1-18 護衛騎士になった背景
カツカツカツカツ・・・・
足音を立ててさっそうと私の前を歩くユベール・マルタン。黒い髪に青く光る瞳。
彼はまるで闇に君臨する王子のような人だった。アンリ王子が輝く太陽なら、さながらユベールは夜空に光る月のような存在。身分の高い侯爵家でありながら、アンリ王子の護衛騎士を務めている。彼が何故そのような立場に自分を置いているのか・・理由は分っている。
それはジュリエッタの存在だ。
3人は子供の頃からの幼馴染で、ずっと同じ時間を共有してきた。そして2人はジュリエッタを愛した。けれど・・彼女が選んだのはアンリ王子だったのだ。
失恋したユベールはそこで人格が変わってしまったと言われている。そしてアンリ王子はジュリエッタの事をユベールが愛していることを知りながら、自分の護衛騎士になるように命じたのだ。例え、ジュリエッタの愛を得られなくても彼女の傍にいたいと願ったユベールはアンリ王子の護衛騎士になったのだけど・・・。
私は歩きながらユベールの背中を見た。
一体彼はどんな気持ちで2人の傍にいたのだろう?アンリ王子とジュリエッタが目の前で愛し合う様を見て・・心が傷つかなかったのだろうか?2人の仲を引き裂きたくはならなかったのだろうか・・?私は色々な事を考えてしまった。
考え事をしながら歩いていたせいで、いつの間にか私とユベールの距離はかなりあいていた。慌てて小走りで追いかけていくと、不意にユベールが私の方をふり向いた。
「どうした?」
「え?」
「考え事をしていたのか?」
「え?ええ・・少しだけ。申し訳ございません」
「何が?」
何がって・・・。
「歩くのが・・遅くてです・・」
「ああ・・・」
ユベールはニヤリと笑うと言った。
「悪かったな・・・歩くのが早くて。すまない。俺は・・どうしても周りから配慮が足りないと言われていて・・悪かったな」
そしてユベールは歩く速度を落としてくれた。
「ありがとうございます・・・」
私はユベールの隣を歩きながら緊張していた。何故なら・・私の過去12回の死には全て彼が関わってきたから。そして12回目に私を殺したのは・・・今目の前にいるユベールだと言う事がはっきり分っているから。今回のループで私は今までの記憶を全て引き継いでいる。今度こそ・・私は7月7日を超えて生き続けたい。
彼に殺されない為には・・彼にとって私が殺したくないと思われる人物になるしかない。その為にはユベールの事は恐ろしいけれども、彼との好感度を上げなければ生き残る事が出来ないかもしれない。
「あ、あの・・」
言いかけた時、不意にユベールが言った。
「ショックだったか?」
「え?」
「お前と言う婚約者候補がいながら・・アンリ王子には恋人がいるからだ。それに例え結婚したとしてもアンリ王子は・・決してジュリエッタ以外は愛する事は無い」
ユベールの顔は寂し気だった。
「ええ、そうですね。でも・・別に構いません」
「え・・?本気で言ってるのか・・?」
意外そうな目で私を見る。
「ええ、別に貴族同士の結婚なんて・・そんなものでしょう?私は生活を保障して頂けるのであれば、愛が無い結婚でも構いません」
それと命を保証してくれるのであれば尚の事。
「そうなのか。お前は変わった奴だな」
「ありがとうございます・・」
「別に褒めたわけではない。ただ・・羨ましいなと思った」
「・・・」
私は黙ってユベールを見た。
「そんな風に割り切れるなんて・・俺には出来そうにない」
きっとジュリエッタの事を言っているのだろう。
「私だったら、もし仮に自分に好きな人がいて・・・だけどその相手には既に恋人がいて、もう間に割って入れないと言うのであれば・・」
ユベールは黙って話を聞いている。
「新しい恋を探しますね」
「新しい・・恋?」
「はい、それで・・好きになって貰うように努力します」
いつの間にか私は自分の部屋の前にやってきていた。扉の前に立ち、ユベールの方を振り向くと頭を下げた。
「部屋まで送って頂き、どうもありがとうございました。おやすみなさい」
そして頭を下げる。
「ああ。・・今夜の話は忘れてくれ」
そしてユベールは靴音を鳴らしながら去って行った―。
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