1-14 コーネリアの浅知恵
「そうか・・お前がこの令嬢を引き留めて話をしていたのか?」
ユベールは冷たい瞳で私を睨み付けながら言う。
そ、そんな・・。コーネリアが私の事を呼び止めたのに・・。私はコーネリアをチラリと見て、背筋が凍りそうになった。そこに立っていた彼女は恐ろしい瞳で私を睨み付けていたからだ。まるでその眼は余計な事を言えばただではすまないと脅迫しているかの様に見えてしまった。
「は・・・はい・・。わ、私が・・彼女を引き留めました・・。も、申し訳・・ございませんでした・・」
コーネリアがどれ程このテストに命がけは良く知っている。ここで下手に言い返して、余計な恨みを買いたくはなかった。ただでさえ、私の死の要因が何所から繋がっているのか分からないのだ。だったら・・ここでユベールに怒られた方がましだ。
するとユベールは私を睨み付けると言った。
「いいか?お前は何も理解できていないようだから、この際もう一度説明してやる。お前たちは全員アンリ王子の婚約者候補としてこの城に集められたのだ。つまり全員がライバルだ。王子は次期国王になられる方だ。そして王子の婚約者に選ばれると言う事は・・この国の国母になると言う事なのだ。変に仲間意識が芽生えて、慣れ合いの仲になって互いに遠慮しあって、手を抜かれてテストを受けられたら困るのだ。仮にもそんな人間が婚約者に選ばれれば、我が国に重大な不利益をもたらす羽目になりかねない。第一・・・。」
ユベールはこれでもかと言う位クドクドと言う。するとコーネリアが痺れを切らしたのか、まだユベールの会話の途中に口を挟んできた。
「お待ち下さい、騎士様。彼女はもう十分に反省しております。どうかこの辺で・・見逃して頂けないでしょうか?この私が彼女に変わって謝罪致しますので。」
コーネリアは自分の点を稼ぐ為なのか、はたまたいい加減にユベールの説教から逃げ出したかったのかは不明だが、ユベールの言葉を遮ると言った。
「お前は・・・誰だ?」
ユベールはコーネリアを値踏みするように頭のてっぺんから足のつま先までを見渡した。
「はい、私はコーネリア・バスクと申します。」
「バスク・・?バスクと言ったか?」
「はい、そうです。私の家の家紋を御存じなのですか?」
「ああ、確かお前は特別枠で招待された令嬢だったからな。確か爵位は・・伯爵家だったか?」
ユベールは腕組みしながら言う。
「はい、そうです。私の事を御存じだなんて光栄ですわ」
コーネリアは嬉しそうに言うが、次のユベールの言葉に青ざめる事になる。
「そうか・・お前は伯爵家の身分でありながら侯爵家である俺の言葉を遮って、話をやめさせようとしたのだな?」
「い、いえ!け、決してそういうつもりでは・・」
「それに・・俺が何も知らないとでも思っているのか?」
「え・・?」
コーネリアが怪訝そうに首を傾げる。
「俺は見ていたんだぞ?お前が・・・そこのシルビアを大きな声で呼んで追いかけていく姿をな。」
「!」
コーネリアの肩がビクリとした。でも確かにあれ程の大きな声で私を呼んで駆けつければ・・目立つのは当たり前だ。
「それなのに・・お前はシルビアのせいにしたな?」
ユベールは冷たい声でコーネリアに言う。
「あ・・・そ、それは・・。」
もはやコーネリアの顔は顔面蒼白になっていた。
「お前は・・そうやって自分が優位に立つためには・・平気で人を陥れるような人間だと言う事だな?よく分った・・。」
「・・・。」
コーネリアは身体をガタガタ震わせたまま、何も答えられずにいた。そんなコーネリアにユベールはイラついた声で言った。
「早く部屋へ戻れ・・お前の顔を見ていると苛立ってくる。」
「!」
その言葉を聞いたコーネリアの目に見る見る内に涙がたまり・・・彼女は半分泣きながら踵を返すと、走り去って行った。
そんなコーネリアの後姿を見ながらユベールは私を振り向いた。
「行くぞ。」
「え・・?い、行くって・・・どこへでしょうか・・?」
「後で迎えをよこすと言っただろう?」
「あ・・。」
そうだ、言われてみればそうだった。しかしユベールは私が返事をする前に先に前に立って歩き出し始めた。
「あ、あの・・・一体どちらへ?!」
するとユベールは振り向きもせずに言った。
「アンリ王子が・・お前を待っている。」
「!」
王子が私に・・・?
そんな・・・今までのループで初日からアンリ王子に呼び出されたことなど無かったのに・・・?!
私は・・・早くも13回目のデスループに巻き込まれてしまったのだろうか―?
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