楽しさを求めて
「トリックオアトリート!」
小さな魔女の仮装をした女の子が館の扉を開けると突然言ってきた。
「ごめんなさいお菓子はないの」
アカリは少し悲しげな顔を·····していると思うのだが、一切顔に出ない。
「アカリのおやつあげればいいんじゃね?」
「それは嫌だ」
「大人気ないな·····」
ツヅルは困った顔をした。
「なぁ、お嬢ちゃんごめんなそこの姉ちゃんが、食いしん坊でちょっと待ってろよ今お菓子持ってくるからな」
「食いしん坊じゃない」
「わーい!ありがとうお兄さん!」
ツヅルが中に入るとアカリと少女だけになってしまい静寂が生まれる。
「·····少し寒いし入る?」
少女は頷いた。
少女は自身より身長の高い椅子に座り足をぷらぷらと遊ばせている。
「お菓子持ってきたぞ」
ツヅルはそう言って可愛らしいラッピングがされているクッキーを持ってきた。
「おいしそう!本当にありがとう!お兄さん」
「どういたしまして」
「·····ハロウィンは楽しい?」
私が聞くと少女は「うんっ!」と満面の笑みで応えた。
アカリは 少女の心の色を視た。
少女の胸には黄色が光っている。
アカリは少女の笑顔で少し胸の辺りが暖かくなったような感じがした。
「ねぇ·····ツヅル」
「なんだ?」
「トリックオアトリート」
「·········」
ツヅルは目を見開いて黙り込む。
アカリはツヅルの黙りように自分が何かしたかと考えて取り消そうと思った。
「·····やっぱ無しで」
「違うから!驚いてるだけだから、無しにしなくていい·····」
顔を手で覆って
必死な声で訴えてきた。
そんなツヅルをアカリはその様子をお茶を飲みながら見ている。
「お菓子ある?」
「お前が食ったから無いな·····ちょっと待ってろ作って·····」
「無いなら無理に作らなくていいよ·····イタズラはするけど」
アカリは立ち上がりツヅルに近づいた。
ツヅルは身構える。
「く、来るなら来い!覚悟は·····できてる」
「そんな身構えなくてもいいのに」
アカリはツヅルの頭にポンと自分の手を乗せる。
そしてわしゃわしゃとツヅルの頭を撫でる。
「へ?」
ツヅルは何をされたか理解出来ず、間抜けな声を上げる。
「いつもありがとう·····今日のお菓子も美味しかった」
「お、おう?」
「イタズラって·····難しい」
ツヅルはアカリの言葉を聞いて盛大にため息をついてしゃがむ。
「イタズラ·····イタズラ?」
顔を手で覆っているが、耳が赤くなっている。
「·····ツヅル?大丈夫?お腹痛い?」
「ち、違う大丈夫」
「·····?そう、私地下の方行ってくる」
「俺も行く」
「いいよ·····すぐに戻ってくるから」
不満げな顔をしているがツヅルは頷いた。
「··········」
薄暗い地下をアカリは一人で歩く。
奥へ奥へと歩いていると赤い扉の前でアカリは止まった。
「··········今日なら行けるかも」
そう言ってアカリはドアノブに手をかける。
ギィっと嫌な音を立て扉が開きそうになる。
扉が開く度にアカリの顔色が悪くなっていくのが分かる。
呼吸も浅くなっており肩で息をしている。
「·····あ」
扉があと少しで開きそうそんな時にアカリの意識は遠のく。
後ろに倒れる感覚。
もう少しで地面という所でポスッと柔らかい音がする。
「大丈夫か?」
そこには額に汗が滲んでいるツヅルがいる。
「ごめん·····今日は行けると思ったのに」
「無理に·····開ける必要なんて無いんだぞ」
「私が速く感情を取り戻せば、ツヅルは·····自由になれる·····からそしたら·····ハロウィンとかも友達とかと楽しめる·····でしょ」
弱々しいアカリの声が響く。
「·········俺は十分自由だよ、俺は自分の意思でここにいるよ·····だから、だから」
ツヅルは苦しそうな顔をして言う。
「·····俺にもお前の罪を背負わせてくれよ」
そう言ってツヅルはアカリを抱きしめた。
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