お荷物と追放された料理術師、仲間たちと夢を叶える~価値の分からぬ元パーティは知りません~
東雲 和泉
第1話 置いてけぼり
「くらえ――――っ!」
最上段から振りかぶられた剣の切っ先が、鈍い灰色に輝くドラゴンの首を刎ね飛ばした。
ドラゴンは咆哮を上げながら、しかしそれ以上の抵抗は出来ず倒れ込み、やがて光の粒子となって消えていく。
「きゃーっアインス様すごーい!」
「アインス様かっこいい!」
ドラゴンを倒した青年・アインスに、半円を描くように立っていた少女たちが歓声を上げて抱きつく。
くすんだ金髪と灰色がかった緑の瞳を持ったアインスは、世間一般から見てもそこそこな器量良しなため、そんな光景も割と様になっていた。
そんな中、一人の少女が物陰からゆっくりと顔を出す。
淡い茶色の髪をひっつめ、エプロンドレスを元にデザインされた軽量鎧を身につけた姿は、アインスや彼を取り囲む少女たちに比べると地味に見えた。
「お疲れ様です。あの、戻る前に疲労回復のスープをどうぞ」
「あー、いらね」
「え?」
アインスの言葉に少女が聞き返すと、アインスはうっとうしそうに手を振った。
「リジー。お前、この戦闘中何してた?」
「え、えっと……みんなのために、疲れの取れるスープを」
「それだよ、それ。シャロもマインもドラゴン討伐に必死に命懸けてんのに、お前はのうのうと料理かよ。ふざけてんのか?」
「ふ、ふざけてなんかないです。私はそれが仕事で」
リジーは料理術師だ。料理に様々な効果を付与することが出来る魔術師の一種で、戦闘能力はせいぜい低ランクの冒険者と同じくらいしかない。ドラゴン討伐が出来るほどの実力者たちと肩を並べて戦うなど出来ないのだ。むしろ足を引っ張ってしまう。
ただ、「リジーの料理は食べたらすごい」とアインスが言って重宝してくれているから、彼女は今ここにいる。
動揺するリジーに、アインスは冷え切った眼差しを向けた。
「もういいよ。お前、もういらねえ」
「え、そ、そんな! アインス、私の料理すごいって……!」
「そんなん最初だけだっただろうが。それにもうお前の料理飽きた。ドラゴン倒したし財宝もたくさんあるからな。節約のためにお前の料理食わなくて済む」
がんと巨大な岩で頭を殴られたようだった。頭から血が引いていく音を、リジーは確かに聞いた。
「……私の料理は、節約の、ためだけ……だったの?」
絞り出した声はみっともないほど震えていた。
追い打ちをかけるように、アインスの右腕に抱きついたシャロが嘲笑する。
「あったりまえじゃーん! そうじゃなかったら誰が大嫌いなあんたの料理なんて食べるのよ。まあ味はそこそこだったから優しいアインス様は使ってくれていたのよ、感謝したらどうなの?」
「こらこらシャロ。リジーは料理しか出来ないんだ、あんまり人と関わるのが上手くないんだよ。そんな風に事実ばかり言ったら可哀想だろう」
くすくすと侮蔑を隠しきれない笑顔で、アインスの左腕にしがみついたマインが言った。決定打だった。
立ち尽くすリジーの目の前で、3人の足元に展開された魔法陣が輝きだす。帰還用のマジックアイテムだ。
「ま、待って!」
慌ててリジーは駆け出す。
ボスが倒されたとはいえドラゴンがいたようなダンジョンだ。蔓延る魔物の強さも相当で、リジーでは到底歯が立たない。
つまりこの場に取り残されてしまうと、リジーの命は危険になってしまうのだ。
しかしそんな彼女を嘲笑うかのように魔法陣はより明るさを増していき、やがて目も開けられないような光量になった。
目が眩み、足が止まったその一瞬。
「じゃあなお荷物。もう会うことはないだろうよ」
「まっ……!」
伸ばした指の先で、3人の姿が掻き消える。
帰還用のマジックアイテムはアインスしか持っていなかった。リジーには、移動用の高度な魔術なんて使えない。
「そんな……」
リジーは、最難関ダンジョンに置き去りにされてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます