心探し

赤猫

甘い甘い

 一人の女は、ぼおっと窓の外を眺める。

 楽しそうに遊ぶ人たちそんな人たちを見ても何も感じない空虚な瞳で見つめる


「ああいう遊びしたい?」

「興味無い」


 声の主に女は素っ気なく返した。


「え〜もうちょっと興味持とうぜ?」

「ツヅルが遊んでくればいいでしょ」

「アカリが行かないなら行かねぇよ」

「·····あっそ」



 コンコンとノックが鳴る。


「ツヅル対応して」

「はいよ〜」


 ツヅルが扉を開けると制服に身を包んだ女の子がいた。


「あ、あのここって心を探すのを手伝うお店ってここですか?」

「はい·····ようこそ心の館へ」


 先程の子供っぽい話し方はどうしたのか恭しく女の子に頭を下げアカリのいる向かいの席に座らせる。


「ようこそ、ご要件をお聞かせください」

「あ、えっと、その·····」


 話そうとしても少女の口からは本題は出ない。

 本人も戸惑っているようで「すみません」と謝っている。


「ツヅルここ

「かしこまりました」


 いつの間にかツヅルの手には刀が握れている。


「な、何をするんですか?!や、やめて殺さないで!」


 少女は懇願するが、ツヅルは容赦なくアカリに指示された所を斬った。

 少女は自分の命の終わりを悟り目をつぶるが一向に痛みがこない。

 恐る恐る目を開けると刀を鞘に収めたツヅルの姿が目に入った。


「あ、れ?どこも斬られてない?」

「彼が斬ったのはあなたの悩みです、すごく絡まっていたから·····これでお話できるでしょう?」

「さっきよりなんか苦しくない?」

「すみませんこの人本当に言葉足らずで」

「ツヅル·····お茶」

「はいはい」


 そう返事をしツヅルは奥の部屋に 行った。


「·····ではお話聞かせてもらいましょう」


 アカリは抑揚の無い声で話す。


「·····あの私恋愛とかしたこと無くて·····それで恋愛感情を知りたくて·····」

「そうなんですか·····これ緑茶なんですけど大丈夫ですか?」

「あ、はい大丈夫です、いただきます」


 ツヅルがアカリの変わりに相槌を打つ。


「·····少しお時間をくださいここにある本は読んでもいいので·····ツヅル」


 アカリとツヅルは地下に行った。


 地下は薄暗く少し気味が悪い。

 アカリとツヅルはそんな道をいつも歩いている通学路のように歩く。

 赤い扉の前に着くと、アカリは扉を開けた。

 そこには色とりどりの金平糖があった。


「俺が取ろうか?·····そのために呼んだんだろ?」

「いいツヅルは何となく連れてきただけ」


 アカリは自分の身長よりある高さにある瓶に手を伸ばす。

 あと少しで取れそうになった時にアカリの足が滑った。


「·····ったく危なっかしいな」

「あ、助かった」

「怖がるとか無いのかよ」

「·····あったら今頃普通の仕事してる」

「それもそうだな」


 アカリの肩を抱きながらツヅルは言った。

 普通の女の子なら男の子に肩を抱かれれば多少照れはするはずなのだが、アカリは微動だにしない。


「俺が取るから大人しくしてろ」

「そうする」


 ツヅルは難なくアカリが欲しがっていた瓶を取った。


「ありがとう」

「どういたしまして、戻るか」


 ツヅルの言葉にアカリはこくりと頷いた。


「なぁ·····誰かを好きになる事無いのかアカリは」

「無い」

「即答·····」

「何回も言うけど心があったら私は今頃こんなことをしていない」

「いつか分かるといいな、それまで俺も一緒にいるからさ」


 こういうセリフを言われたら漫画だったら微笑んで「ありがとう」と言えばいいのだが、アカリは表情を変えずに「ありがとう」と言った。


「お待たせいたしました」

「えっと、それは?」


 少女はツヅルの持っていた瓶を見て言った。


「感情の入った金平糖です」

「金平糖?」

「食べてみてください」


 そう言って瓶を少女の目の前に置く。

 少女はおずおずと瓶の中に入った金平糖を取り口に入れた。

 甘い砂糖の味が口に広がる。


「·········ありがとうございます、何となくわかった気がします」

「お役に立てたなら良かったです·····私たちは感情を教えるだけ本当の感情はあなたが見つけてください」

「頑張ります!」


 少女は深々と頭を下げてお店を後にした。


「お疲れさん」

「·····やっぱり人と話すのは慣れない、疲れた」

「どうだった?あの子見つけられそうなのか?」

「·····うん、薄らだけど見えたから」


 アカリは感情が無い代わりなのか、心の色が見えるのだ。

 淡いピンクなら恋心、青なら悲しみ、赤なら怒り、黄色なら楽しい·····という感じで彼女の瞳に映る。


「そっか、なら良かった」


 安心したようにツヅルは言う。

 しばらく静寂が続く。

 ツヅルはアカリ話したいことがあったのか声をかけた。


「··········なぁアカリ──────」


 アカリを見ると、すやすやと眠っていた。


「疲れたよな·····人の心見るの結構神経使うし」


 ツヅルはアカリをヒョイっとを持ち上げた。

 相当疲れているのだろう、全く目が覚める気配がない。


「·····置いて行かないで·····」


 寂しそうな声でアカリぽつりと呟いた

 ツヅルはそんな彼女を見て微笑みながら言った。


「·····お前がお前を見つけるまで、俺は見捨てないから」


 眠っている彼女には聞こえない静かな部屋に彼の声が響くだけだった。









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