画竜点睛 #5

 時を同じくして、東京某所にある研究所で一人の男が作り出された。

 研究所は坂波地堂という男の所有物であり、坂波地堂さかなみじどうは坂波株式会社の社長であった。

 坂波地堂は俗に言うマッドサイエンティストである。

 金とコネを使い人体実験を極秘に行う彼の目的は世界最強の人間を作る事。

 そしてその日、遂に研究が完成してしまったのである。

 作り出された人間は体の半分を機械化しており、あらゆる能力が人並みはずれたものであった。

「出来ましたね地堂さん」

「ああ、ようやくだ」

 白衣を着た女性を横目に、坂波地堂は自らの研究成果である男を見つめる。

 坂波地堂が見つめる先、椅子に座る男の名は空亡そらなきと言い、元は殺し屋であった。

 空亡の本名は誰も知らない。

 中学の時に誰よりも強くなりたいと思い立ち名を捨て殺し屋となった空亡は、自らの限界を知り絶望する事となる。殺し屋の世界は広く、彼には到底太刀打ちできない人物で溢れていたのだ。

 そして空亡はココに出会う。

 世界最強、誰にも見つける事の出来ない殺し屋、伝説的存在であるココに出会い空亡は憧れた。

 それはココの能力にではなく、ココの存在に憧れたのだ。

 ココと言えば最強。そのレッテルが羨ましく、それが欲しかったのだ。

 最強という存在に憧れ続け、必然なのか、最強を作ろうとしている坂波地堂という人間と出会ってしまったのである。

 二人の目的は同じ人類最強。

 坂波地堂は空亡を快く受け入れ人体実験を繰り返し、そして完成させたのだ。

 最強の男、空亡を。

 半分が機械化するということになったが、空亡は力を手に入れたのである。

「どうだい、最強になった感想は」

「当たり前だが実感が沸かないな。本当にこれで最強になったのか」

 空亡は自らの手を眺めながら首を傾げた。

「今に分かるさ、私が作ったのだから君が最強なのは間違いない。あのココにも負ける事は無いだろう」

「すまないな。いろいろと」

「いや、こちらこそ研究に協力していただいて感謝するよ。薬物投与や人体改造に耐えられたのは君の成果だ」

「それで、俺に研究を施す代わりにして欲しい事って何だったんだ?」

 空亡と坂波地堂の取引。

 空亡は坂波地堂の研究成果を受けられる代わりに、彼は坂波地堂から一つ依頼を受ける事になっていたのである。

「なに、簡単な事だ。一冊の本を手に入れて欲しい」

「本?」

「そう。だが、ただの本ではない。創世記という名前の世界の全てが書かれた本だ」

 目を細め訝しむように坂波地堂を見る空亡をよそ目に坂波地堂は手を大きく広げてオーバーリアクションをしながら話を進めた。

「なんだそれは、胡散臭いな」

「胡散臭くはない。あのホームズも狙っているような代物だからな」

「ホームズが?」

「ホームズだけではない。仮面の男やデュアルハンター、君が憧れたココも狙っていると言う話だ。そのため本を手に入れると言う事は間接的に世界最強を誇示することとも言えよう。君の力を試すにはいい機会だとは思わないかね」

「本当なんだろうなその話」

「本当だとも。すでに部下を数人潜らせてあり、その情報によると戦場は新宿辺りとなるだろう。その時までリハビリでもしておくといい」

 坂波地堂の目的は創世記から得られる不老不死の知識であった。それを手にし、最強をさらに最強にするために坂波地堂は本を求めるのである。また、ココという捉えられない相手に自らの研究成果を試す絶好の機会でもあった。

 そうしてまた一人、争いに踏み込む人物が現れたのである。


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