桃、そこには桃2つ。
さて、時計の針はあっという間に天辺へとその身を移し、普段なら既に夢の国へと入国しているだろうというのに、いまだに俺の部屋は外から見ても一目で場所がわかる程、時刻とは見合わないような明るさを保っていた。
だが、先程までのようにギャーギャー騒いでいる訳ではなく、このリビングにいるのは、正座をした千堂大地……否、正座をした卑しい豚が一頭のみである。
ん?どうして二人はいないんだ、お前のブヒブヒ観察日記はいいから早く美女たちを出しやがれドM豚野郎!って?
ふっふっふ、二人は現在君たちには愚か、俺でさえ会う事は出来ないのさ。
そう、彼女たちは今!共に!お風呂に入っているのさ!
何でそんな事になったのかは、今から30分ほど前に遡る———
こういう回想したみたかったんだよね。グフフ
◇◇◇◇◇
「うわーん!悲しいデス!なんでこいつヒロインを選ばないんデスカ!絶対ヒロインの方が性格いいのに!馬鹿デス!あほデス!ショーガッコウからやり直すべきデス!」
「いきなりどうしたのよ……てか、このドラマ本当につまんないわね……」
「つまんなくないデスヨ!これは今時の乙女のバイブル的存在のドラマですヨ!」
「そ、そうなの!?(もしかして、今時の若者の恋愛を知るにはこれを見るのが近道なの!?若者の恋愛ドロドロしすぎじゃない!?)」
「ウム!これこそがジャパニーズラブ!ドロドロの中に潜む純愛!これが真の愛情表現なのです!うおぉぉぉ!」
「そ、そうなのね!勉強になるわ!」
先程とは打って変わってエリーの謎発言に納得する李梨沙。まさか純粋すぎて信じるとは……なんて、なんて可愛いんだ!!!
端から見たら信じやすいというのは少し欠点にも感じ取れることなのだろうが、その欠点すら彼女の可愛さを更に引き立たせるスパイスと化し、俺の推し事意欲を加速させる!!!このお方を推してよかった!ありがとう李梨沙のパパとママ!彼女を産んでくれてありがとう!!!
……ゴホン。力説している場合じゃないな、変な誤解を解かなければ
「いやいや、そんな訳がないでしょ……。ほら、もういい時間だからお酒はやめなさいエリーさん」
「うえぇぇ!取りあげるなんてあんまりデスぅぅ!!!」
「そんな真っ赤な顔で言われても説得力ないんだけど……ほら、お水あげるから」
「むーーー!もういいですよーだ」
「「!?」」
そう言うとエリーは、ただでさえ薄着な自身の衣服を脱ごうとしたが、間一髪ソレが見えるか見えないかのところで李梨沙が止めに入った。……ソレってなんだって?それは諸君の豊富な想像力で補ってくれたまえ、あ、鼻血が……
「何で止めるのですかー!お風呂に行きたいだけですヨー!」
「だ、だからってここで脱いじゃダメでしょ!大地くんもいるんだし!」
李梨沙が、また大地くんって……あぁ、キュン。キュン死。もう、ずキュン。
「わ、わかりましたよ〜。なら一緒に入りましょう梨沙。ダイチーお風呂借りますね〜」
「私はいいわよ、入ってきたし」
「ダメですよ!裸の付き合いしましょうよ〜」
「やーだ。貴方と個室で二人っきりにされたら、何されるかわからないじゃない」
手をワキワキさせながらそう言うエリーと、目の前のワキワキ留学生から身を守るように体を隠す李梨沙。そして、その光景をニコニコ……いや、ニヤニヤと見守る俺。
「もう!ならダイチと裸の付き合いするからいいデス!ダイ「よし、早くいくわよー。大地くんお風呂借りるわねー」
「は、はーい」
突然のエリーの提案に、百人一首の名人を彷彿とさせるようなスピードで返答し、すぐさま風呂場へと連行する李梨沙。
「……なんでそんなに悟ったような顔してるの?」
「大丈夫。気にしないで!いいお湯を!」
「なにそのいい夜をみたいなやつ……」
お、推しが俺ん家のお風呂に……グフフ。
おい、そこぉ!!!気持ち悪いって言うなよ!これでも理性を保つためにさっきから太ももつねってるんだ!多分そこ真っ赤通り越して黒くなってるよ!?
そりゃ内心グフフですよ!けど顔面だけは菩薩にしてるからいいじゃないか!もう悟りだって開きそうだよ!いや推しこそがこの世の真理って新しい扉を開いちゃってるよ!(?)
……ゴホン。とにかく、こればかりは酔いどれエリーに感謝ってことは間違えないな。うん。おっと、油断したらヨダレが。正座でもして心を清めないと……グフフフフ
◇◇◇◇◇
ま、こんな神展開が起こって、無事にブヒブヒ正座豚野郎が爆誕したって訳さ。本当に数十分間、大変いい思いをさせていただきました。感謝感激推しあられ。
ガチャ
おっと、どうでもいい卑しい話ばかりしていたら二人がお風呂から上がったようだ。皆、お待たせ!
「いや〜いい湯でしたよ。ダイチもはいってきたらどうデス?……なんで正座してるんですか?何かやらかしちゃいました?」
「いや、僕は何もやらかしてないよ。ただ、心を清めてたのさ……ってなんでバスタオルだけなんだよ!服着ろよ!」
穏やかな心のまま振り返ると、薄いバスタオル一枚だけを体に巻いた豊満ボディの金髪留学生がこちらを覗き込むように立っていた。
「いや、服を取りにきたんですって。どうしてそんなに慌ててるんですか……」
「一瞬にして清めたはずの心がピンク色に染まったからだよ!!!」
まずい。この場にいるのは非常にまずい!さっきまでも十分すぎるほど刺激が強かったが、二人きりでこのシチュエーションは鼻血噴水案件だ。これで失血死でもしたら、あの世でも恥ずか死してしまう!即刻この場を離れねば!
そう考え、この場を離れる為にすぐさま立ちあがろうとする大地だが、この時の彼は驚きのあまり重要なことを失念していた。
「いっ!?」
立たあがろうとした大地はその行為をやり終える事はなく、なすすべもなく前のめりに体勢を崩す。
そう、忘れていたのだ。自身が数十分にもわたり正座を行なっていたことを———
ガチャ
「あがったよ大地くん。早く入りな……」
エリーに数分遅れ、お風呂から上がった李梨沙の視界に入ったのは、何故か尻を突き出し手に白い布を持ったままうつ伏せで寝そべる大地と、一矢纏わぬまま少し屈み彼を見下ろすエリーだった。
「えーと……いやん♡」
「……いやん♡じゃ、ないわよ!!!!!」
(@⌒ー⌒)
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