画竜点睛 #2
「やあホームズ。今、日本に着いたよ」
喫茶店でコーヒーを飲むホームズと時を同じくして、西条最上は日本の成田空港に来ていた。右の耳に当てられているスマートフォンはどうやらホームズと繋がっているようで、楽しそうに笑いながらタクシー乗り場までの道を歩いていた。
「タクシーでメールした住所まで来てくれ。その後拠点で作戦を報告する」と、電話の向こうからホームズの声が聞こえる。
「迎えは無いのかい。薄情だねえ」
「お前に言われたくはないな。とにかく早く来い」
西条最上は切られた電話を見て微笑む。
シャツと短パンと言うカジュアルな服装にサングラスをかけている西条最上は端から見ればただの一般人にしか見えないだろう。しかし、彼の腰には銃が仕込まれており、持っているバッグの中にも様々な武器が入っていた。
武器商人である西条最上にホームズから依頼が来たのは一週間ほど前であった。
世界一の殺し屋ココが創世記を入手し、日本に向かっているとの情報を手に入れたホームズはその創世記を奪うための仲間に西条最上を選んだのである。
ホームズからの依頼という怪しげなものだが、彼らはたまに共に仕事をするくらいには仲のいい関係であり、西条最上は二つ返事でホームズの依頼を受けた。
危険な依頼でもあったが彼にとっては関係ない。何故なら、西条最上に取って自らの武器を売るという仕事を情報で邪魔できるホームズこそが最も危険な存在であったからだ。
敵にすると邪魔になるなら仲間になってしまえばいいという考え。
謎に包まれた人間であり、世界中のあらゆる情報を入手できると言われているホームズを知る事で自らに降り注ぐかもしれないリスクを軽減できると考えての行動である。
西条最上は空港前でタクシーを拾う。
行き先を告げ、動き出したタクシーの中でこの平和な日本という国を彼は見ていた。
自らが生まれ育った町とは全く異なる場所であり平和すぎる国。そして今からその国で起こる事を思い、西条最上は静かに町を見つめた。
おそらく、この後どれだけの騒ぎを起こそうとも、この国の人間はその真相を知る事は無く、また知ろうともしないだろう。
それが平和ボケというやつなのだ。
自らに被害が及ぶ事はないと思っており、同時に誰かが何とかしてくれると思っている。それが西条最上には馬鹿らしくて仕方が無かったのである。常に戦場に身を置いていた西条最上にとって自分の身は他の誰でもない自分で守る物であり、だからこそ、このような平和な国で何も知らずに死んでいく人が出てくるのかと思うと、その平和が馬鹿らしく思えてしまうのだ。
「お客さんは空港から出て来たみたいですけど、どこか行っていたんですか?」
タクシーの運転手が西条最上に話しかけてくる。
「海外から仕事でこっちに来たんですよ」
「そりゃ大変だ。日本語がお上手ですが、日本は初めてで?」
「来るのは初めてです。仕事柄色んな国の言葉を覚えているんですよ。しかし、平和でいい国ですね」
そんなたわいもない会話が続く。
運転席を守っている透明な板は、銃で簡単に打ち抜けてしまうような物であり、西条最上が気まぐれを起こせば運転手を簡単に殺す事も出来てしまう。
平和すぎる。西条最上は再びそれを思った。
西条最上は平和を愛すが、平和が本当に存在するとは思っていない。
光りの影には闇があり、平和の影には犠牲がある。それを知っているのであった。
武器商人として様々な戦争を終わらせて来たが、それにより生まれてしまった戦争もある。いつかはその全てをなくしたいものだと、彼は心の中で思う。
「着きましたよお客さん」
タクシーに乗ってから一時間ほどで目的地に到着し、西条最上はタクシーを降りた。そこには一件のアパートが建っており、彼らの拠点となる場所はそこの一室である。
チャイムを鳴らし扉を叩く。すると数秒後に鍵が開いた。
中から出て来たのはスーツを着たホームズであった。
「よお、こうやって会うのは久しぶりだなホームズ!」
「あぁ、四年と七十三日ぶりだ」
軽い挨拶を交わし二人は中に入る。中には部屋が二つあり、必要最低限の家具とベッドが設置してある。
「コーヒーでも入れようか」
「あぁ、お願いするよ」
ホームズは近くにある電気ケトルのお湯でインスタントのコーヒーを作りながら「机の上に資料が置いてあるから目を通しておけ」と、言葉を投げた。
机の上に置いてあった数枚の紙を手に取って西条最上はソファに座る。
その目の前にコーヒーを持ったホームズは立ち、コーヒーを渡した。
「何か質問はあるか」
「この秋山零士という少年が目的の人物で間違いないんだな?」
ホームズは机に腰をかけ、コーヒーを一口啜る。
「俺が確定情報としている情報に間違いはあり得ない。覚えておけ」
「以前、紛争地域で出会った時にも思ったがその情報網は一体どうなっているんだホームズ」
「企業秘密だ」
「まったく、君は秘密の多い男だな。少しは仕事仲間として話してくれてもいいんじゃないか?どうせ君は俺の事を良く知っているんだろう?」
それを聞きホームズは呆れ顔で西条最上を見た。
「本当にいい性格をしているな。お前と初めて出会ったのが七年前で、初めて仕事をしたのが六年前だが、これだけ長い付き合いでお前ほど調べられない相手も珍しいものだ。お前に関しては生きていた場所と経歴しか分からない。この俺が本名すら分からないのだからお前の能力は素晴らしいよ全く」
「そりゃ良かった。でなきゃ俺は君と仕事する事は出来なかったかもしれないんだろ」
「まあ、本当は今すぐにでも殺しておきたいほどだがな」
そう言って二人して笑うが、その腹の内は誰にも分からない。
「君のプランには何の欠陥も無ければ質問も無いよ。俺は現れるであろう魔女を見張っておくだけで本が手に入るんだから」
「お前はもしもの時の保険だ。その頭の回転力と痕跡を残さない抜かりの無さは役に立つからな。あと、敵として現れられると面倒だ」
「ホームズにお墨付きを貰ったとなっちゃ期待に答えなきゃいけないねぇ」
顔に笑顔を貼り付けながら西条最上はコーヒーに口をつける。
「……本当に、食えない男だ」
ホームズは西条最上に聞こえない程度の声で小さくそう呟いたのであった。
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