効率厨お嬢様
マクラーレン(スコットランド人)が、音もなく紅茶のおかわりを運んできた。
「あら、ありがとう」
お嬢様は永い時をかけて挑戦を続けている飛行機型の型抜きと愛用の画鋲を置くと、静かにミルクと紅茶が撹拌されるのを眺めている。
「お嬢様、殺しの依頼でございます」
「あら、素敵ね」
ミルクティーを飲みながらお嬢様は微笑んだ。
フロント企業を多数経営する暴力団組織の本部は、都内の一等地に強固なビルを構えていた。
「ったく、通行止めだかしらねぇが、ここまで来るのに車でぐるぐる回らされて、くそイラつくな」
組織のトップであるその男は、机の上にふんぞり返って足を乗せたまま、怒りに任せて灰皿を手下へ投げつけた。運悪く鼻に直撃した手下は鼻血を垂れ流しながら直立している。
「なにぃ、殺し屋が俺を狙っている??殺れるもんならやってみろってんだ」
イラついているところへ、手下が火に油を注ぐ報告をした。
「窓は完全に防弾のうえにビルは強固なRC構造、最上階の俺の部屋までたどり着くまでには武闘派の猛者どもを何十人も相手にしなくちゃならねぇ。おまえ、殺れっか??」
質問された手下は大げさに首をふると滅相もない、と答えた。
「どんな凄腕でも返り討ちにしてやらぁ」
念のため、男は警護の部下たちに防弾ジャケットと、船便で密輸したM16ライフルを装備させた。
「アグスタウェストランド リンクスにはもう少しラグジュアリーさがほしいですわね」
都内の一等地を飛ぶヘリコプターから、下界を見下ろす少女。豊饒な麦穂のように輝く金髪と優雅な微笑みは、無骨なヘリにはまったくそぐわない。そう、お嬢様殺し屋だ。
「まずシートなのだけど、コノリーレザーをふんだんに使ったシートに変更しましょう。それから照明などをすべてバカラにして…」
「失礼いたしますお嬢様、準備ができました」
思うままにラグジュアリー案を語るお嬢様殺し屋を遮り、マクラーレンが告げた。
パチンと指を鳴らすと、お嬢様殺し屋は再びラグジュアリー案をふくらませる。
「外装は漆塗りにして、和のテイストを取り入れることはできるかしら。それならばタタミルームも作りたくなりますわ、志保様に相談してみましょうか…」
宅急便の配達員は後に語っている。
「何の工事だかまったく周知されていなかったんだけど、付近一帯の道が通行止めでね。配達が遅れるから、もうこっちは焦っちゃって。それで台車に荷物を載せ替えて、交通整理のおっさんの隙きを見て中に潜り込んだんだよね。そしたらさ…」
配達員はそこで少し溜めると、
「ドッカーンだよ。いや、マジに衝撃で数メートルふっとばされてさ」
その時に痛めた膝を擦りながら話す。
「ビル一棟が完全に崩れ落ちてたね。よく海外のニュースでみる爆破解体ってやつ?あそこって暴力団事務所だったんでしょ、組員みんな死んじゃったって。どうなってんだろうね。あとこの膝の怪我、労災効くのかなぁ…?」
時にお嬢様殺し屋は、効率を重視する。
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