第三幕『よはなべてこともあり』1
東京の寒さには温かみがない。学生時代、そんなことを誰かが言っていた。
温かみのある寒さ? 屋内にいた陣平はその言葉に矛盾を感じたが、一歩外に出て外気に意識を集中させると、言葉の矛盾は、事実となって体感に現れる。
まるで肌を鋭い針で何度も突き刺されるような、情のない嫌な寒さが陣平の身体を締め上げる。
そのとき感じた恐怖にも似た寒気は、いまも冬が訪れる度に思い出す。
「なんだこの寒さ……殺す気か」
厳冬の午前中。コートを着込み背を丸めた陣平は、東京のある種人工的な寒さに対し、心からの不満を蒸気のような白い息と共に吐き捨てる。屋外に出てまだ数分しか経っていないというのに、既にその身体は芯まで冷え切っていた。
灰色のぶ厚い毛布のような、無機質な雲が広がる曇天の空からは、今にも雪が降り出しそうだった。
十二月二十四日。
クリスマスイブの訪れた街は、赤と緑を基調とした、非常に彩り豊かで華やかな装飾で飾り立てられていた。
行き交う人々はみな笑顔だったが、この日を精一杯楽しもうと、どこか強迫的な表情をしているようにも見えた。
傍を幸せそうに笑う親子が通り過ぎる。幼いおさげ髪の少女が、サンタクロースになにをお願いしようか真剣に悩んでいた。その光景に思わず顔がほころぶ。
自分があれくらいの歳の頃はサンタクロースにどんなものを願っていたっけ? 当時のことを思い返そうとしてみるが、もう塵ほども思い出せなかった。そんなことを考え、どうにか寒さから意識を遠ざけようとする陣平は、ずり落ちそうになっているショルダーバッグを背負い直すと、小さなくしゃみをして、目的地へと歩みを速めた。
「おや、こんなに早い時間にどうした。来るのは午後じゃなかったか?」
事務所に突然現れた陣平に虚を衝かれた鈴璃は、机上に投げ出していた脚を反射的に床に下ろす。
「ああ。この後ちょっと用事があってな。というか、今日は午前中に来るって、昨日連絡を入れておいた筈なんだがな?」
陣平は訝しんだ表情で鈴璃を一瞥する。
「む、そうだったか? それより今日の分はちゃんと持ってきたか?」
あからさまに話を逸らした鈴璃は、右の掌を陣平に向け言った。
「はいはい。ちゃんと持ってまいりましたよ」
陣平は呆れたように言い、背負っていたショルダーバッグをソファに下ろすと、中から一冊のファイルを取り上げ、鈴璃の掌に置いた。それは陣平が秋口から習慣にしている、魔女が関わっている可能性のある不可解な未解決事件及び、表面上は解決した事件をファイリングした物だった。その中には現在捜査中の事件も含まれていた。
数ヶ月間、険しい顔でファイルを眺め続けた陣平は、あるとき、自分が感じる一切の根拠のない微かな勘などより、魔女の痕跡は魔女が一番察知できるのではないかと、餅は餅屋なのではないかと、はたと気付いた。早速そのことを鈴璃に相談すると、「なんだ、そんなことをしていたのか、さっさと私のところに持って来ればよかったものを。大切な時間を無駄にしたな。まあ、その努力は評価するが」と、呆れられた。
今では起きた事件の資料全てを陣平がファイリングし、事務所で毎日のように魔女対策会議が開かれることとなった。
「坊やから見て何か、勘に引っかかる事件はあったか?」
ファイルをパラパラとめくりながら鈴璃は尋ねる。
「殺人や強盗、放火、傷害事件は後を絶たないが、それらの事件はほとんど容疑者が特定されている。だから魔女とは関係ないと思う。だが一つ気になる事件が……」
「これだろう」
鈴璃は陣平の言葉を遮って、ファイルから一枚の書類を抜き出す。そこには、〈都内の建築現場数箇所から異形コイル鉄筋数万本が一晩で消える〉との文章があった。
