それぞれは願いを胸に押し通す。#5

「おい秋山零士こっちを見ろ」

 三人が戦闘している中、一人策略を巡らそうとする人物が一人いた。

 ホームズに名前を呼ばれた秋山零士は状況に置いていかれた状態であった。

 秋山零士にとって今の状況は全てが未知の体験であり、まるで間違って見知らぬ駅に来てしまったような感覚であったのだ。自らに被害は無く落ち着いているのだが自身の周りの風景が自らの知っているものではなかった。

 そんな秋山零士をホームズは現実に引き戻したのである。

「な、なんですか?」

「その本を開け、それでこの争いは終了する」

 ホームズはこの状況で自らが勝つ方法を模索していた。

 そして結論を出したのである。

 自らが動き勝利に持ち込む事は出来ないが秋山零士を上に立てて引き分けに持ち込む事は出来ると判断し、秋山零士に手段を教える事にしたのである。

「待ちなさいホームズ。その行為が何を意味するか分かっているの?」

「お前こそ今の状況を分かっているのかリトル。このままではあの三人のうち誰かが秋山零士を殺し創世記を手にする事は明確だ。それならば秋山零士を覚醒させた方がいい」

「それはあなたの都合でしょう」

「お前達だって秋山零士に死なれた困るだろう」

「しかし……」

 リトルは肩を押さえながら顔をしかめる。

 リトルの肩の血は治癒魔法により既に止まっているが傷はまだ塞がり切ってはおらず、今争っている三人の内生き残った一人がたとえ手負いであっても倒す事は難しいだろう。それだけの力量差が今倒れているメンバーと争っているメンバーには存在した。

 そのためホームズは秋山零士に創世記を読ませ、真の記憶と力を呼び覚まさせようとしていたのである。

 ホームズがその存在を知っていた事にリトルは驚かない。その情報量の多さこそホームズの強さであり、だからこそホームズの言う事は正しい事が多い。

 しかし、秋山零士に創世記を読ませるという事は薔薇十字団始祖の復活を意味し、もしかするとさらに取り返しの付かない事になる可能性もあった。

 呼び覚まされる力は強大ではあるが同時に危うさも秘めている。そのためリトルはしかるべき場所で安全にやるべきだと考えていたのである。

「秋山零士、早くその本を開くんだ!」

「待って、やっぱり危険すぎるわ」

 リトルは悩むがホームズはその時間を与えない。

「お前が決めろ秋山零士、このまま傍観者となるか、本を開き自ら世界を動かすか。答えを待っていても世界は動かない。お前が選ぶんだ」

 ここに来てホームズは完全に場を、流れを支配していた。

 秋山零士が何を求めこの場に居るのかを理解しそっと目の前に答えを置く。それだけで秋山零士は揺れ動くとホームズは確信していた。

「俺は……」

 そして一般人であった秋山零士はその流れに飲み込まれる。

 秋山零士は本を見て、何かを考えていた。自らが過ごして来た今までの人生と、今体験しているこの現状を比べていたのである。そして決断する。

「俺は自分の世界を変えたい。この退屈な世界を」

 秋山零士は自らの意思で創世記を開いたのであった。

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