第三幕『よはなべてこともあり』0
至る所で禍々しい黒煙が上がっている。
もくもくと重く蠢くその黒煙は、まるで意思を持ち、空を丸ごと飲み込もうとしている邪悪な巨竜のように見えた。
閃光と地鳴りが響き、身体の芯を震わせた数秒後には、轟音が耳をつんざく。
あたりを見回す。全てが燃えている。そして全てが灰となる。
警視庁庁舎は既に跡形もなく、瓦礫と化した外壁からは、容赦なく炎と黒煙が上がり続けている。
倒壊した建物の中で、東京タワーはメインデッキが吹き飛び、上半分が逆さまに地面へ突き刺さっていた。
スカイツリーにいたっては、その巨体を根元部分からボッキリと折られ、支えのなくなったその身で、数多くの建物を無残に圧し潰している。
次いで眼に入ってきたのは死体だった。死体が道端に転がっている。たくさんの死体が瞬く間に積み上がってゆく。夥しい数の死体が東京を埋め尽くしている。
こんな数の死体は見たことがなかった。しかし、感情は自分でも驚くほど冷静だった。おそらく脳が、それらを人間と認識するのを拒否しているからだろう。
「これは、現実なのか?」
茫然とする陣平は、変わり果てた東京の街と、傍に血塗れで倒れている鈴璃を見ながら弱々しく呟いた。
「もちろん。世界のどこにでもありふれている、吐き気がするほど凡庸な現実だよ」
誰かが耳元で静かに囁いた。
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