「都内には想像以上に建築の現場が存在する。その全ての現場から異形コイル鉄筋だけが一晩で消えるなんて明らかに奇妙だ。調べたところ窃盗団の盗難による線も薄いようだ。現場に証拠がなさ過ぎる」
「そうだな。これは十中八九魔女の仕業だろう。こんな大量のコイル鉄筋を何に使うのか不明だがな。一応リストに加えておくか」
鈴璃はそう言い、椅子から立ち上がると、抽斗で覆われた壁に書類を貼り付ける。壁には既に夥しい量の捜査資料と新聞の切り抜きが貼り付けられていた。それら全てが魔女ないし、鳴茶木真愛に関する事件だと二人が判断した資料だった。
〈都内で複数名の女性が失踪〉〈都内で謎の爆発。ガス管の破裂が原因か〉〈首都圏を中心に車両の盗難が多発〉など、一見なんてことないと思えるただの事件や事故だったが、鈴璃によると、これら全てから「魔女の匂いがする」らしい。陣平もそれらの全ての事件に違和感を感じていた。
「鳴茶木真愛は一向に動きを見せねえな。もう年末だぜ。ここまで静かだと、かえって不気味だな」
陣平は壁中の資料を眺めながら言う。
「かなり深く潜っているみたいだからな」
「そういえば、潜るってなんなんだ?」
「魔女が身の回りに結界を張って、同類たちに察知されにくくすることだ」
「へえ。ずっと潜ったまま、二度と浮上してこないっていうことはないのか? 沈没船みたいに」
陣平は言う。口調こそおちゃらけていたが、その表情は真剣だった。
「気持ちはわかるが、可能性は低いだろうな」
わかりやすく落胆する陣平を尻目に、鈴璃は肩をすくめて軽く笑った。
「お。そろそろ行かないと」
腕時計に眼をやり、陣平はファイルをショルダーバッグにしまい始める。
「おや、もう行くのか? まだ来てから数分も経ってないだろう。茶でも飲んでったらどうだ」
「悪い。遅刻しそうなんだ」
ショルダーバッグを背負った陣平は、そそくさと出口に向かう。扉を開けると、そこには二人分のマグを乗せたお盆を持った雨耶が、今まさに部屋に入ろうとしているところだった。雨耶の僅かに驚いた顔が視界に飛び込んでくる。
ぶつかりそうになった陣平は、瞬時に身体の向きを変え、すんでのところで雨耶を躱した。雨耶も流れるような動きで陣平を避ける。お盆の上のお茶が静かに波打つ。
「おっと、悪い雨耶さん。じゃあな家館さん、また明日来る」
そう言うと陣平は、あっという間に店から姿を消した。取り残された鈴璃と雨耶は、黙ってその場に立ち尽くしていた。
「まったくせわしないな。あれほど急ぐ理由はなんだと思う?」お盆からマグを取った鈴璃は、お茶をすすりながら雨耶に尋ねる。
「さあ、皆目見当がつきませんね」
雨耶はさらりと答えた。
身を切るような寒風が吹きすさぶなか、赤坂で下車した陣平は、目的地である蓮堂医師の病院を足早に目指した。
陣平が急いでいた理由は、予約した診察時間に遅れそうだからだった。物言いの割に生真面目な性格の陣平は遅刻が大の苦手で、時間にはしっかりしないと気が済まなかった。
「ちっ、まずいな。資料のファイリングに時間を取られすぎた」腕時計を見ながら、陣平は言う。
病院に到着し、受付に挨拶を済ますと、陣平は飛び込むように診察室の扉を開けた。
「すみません。遅くなりました」
「時間ぴったりなのでギリギリセーフですよ、輪炭さん」
カルテに眼を落としていた蓮堂医師は、顔を上げ、にこやかに告げる。
「今日は珍しいですね。いつも十分前にはいらっしゃるのに」
「ちょっと仕事の方で手間取りまして。間に合って良かったです」
