1-17 秘密の会話

「・・おい、大丈夫か?」


突如、声を掛けられて私はハッとなった。見ると眼前にユベールの顔があって私を覗き込んでいた。


「どうしたんだい?シルビア嬢?」


「何かあったの?顔色が真っ青だけど?」


ユベールの肩越しに見えるアンリ王子とジュリエッタが私の方を見つめて声を掛けてきた。


「あ・・申し訳ございません。何でもありません」


何故か今、6回目の死の記憶が鮮明に蘇ってしまった。


「大丈夫か?とりあえず座った方がいいだろう」


珍しくユベールが私を気遣う台詞を言う。


「そうだな。シルビア嬢、そこのソファに座ったほうがいいね」


アンリ王子に向かい側のソファを勧められたので、私は素直に従う事にした。


「はい、ありがとうございます・・・」


ふらつく足でソファにストンと座った。すると早速ジュリエッタが口を開く。


「あのね・・・もうお気づきになっているかもしれないけれど・・私とアンリ王子は恋人同士なの」


「ええ、知ってます」


顔色一つ変えずに言う。


「そうか・・なら話は早いな」


アンリ王子が身を乗り出して来た。


「本当は・・・僕はジュリエッタと結婚がしたいんだ。だけど・・彼女の身分は男爵で、しかも僕とは遠縁の親戚関係なんだ。だから周囲が断固反対したんだ。絶対に僕たちの結婚を認めないと。そして他に結婚相手を見つけるように命じられたんだよ」


ええ、よく存じております。今回で13回目のループですから。でも・・今までこんな初日に呼ばれて釘を刺されたことは一度も無いけれども。


「そうなの、それで結婚相手を探すのを少しでも引き延ばす為に・・私達一緒に考えたのよ。独身貴族令嬢達を集めてテストを行なおうって。半年間テストを受けさせて・・・最終的に選ばれた女性を婚約者にしようって提案したのよ」


ジュリエッタが興奮気味に言う。


「そこで今回集められたのが君達なんだよ。それで・・どうせ結婚相手を選ぶなら魔力持ちの女性が良いと周囲から進められて・・過去の歴史に置いて魔術師を輩出してきた家柄の女性が特別枠で選ばれたんだよ。そこで君達には他の令嬢達とは違うテストを受けて貰ったのさ。それが・・あの魔力を感知する為に作られた『アーティファクト』なのさ。あれに魔力のある人間が触れると、反応する仕組みになってるんだ」


アンリ王子が笑みを浮かべて私を見てニコリと笑った。その笑顔が・・何故か異様に恐ろしく見えた。


「そ、そうなのですか・・?難しい話なので私にはさっぱり分りませんが・・?」


「うん。確かに難しい話かもしれないよね・・。でもいいよ。今夜君を呼んだのは今回のテストが行われた理由を説明しておきたかっただけだから・・もう部屋に帰っていいよ。悪かったね・・・呼び出したりして。」


「いいえ・・そんな事はありません。では失礼致します。」


頭を下げて出て行こうとすると、アンリ王子が口を開いた。


「ユベール。」


「何だ?」


今まで黙って私たちの会話を聞いていたユベールが返事をした。


「シルビア嬢を送ってやってくれないか?」


「え・・?」


ユベールは露骨に嫌そうな顔をした。


「い、いえ。大丈夫ですっ!1人で戻れますから・・」


「戻れるって・・ここは別館にある僕のもう一つの部屋だよ?道は覚えているのかい?」


アンリ王子が尋ねる。


「ええ、覚えています」


だって過去のループで何回も訪れた場所だから・・・。


「へえ~・・すごいね。君は・・魔力だけじゃなく、記憶力もいいんだね?」


アンリ王子は感心したように言う。


「・・・・」


一方のユベールは私を睨み付けるように見つめている。


「ですから・・1人で帰れるのでお気遣いなく。ユベール様もお忙しいでしょうし・・・」


「いや、いい。送る。ついて来い」


ユベールは不愛想に言うと歩き出した。するとジュリエッタが声を掛ける。


「あら、駄目よ。ユベール。女性には優しくしなくちゃ・・」


するとユベールはじっとジュリエッタを見ると言った。


「ああ・・そうだな。気を付けるよ」


少しだけ照れた顔つきだった。


「それじゃあね、シルビア。良い夢を」


「はい、ありがとうございます。では失礼します。」


私は再び頭を下げると、ユベールが言った。


「それでは・・・部屋まで付き添う」


そして前に立って歩き出した―。





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