1-13 親友コーネリア

 まるで針の筵状態の重苦しい夕食会がようやく終わり、ぞろぞろと令嬢たちは自室へと帰ってゆく。本来なら若い女性たちが大勢集まった社交の場・・皆で女同士の会話が弾むのが普通なのだろうが、ここは違う。いわば貴族令嬢たちが王子の婚約者の座を射止める為の戦いの場、全員がライバルなので決して慣れあったりはしない。

逆に慣れあってしまえば互いに相手に対して遠慮が生じ、実力を出し切れないから・・との理由で、王宮からも令嬢同士慣れあい禁止のお触れが出ていたからだ。

ある意味、その状況は私にとってはラッキーだった。必要以上に誰かと関わって・・万一私の秘密がばれてしまっては大変だし、すでに私は一部の令嬢たちからは早速目をつけられてしまったようだ。時折私の事を敵意のこもった目でジロリと睨みつけていく令嬢たちがいるのがその証拠だ。


「早めに部屋に帰った方がよさそうね・・。」


独り言をつぶやくと、私は急ぎ足で自室へ向かって歩き始めた。すると背後から誰かが掛けてくる足音が聞こえてきた。やがて足音はどんどん近づいてくると、不意に声を掛けられた。


「ま、待って!シルビアッ!」


振り向くと、ハアハアと息を切らしてこちらへ駆けてくるのはコーネリアだった。


「あ!コーネリアッ!丁度良かった。私貴女に聞きたいことがあったのよ。」


するとコーネリアが言った。


「ま、待って、シルビア・・・その前に貴女にお礼を言わせて。」


「え・・?お礼・・?」


「ええ、そう、お礼よ。貴女のお陰で私・・前期テストが丸々免除されたのよ!」


コーネリアは嬉しそうに言う。


「え・・?前期試験?何それ?」


前期試験なんて今までのデスループで一度も経験したことは無かった。私たちは週に1回必ずテストを受けさせられ・・最後の1人が決まるまでテストは続いたのだから。

首を傾げているとコーネリアが続ける。


「貴女は気を失ってしまったから知らないのも無理はないわ。魔力持ちグループに振りわけられた私たちは、これから3月まで行われる前期テストに参加しなくても5月から始まる後期テストを受けることが出来るのよ!」


コーネリアは嬉しそうに言う。


「そ、そうだったの・・・ちっとも知らなかったわ。」


そこで重要な事に気が付いた。


「そう言えば・・・私はどっちだったのかしら?あの時気を失ってしまったから自分が魔力持ちグループに入れたかどうかも分からないのだけど・・?」


「何言ってるの?貴女は当然魔力持ちグループに入れたわよ?だから貴女も5月までテストを受ける必要がないの。良かったわね?おめでとう!」


「ええええっ?!」


私はショックのあまり、半ば悲鳴のような声を上げてしまった。

そ、そんな・・・!私は後数回テストを受けたらわざと落ちて屋敷に帰ろうかと思っていたのに・・・それが半強制的に5月までは絶対に城に残らなければならない立場いなってしまったなんて・・!こ、これでは最悪再び死のループに巻き込まれてしまう可能性が出てしまった!

しかし、私の悲鳴を喜びの叫び声だとコーネリアは勘違いしたようだ。


「いやだ~・・・シルビアったら、このテスト気乗りがしないって言っていたくせに・・やっぱり嬉しかったのね?そんな歓喜の声を上げるなんて・・・。」


「いやいや、これは歓呼の声ではなくて・・。」


するとその時・・・。


「おい!お前たち・・そんなところで何をしているっ?!」


鋭い声が上がり、慌てて私たちは振り返った。するとそこには『氷の騎士』ユベールの姿があった。


「あ・・す、すみません!騎士様っ!」


コーネリアがドレスの裾を持って貴族令嬢の謝罪のポーズを取ったので、私も慌てて頭を深々と下げた。


「チッ・・・!お前か・・・・。」


するとユベールが小声で呟く。

え?お前かって・・・誰の事を言っているのだろうか?もしかしてコーネリア・・のはずはないだろう。何しろユベールは私の過去12回における死に際・・全てに関わってきた人物なのだから、おそらく今のセリフは私に向けて言ったのだろう。

ユベールは言った。


「お前たち・・・たとえ友人同士であろうと、ここでは必要以上に慣れあうなと言われていたはずだろう?」


するとコーネリアが言った。


「申し訳ございません!私は・・・・彼女・・シルビアに無理に呼び止められ・・つい、話し込んでしまっただけなのです!」


え・・・?


コーネリアは耳を疑うセリフを言った―。

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