貴方が優しいから甘えていた

 私はツヅルの自由を奪った。

 今頃なら普通に仕事して、友達と笑って·····好きな人と一緒にいるはずの彼の人生。

 私はそれを奪ってしまった。

 それでもツヅルは私を責めようとはしない。

 俺は充分自由だって言う。


「·····いつもごめんね」


 私はいつも謝る。

 悲しい顔ができないのに、私は謝る事だけは一丁前にできる。


「いいよ、お前悪い事して無いだろ?、謝る時は俺のおやつを食った時と子供にサンタさんがいないって言って夢壊す時だぞ」


 少しだけ私は許された気でいた。

 ツヅルに·····甘えてた。

 私は·····このままでいいと思ってしまった。


「私·····なんで感情が無いんだろう」


 幼いアカリは夜の公園でブランコにポツンと座っている。

 自分がいると両親は、嫌な顔をする。

 アカリが表情一つ変えずにいるのが気味が悪くて仕方がない·····と両親がこっそり話していたのを聞いてしまった。


「·····おじさんとおばさん心配するぞ」

「ツヅルこそ家に帰りなよ、私の事なんて·····なんとも思ってないよ、寧ろ嬉しいんじゃない?」


 アカリの言葉にツヅルは悲しそうな顔をする。


「·····今日ウチ来るか?」

「遠慮しとく、ツヅルのお父さんとお母さんに迷惑、かけちゃうでしょ」

「お前どうするの今日は?」

「·····テキトーにここにいようかな」


 そう言うとツヅルは、アカリの隣りのブランコに座る。


「じゃあ話してようぜ」

「寒いし帰りなよ、風邪ひいちゃう」

「それはお互い様だろ?·····大丈夫だって!馬鹿は風邪ひかないんだからさ」


 ツヅルは満面の笑みでそう言う。


「·····なにそれ·····変なの」


 アカリがそう言ってからツヅルが目を見開いている。

 アカリは気づいていないが、ほんの少しだけアカリが笑ったのだ。


「どうしたの?」

「お、お前今笑ってた!」

「·····え?」

「笑えるじゃんか!あるじゃん感情」


 ガッツポーズをしてツヅルは自分の事のように喜んでいる。

 アカリはツヅルの心の色を見た。

 暗い色は無く、明るいオレンジを輝かせている。


「ツヅル·····ありがとう、私帰るね」


 アカリはそう言って立ち上がる。

 空に寂しそうに浮かぶ月を眺める。

 ツヅルは優しい声色で問いかける。


「元気になった?」

「少しだけ、頑張ろうって思えた」


 アカリは何か思い出したのかツヅルの方を見る。


「·····私ね、高校卒業したら、おばあちゃんのお店に住むことにしたんだ」

「えっと、なんだっけ?心を探すお店·····だっけ?」

「うん、あそこにいたら·····見つかるかもしれないし、それに速くお父さんとお母さんもあの家から私がいなくなって欲しいって言ってたしちょうどいいんじゃないかな」

「そっか」


 ツヅルは寂しそうな顔をする。

 ツヅルの心は青く悲しそうだ。


「大丈夫、また、会えるから」

「·····!そうだな、俺絶対に会いに行くから」


 アカリとツヅルは指切りをした。


 季節は巡り春、高校を卒業したアカリは祖母がいるお店にいる。


「アカリ!ちょいとこっちに来ておくれ!」

「今行きます」


 アカリは整理中のファイルに付箋に貼り、祖母の元に行く。


「どうしたんですか?」

「アカリ今日はあんたにね言いたい事があるんだ」


 いつもはふざけている祖母が珍しく真剣な顔をする。


「·····この店をアカリに貰って欲しいんだよ」

「·····えー」


 アカリは抑揚の籠っていない声が響く。


「あのおば·····店長何故ですか?」

「おばあちゃんでいいよ·····私ね癌になっちゃって、入院する事になったのよ」

「そうなんだ·····」

「そう心配そうな顔をしないで大丈夫だよ、見つかるのが早かったから軽度だったし、治してすぐ帰ってくるから」


 周りの人にアカリは無表情と言われているが、祖母は何となく分かるらしい。

 だから両親に嫌われていたアカリが心配になり「卒業後に家に来ないか」と言ったのだ。


「·····分かった、頑張ってみる」

「ありがとう、ごめんね寂しい思いをさせて·····でも大丈夫一人私が鍛えておいた、助っ人を呼んだんだよ」


 アカリの祖母は達成感のある顔で言う。


「鍛えたって·····」

「アカリがやっていた役目を代わりにやってもらうための特訓だよ」

「書類整理?」

「違う違う、迷いの鎖を斬る役割だよ」


 アカリはここに来てから心の色以外に、迷いのある人たちに巻き付く鎖が見えるようになっていた。

 ますます、普通とかけ離れていく自身に悲しさは無かった。

 これでいいと思ったのだ。

 祖母の役に立つのならそれでいいと思っていたからだ。


「·········あの、助っ人さんはいつ来るの?」

「今日から来るって···」


 その時【ピンポーン】呼び鈴が鳴る。


「アカリ出ておくれ」

「はい」


 そう言ってアカリは扉を開ける。

 笑顔を作って。

 自分は今仕事をしていると言い聞かせて。


「はーい、どうされましたか?今日は営業しておりませんので、明日来ていただいてもらえますか?」

「すみません·····えっと今日からここでお世話になる·····アカリ?」


 アカリはその瞬間無表情になった。


「ツヅル·····?」

「お前のばあちゃんから聞いてない?·····ここでお世話になるって」

「助っ人さんって·····ツヅルの事だったの」

「そうそう俺が、ここの期待の新人になったわけですよ」


 胸を張って、嬉しそうに言うツヅル。

 アカリはそんなツヅルをスルーして、「案内するから来て」と素っ気なく返す。


「待てって〜!」


 ツヅルはアカリを追いかける。


「おばあちゃん·······ツヅル来たよ」

「ちわーっす!ばあちゃん元気?」

「相変わらず元気だねぇ、あんたは」


 ツヅルは「これつまらないものですが」と言って菓子折を渡してくる。

 アカリはそれを貰い中身を開ける。


「·····何で故麩菓子にしたの」

「ばあちゃん麩菓子好きって言ってたから?」

「私たちだからいいけど他のとこだったら、助走つけて殴られるよ」


 アカリはお茶を入れてツヅルの目の前に置く。


「サンキュ·····あ〜生き返る」

「山道だし疲れただろう、ツヅル」

「そんな事ないよ?ばあちゃんいつもなら走って登れ〜!って、言うのに今日はやけに優しいね」

「私はいつも優しいだろうが、全く最近の若いもんは·····」


 二人が話している様子をアカリは見ている。

 二人とも心の色には怒りが無く楽しそうに話している。


「二人には説明したけど、ここを頼むよ」

「うん任せて、私頑張ってみる」

「頼んだよアカリ」

「ばあちゃん俺もアカリの補佐頑張るから」

「頼むよ·····私はお前が一番心配だよ」


 そう言うとツヅルは「なんで?!」と言う。


「すっごい頼りになると思うんだけど?!」

「頼りになる事もあるけど八割近くポンコツなんだよ」

「フォローしてないよなアカリ?·····二割しか頼りないのかよ·····」

「うそうそ冗談ジョークだよ」


その時に笑っていたアカリの笑顔はぎこちないけど本当の笑顔に見えた。



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心探し 赤猫 @akaneko3779

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