陣平は呼吸を整えながら言う。額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「それはお疲れ様です。ところで、そちらはお連れ様ですか?」
「え?」
蓮堂医師は不思議そうな顔をして、陣平の後方、診察室のドアへと視線を向ける。つられてその方向に眼をやると、愕然とした。
ドアの前には鈴璃が仁王立ちで立っていた。
「い、いい、い……家館さん? なんでここにいるんだ?」
「用とはなにか気になって、ついてきた」
「つ、ついてきたって」
面白いほど取り乱す陣平に向け、鈴璃はにこやかにそう言い放つと、つかつかと診察室の奥へと歩き出す。蓮堂医師の前で立ち止まると、その右手をおもむろに差し出した。
「初めまして先生。私、輪炭の同僚の家館鈴璃と申します」
「これはどうもご丁寧に、蓮堂聖です」
蓮堂医師は椅子から立ち上がり、鈴璃と握手をする。
「こんな美人の同僚がいらっしゃるなんて、輪炭さんも隅に置けませんね」
「あら。先生ったらお上手ですね」
明らかに猫をかぶった鈴璃の話し方に、肌が粟立つ思いをした陣平は、二人の会話に割って入る。
「なに和やかに談笑してんだよ。アンタが出てってくれねえと、診察が始められねえだろうが」
最悪だ。今までひた隠しにしてきた精神科通いがバレた。それも鈴璃に。隠すようなことではないとは分かっているが、鈴璃のことだ、どんなことを言われるかわかったもんじゃない。陣平は叫び出したい衝動に駆られる。
「診察はお連れ様がいても出来ますよ」蓮堂医師は、少し含みのある笑みを受かべ、陣平を見る。
「いいえ、結構です。おら、家館さん、帰れ」
陣平は手を振り上げ、出口を指し示す。
「先生は良いと言ってらっしゃるけどな。なにか訊かれて不都合なことでもあるのか? それとも、もしかして照れているのかな?」
「訊かれて不都合なことはないけどダメだ。それに照れてねえ。ほら、行くぞ」
陣平はぐいぐいと鈴璃の背中を押し、無理矢理出口から外へと追いやった。
「では先生、またの機会に」鈴璃が言い終えない内に、勢いよくドアが閉まった直後、蓮堂医師は堰を切ったように笑い出した。
「なるほど。輪炭さんの左腕が動くようになった理由が、わかった気がします」
「どういう意味ですか?」予想外の嵐に、ごっそりと体力を奪われた陣平は、疲弊しきった声で蓮堂医師に問いかける。
「彼女を心から信頼しているんですね。彼女と話している時の輪炭さん、とても楽しそうでしたよ」
その言葉を訊いたとき、陣平は全身を氷柱で貫かれたような衝撃を受けた。
その衝撃は身体中を駆け巡り、陣平は直立のまま固まってしまった。
「輪炭さん? どうかしましたか?」その場に呆然と立ち尽くす陣平に、蓮堂医師は心配げに声をかける。
「い、いや、なんでもありません」
力なく椅子に腰掛けた陣平の頭の中は、一つの違和感に支配される。
改めて思い出す。自分の仕事は魔女である鈴璃を監視し、サポートすることだ。出会った当初は恐怖を感じていたし、それも完全に消えたわけではない。魔女の力を目の当たりにして危険な目に遭ったこともあれば、死にかけたこともある。鈴璃とは、魔女とは、深く関わらないと心に固く誓った筈だった。なのに、この体たらくはなんだ。警戒心も持たず、毎週のように店に顔を出し、机を挟んでお茶を飲み、談笑する。さっきだって、まるでお節介な母親に見せるような態度で診察室から追い出した。なんだこの関係は、まるで友人じゃないか。それもかなり親しい部類の友人だ。
輪炭陣平。お前の誓いはその程度のものだったのか? あのとき感じた恐怖はそんな簡単に忘れられるものなのか? 魔女とはそんな簡単に信用できる存在だったのか?
