第12話 龍皇学園入学式3

 俺たちは先生の後に付いて行って教室に向かった。俺たちの教室は講堂からはそれほど離れておらず、すぐに行けるほどの近さだった。保護者はこの後保護者説明会があるとかでこの場にはいなかった。


 「じゃあまずは入学式の前に配られた資料に入っていると思うけど、自分の出席番号を確認して、黒板に番号が書いてあるからそこに座ってくれ」


 教室に着いて早々先生が指示を出し、俺たちもそれに従ってそれぞれ自分の席を見つけ、座った。席は一列7席、全部で六列あり、廊下側の一番端の列だけ6席の全部で41席ある。


 「さて、そうだな、よし席替えをするぞ」


 え、席替え?


 みんなが座ったことを確認してから先生は、そんなことを言い出した。


 「諸君の中には、特に高校から入って私のことを知らない人は、本来は自己紹介とか学校の説明とかするところで、なんでいきなり席替えなんだ、と思っている人もいると思う」


 そうそう。隣の席の男の子も、不思議そうな顔をしているから、この子も多分高校からなんだろう。


 「実は私が、自己紹介とか学校の説明とかではなく、席替えを選んだのには海よりも深く、山よりも高い理由があるのだ」


 なんだと。そんなに深い理由があるのか。


 「実は……」


 実は……


 高校からと思わしき生徒たちが固唾を呑んで先生の次の言葉を待つ。

 

 「私の気分だ!」


 はぁ!?


 思わず、「はぁ!?」って言ってしまった。周りも「え」っていう顔をしていて、おそらく中学からいたであろう人たちは苦笑していた。


 「よし、じゃあ早速くじ引きするぞ。中から一枚だけ引けよ」


 そう言って、紙袋を持って机の間を歩いて行き、生徒にどんどん取らせた。


 「よし。では廊下側の一番前のところを1番、その後ろを2番、3番…っていう感じだから、移動して」


 全員がくじを引いてから先生が指示を出し、みんな移動を始めた。


 俺の番号は34番、窓側から二列目の一番後ろの席だ。

 よっしゃ、結構いい席だ。あとは隣の人がどういう人かだな。


 そんなことを思いながら自分の席に行くと隣、一番窓側の列の一番最後の人はすでに座っていた。


 ワァオ。なんたる偶然。まさかまた克人さんが仕込んだ!いやいやくじ引きまでは仕込めないだろ。もし本当に仕込んだとしたらめっちゃ怖いぞ!いや偶然だと信じよう。


 隣の人を見た瞬間そんなことを考えた。


 さて隣が誰かもうお分かりだろう。そう、美しい銀髪が目立つ北条さんだった。


 「偶然だな。しばらくの間よろしくな」

 「ん」


 北条さんに挨拶してからカバンを机の横にかけ座った。

 返事がまた微妙になっているのは、なぜだろう。北条さんも驚いているという事にしておこう。


 「やった!隣同士だね!りょう君」

 「ああ、そうだね。ちい」


 俺の前の席にきた男とその隣、北条さんの前に来た女が隣になれた事を喜んでいた。


 ケッ、これだからリア充は。教室でいちゃついてんじゃね。しかも高校入学初日だぞ。お早いこった。あ、中学からならありえるか。にしても非リアの前でいちゃつくな。こちとら絶世の美少女と同棲というラブコメの王道のような展開なのに一切なびく気配しねぇぞ。


 前に座ったリア充に対してここ数ヶ月で1番の罵倒とグチを浴びせる……心の中で。


 ていうかまぁ、北条さんになびかれても困るけどな。


 グチはまだ続く。


 なぜかって、俺が北条さんと釣り会えるわけないだろ。思い出せよ、俺んちを。めっちゃ貧乏のド庶民だぞ。


 ようやくグチ(半分自虐)が終わり、前を向くとリア充の男がこちらを向いていた。


 「どうした?難しい顔して」


 あれ、顔に出ちゃってた。


 「いや、なんでもないよ」

 「そう。あ、自己紹介がまだだったね。俺の名前は南雲涼なぐもりょう、りょうって呼んでくれ」


 南雲、この苗字を知らない日本人はいないだろう。北条グループと同じ四大財閥の一つだ。


 「俺は如月修。修って呼んでくれ」

 「あ、修。紹介するよ。こいつは南川千秋みなみかわちあき、俺の幼馴染兼婚約者だ」

 「よろしくね♪」

 「え、あ、よろしく」


 えー。婚約者とかいんの。やば、四大財閥の御曹司だからか。


 「ねぇ」

 「うん。何?南川さん」


 南川さんに呼ばれ、返事をする。


 「あ、私のことは千秋でいいよ」


 え、同い年の女の子を名前呼びで呼び捨てとかハードル高すぎやしないか。まぁ、なんかだらけた性格っぽいし、さん付けとかよりも、呼び捨ての方がマッチしてるな。しかもなんか不思議と親近感を感じるし。


 「ああ、わかったよ、千秋。俺のことも修でいいよ」

 「おっけ。ところで一つ聞きたいんだけどぉ」

 「うん?」

 「修って陽葵ちゃんとどうゆう関係?」

 「そうそう。俺もそれを聞きたかったんだよね。いつもは一人で座っていた北条さんが二人で座っていたからね」


 あー。なるほど。どれであの男を誰だ、となったわけですな。


 「お互いのお父さんが友達っていうだけですよ」


 そう返したのは北条さんだった。


 「あ、陽葵ちゃん。今年もよろしくね♪」

 「ええ、よろしく。南川さん。南雲さんも」

 「あ、よろしく」


 そうお互い挨拶したところで、先生がようやく自己紹介をして、学校の説明をした後解散となった。


 「ねぇ、お父様とお母様が下で待っているから行くわよ」

 「ああ」


 騒がしくなりそうだな。まぁ楽しそうだが。


 荷物を持って歩き出した北条さんの後をついて行きながら今後の学校生活について考えるのであった。

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