着替え教室に集めっていた。
俺の、そして北条さんのシフトは昨日で終わっていて、今日は他のクラスを回る予定だった。
ではなぜ着替えたのかと言うと、回る際に注目を集め、宣伝になるからと前園さんが決めたのだ。
ちなみに北条さんももちろん昨日と同じ妖狐のコスプレをしているのだが、流石に九本の尻尾は邪魔になるということで一本だけつけていた。
「いやー昨日帰ってから大変だったぜ。この白塗り落とすの」
昨日と同じくジョーカーの仮装をした涼が昨日のことを思い出しながら憂鬱そうに愚痴る。
「しかも今日またそれ塗るのに長い時間かけてたな」
「そうなんだよ。着替えのほとんどが化粧なんだよー」
『只今より、第157回龍皇祭、2日目を開催いたします……』
みんなで雑談していたら、2日目の開会を知らせる放送がなる。今日は涼と千秋さんが午前中のシフトに入っていて、俺と北条さんは非番だ。
「じゃあ、準備しないと」
「そうね。私たちは邪魔になるから外にでましょう」
「そうだね」
千秋さんがお客さんを迎えるため涼と一緒に準備に向かうと、北条さんが教室にいては準備の邪魔になると配慮して外に出ようと提案してくる。
その言葉に頷くと、北条さんは俺が頷いたことを確認してから外に向かったため、その後をついていく。
「どこか行きたいところはあるの?」
すでにお客さんの姿がチラホラ見えている廊下を歩いていると北条さんが聞いてくる。
「うーん、特にこれといったものはないけど、俺は今回が初めての文化祭だからみんながどんなのやってるか気になるな。だから北条さんが行きたいところ行っていいよ」
「私も別に行きたいところはないのだけれど……。そうね、順に見ていって面白そうなところがあったら入りましょう」
北条さんの提案に賛同する。
俺たちはまず中学の方から回ることにし、中学生の入る校舎まで行く。
道中、文化祭中で他にもいろんな格好をしている人がたくさんいるが、それでも俺たちのヴァンパイヤと妖狐のコスプレはとても注目を集めた。
中には「あれって確か、ハロウィン喫茶だよね。後で行ってみようよ」と話している人もいて、早くも衣装を来ながら回っている効果が出ていた。
「ここ面白そうじゃない?」
「ここ?そうね。入ってみましょう」
中学の校舎に来て一階から順に見ているとミニゲームを集めたゲームセンターをやっているクラスがあった。
内容を見てみるとババ抜きや射的などで比較的簡単そうだったのでこれなら北条さんにも出来るだろうと考えたのだ。
なぜこんな事を考えているかと言うと、夏休みに海に行った日の夜、寝る前にみんなでトランプをしていたのだが、大富豪はおろかババ抜きすら知らず、なんとかババ抜きのルールを教えてやってみたが、余りにも分かりやすかったのだ。
「ババ抜きのルール、覚えてる?」
「さすがに覚えているよ」
少し不安になり北条さんに聞いてみると、自信満々に応える。
俺たちは最初に他のお客さんとこのクラスの人と一緒にババ抜きをやることにした。
他のお客さんとスタッフはまず俺たちの格好に驚いていたが、文化祭中なのですぐになれた様子だった。
「じゃあ配りますね……」
スタッフの人がカードを配ってくれ、ゲームが始まる。
結果はなんと北条さんが勝ったのだ。どうやらあの日ぼろ負けして悔しかったらしく、帰った後梓さんにババ抜きはポーカーフェイスが大事だと言う事を教えてもらったらしい。
あとは、昔の心を完全に閉ざしていた時みたいに氷でできたような冷たく硬い顔をずっとしていて誰も北条さんが持っているのに気がつかなかった。
「ふんっ。分かってしまえばこんなもの楽勝よ」
そう嬉しそうに笑いながら話す北条さんを見て俺まで微笑ましい気持ちになってくる。
「じゃあ……次は射的とかやりますか?」
「いいわよ」
射的はお祭りにあるようなやつで景品もお菓子からおもちゃまで結構充実していた。そして大目玉の大賞は50センチほどのクマのぬいぐるみだった。
まず北条さんがお菓子の的を狙って打つ。しかし弾はあらぬ方向に飛んでいった。
「銃の手前の二つの突起の間から見て銃身の先についている突起が真ん中に、そして同じ高さくらいになるように調節してください」
「こう……かしら」
射撃は初めてだったようでよく分かっていない様子だったから教えてあげる。
すると今度は惜しくも数センチ下に当たった。
合計で五発打つことができて、今もう二発打ってので残りは三発。
「難しいわね……」
お祭り用の銃なのでもちろんそこまで精度がいいわけでは無いため、照準では合っていてもなかなか当たらない。
結局最後の一発以外すべてはずしてしまい、最後の一発は当たったが一発では的は倒れなかった。
「惜しかったよ。でも初めてにしては上手だよ」
「……ありがとう」
北条さんは景品をゲットすることが出来なく悲しそうにしていたが、俺の慰めを聞いて立ち直った。
今度は俺の番である。俺は小さい頃よく親父にお祭りに連れて行ってもらい射的をやっていたため結構得意ではあった。
まず一発、大賞の的を狙って打つ。もちろん弾はまっすぐ飛ばず右にすこしずれる。
だがこれは想定内。一発目は試射で銃のクセを掴む。
今度はさっきずれた分だけ左にずらして打つ。すると見事に的に当たった。
横にいる北条さんが的に当たった瞬間驚いて、すごいと言ってくれて嬉しかった。
同じ要領で次々と打つとあともう二発当てたところで、的が後ろに落ちる。
「おめでとうございます!お客さん、強いですね!」
「ありがとうございます」
銃がまっすぐ飛ばない上に的が小さいのに、見事三つ連続で当てて落としたことにスタッフと周りにいた人が驚く。
そしてスタッフの人が「これ景品です」とクマのぬいぐるみを俺に渡してくる。
それを受け取った俺は北条さんに渡す。
「これ、日頃お世話になっているお礼です」
そう言われてぬいぐるみを渡された北条さんは驚いて聞き返してくる。
「いいの?」
「ええ、クマのぬいぐるみ抱いている北条さんもかわいいかなと思いまして」
俺の言葉を聞いた北条さんは嬉しそうに、そして恥ずかしそうに微笑みながら胸の前に両手で抱いているクマの頭に顔を押し付ける。
心なしか尻尾まで振っているようにも見えた。
そんな俺たちの様子を周りの人たちは微笑ましそうに眺めていた。
一部の男子の目は笑っていなかったが……。
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