違うだろ。陣平は頭の中の自分に向け、叫び散らす。
しかし、陣平が衝撃を受けたのは、そのことではなかった。
陣平は、鈴璃と一緒にいることが楽しかった。一緒にいることに安らぎを感じていた。
それをたったいま、蓮堂医師から指摘されるまで、自分がそう感じていたことに塵ほどの疑いも持ってはいなかった。その事実に気付かなかったことに、陣平は衝撃を受けていた。
何故だかそう感じるのが当たり前だと思っていた。鈴璃と一緒にいることがあまりに心地良く、しっくりきていたからなのだと、今となっては、しっかりと自覚できる。
一体いつからだ? いつからこんな無自覚に気を許していた? どうしていままでそこに疑いを持たなかった?
陣平は、自分がいつからそう感じ始めたのか記憶を遡ってみるが、いくら考えても思い出せなかった。ただ、物事が在るべき場所に収まっているような、これでいいんだというような、そんな確信めいた感覚だけがあった。
診察が終わる頃には、違和感によりおかしくなりそうだった頭も冷え始めたが、診察内容が全く頭に入ってこなかったのは言うまでもない。いましがた出てきた病院の入り口には、午前診察終了の札が掛けられていた。
視線を前方に戻すと陣平は辺りを見回す。目当ての人物は直ぐに見つかった。
「お疲れ様です。輪炭様」白いスーツの上に黒い細身のチェスターコートをまとった雨耶が会釈をする。
「お疲れ。送っていこうか? 坊や」
てっきり「病院通いとは、見た目や言動の割にナイーブなところもあるのだな」と、からかわれるのかと思ったが、どうやら鈴璃にはそのつもりはないらしい。
車のボンネットに腰掛けて煙草をふかす鈴璃は、煙と白い息を吐きながら、無邪気な笑顔を向けてくる。今まで何度も眼にしているはずの笑顔が、そのときはとても懐かしく感じられた。さっき感じた違和感が、再び胸の内に滲み出す。
「ああ。頼む。ちょっと訊きたいこともあるしな」陣平は動揺を悟られないよう答える。
「おや? いやに素直だな。てっきり病院の件でお怒りかと思ったが」想像と違う反応に鈴璃は幾分か面喰らったようだった。
「別に怒ってねえよ。ついてきたのはオレの身を案じてだろう? 魔女絡みの事件が多発しているいま、いつなにが起こるかわからねえからな」
「ほう。なかなかどうして、この坊やは意外と目ざといらしい」
「伊達に警部補やってねえよ。一応自分でも気をつけているが結局はただの人間だしな。魔女の前では羽虫同然だ。だから心遣いには感謝する」
陣平は頭を下げ、素直に感謝の意を表す。
「気にするな、私が勝手にやってることだ。でもまあ、感謝されて悪い気はしないな」
鈴璃は長く煙を吐き、何でもないといった様子で言ったが、表情は満更でもなさそうだった。
「わざわざ先生に挨拶した意味はわかんねえけどな。てゆうか、怒ると思うなら初めからやるんじゃねえよ」
「ただ遠くから眺めているだけじゃつまらないからな。中々良さそうな先生じゃないか」と鈴璃は口元に悪い笑みを宿しながら紫煙を燻らす。「で? 訊きたいこととはなんだ?」
「ああ、その、だな……」
いざその時になると、うまく言葉が出てこない。未だなにに対して違和感を感じているのかもよくわかっていないのだ。陣平は頭の中で言葉を精査する。
「アンタとは他人の気がしないんだ」違うな。
「オレたちって仲いいか?」なんだか学生みたいだな。
「なんだか、家舘さんとは初めて逢った気がしないんだ」いやナンパか。
「どうした口籠ったりして。言いたいことがあるならはっきり言え。遠慮なんかするな」
鈴璃は煙を吐くと、深く考え込む陣平に向け言う。
「オレ、ずっと昔から家館さんのことを、この関係を、知っている気がするんだ。ずっと長い間アンタと一緒にいた気がするんだ」
鈴璃の言葉に急かされて思考が中断した瞬間、その時思い浮かんだ言葉がそのまま口をついて出てしまう。
「は?」
その場を取り巻く空気が変化した気がした。鈴璃の口から、煙草が音もなく地面に落ちる。
精査に精査を重ねた結果、一番恥ずかしい言葉を選択してしまったことに陣平は気付いた。穴があったら入りたい。陣平は本気でそう思った。
「と、と言うのも」やけになった陣平は構わず続ける。「ずっと昔にこれと同じ、もしくは似た経験をした気がするんだ。それも何度も。なんも覚えてないんだが、何故だか確信だけがある。家館さんなにか知らねえか?」
鈴璃は暫く地面に落ちた煙草から立ち登る紫煙を無言で眺めていたが、やがておもむろに口を開く。
「ほう? ほう。ほう。ほう。これは今までにないパターンだな。非常に興味深い」
「パターン? パターンってなんだ? もしかしてオレはまた呪いをかけられて、オレが知らないうちにもう一人のオレが作り出されていて、それがひとりでに家館さんと行動しているとか?」陣平は焦ったような早口で自論を語る。
「なんだか、魔女に慣れてきた奴の発想だな」鈴璃は呆れを通り越し、むしろ感心したような口ぶりで言う。そして律儀に落ちたタバコを拾い上げると、丸いフォルムの携帯灰皿に押し込んだ。
「そりゃ、あれだけ魔女と関わっていればこんな発想にもなる。それで、なにか知っているのか?」
鈴璃は再び火を点けた煙草をくわえながら身体を左右に揺らし、暫く困ったような面相をいくつか見せたが、やがて真顔に戻った。
「わかった、全て話してやる。別に隠し立てするようなことではないからな。だが、どんな真実でも驚くなよ」
「今更なにに驚くっていうんだよ? これでも結構な場数を踏んできたんだ。もう何だって来いだ」
陣平は、まるで身の内の不安を追い払うかのように、大袈裟な身振りで答える。
鈴璃は軽く笑い、既にすっかり短くなった煙草を携帯灰皿に放り込むと、不意に黙り込んだ。その姿は、用心深く言葉を探しているように見えた。長い沈黙の後、意を決したかのように小さく息を吸い込む。
「私と坊やは……」
鈴璃が語り出そうと口を開きかけたとき、それを遮るかのように陣平のスマホがけたたましく鳴り響く。
「どうぞ」一瞬の沈黙の後、鈴璃が電話に出るように促す。
「チッ」会話に水を差された陣平は、大きい舌打ちをすると、着信画面を見ずに電話をとった。苛立ちを隠そうともせず電話口にぶつける。「輪炭だ」
明らかに不機嫌だった陣平の表情は、電話口の相手の声を訊いた途端、真剣なものへと変わる。
「管理官? どうしたんですか、そんなに慌てて。なにかあったんですか?」
電話の相手はどうやら九郎らしい。そのうえなにか緊急事態が起きた様だ。少し離れた鈴璃の位置からでもかなり緊迫した状況が伺えた。
「え? それは、本当……ですか?」
陣平の顔から色が消え、その場に鋭い緊張が走る。蒼白というわけではない。ただその顔色は、酷く不吉な色彩を帯びていた。
「わかりました……はい。すぐに向かいます」
電話を終えた陣平の顔色は通常に戻っていた。しかしその表情は酷く緊張したものに感じられた。
「どうかしたのか?」その表情に、不穏めいた雰囲気を感じた鈴璃は、真剣な声色で訊ねる。
陣平が険しい顔で鈴璃へと向き直る。次の瞬間、その口から出たのは、思いもよらぬ言葉だった。
「鳴茶木真愛が……警視庁に、出頭した」
鈴璃は眼をぱちくりさせるが、すぐにその口角が吊り上がる。
「ほう。それはそれは、非常に面白いな」
暗い空からは、なにかの始まりを告げるように、灰のような雪が舞い始めていた。
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