やればできる子 大地くん



「予想はしてたけど、人が多いわねぇ」


「……そっすね」


「並ばないといけないわね、暑そう」


「……そっすね、ところで本当にここ?」


「えぇ、そうよ?ほら、すごい列。とても美味しいクレープを提供しているようね」


「…………そっすねぇ。はぁ、一応水はあるんで欲しくなったら言ってよ……」


「あら、気がきくわね。ありがとう」


 俺は約束をした通り、バイト終わりに優里さんと共に繁華街にあるクレープ屋さんに来ていた。


 やはり優里さんのオススメということもあり味も美味しいのだろう、店の前には15時頃ということもあるだろうが行列が既に形成されている。


 そう、ここまでは予想通りの出来事だ。


 ん?その言い方だと、なにか勘違いがあったみたいに聞こえるって?あったまいいな〜君らは〜!その通り!勘違いがあったのさ!


 え?どこにって?それはね……優里さんが一人じゃ行き辛いみたいな事の解釈をさ!


 俺は前述の通りその言葉の意味を、一人でクレープ屋のような、キラキラ〜、ウフフ〜、ワキャキャ〜とした場所へと足を運ぶ勇気がないからついて来て。と捉えていた。


 だが、その解釈が間違っていた事を俺は店と店の看板を一目見るだけでわかってしまった。


((……こ、この店、カップルしかいねぇーーー))


 まず第一に目に入ってくる情報は、長蛇の列にはカップルしかいないということ。そして、店の看板にはカップル限定メニューやら特典やらがびっしり書いてある事だ。


 そう、どうやら俺は優里さんがこのお店の商品を食べたい為に、これから偽彼氏的な役割をしなければならないようなの……


 *


 俺は優里さんと共にその長蛇の列へと決死の覚悟で飛び込んだ。うん、飛び込んだはいいんだけど、やっぱり優里さんが美人すぎるからなのか周りからチラチラ見られる……


 何もしていない筈なのに、ここまでチラチラされるともなると何故か萎縮してしまうよな……いやぁ、美人ってほんと大変ですなぁ……


 ん?でも、いつもの優里さんに憧れ〜って感じの目じゃないような、心なしか俺が見られてること、ない……?


 いや、勘違いじゃありまへんで旦那!前に並んでいるカップルの女性と目が合いましたもん!俺やで!注目なのはどうやらこの、俺やで!俺の時代来たんか!?お!?


 いやまぁ、冗談はおいといて、本当に周りを見回してもカップルばっかりだぁ……前も後ろもカップルのみで場違い感がすんばらしいゼ!オセロ方式だと俺らもカップルになってるんじゃない?(ヤケクソ)


 …………あれ?てか、この状況周りからしたら既に俺らもカップルに見られてることない?( ͡° ͜ʖ ͡°)


 ……えーと、仮にでもそう考えるならおかしくね?なんでこんなに俺ばっかり見られてるの?


 俺ら二人ならまだしも、優里さんがこんなに近くにいるのに、俺の方が注目を浴びているのは本当によくわからんぞ!


 ん?なんか先程目があった女性がコソコソと隣の男性と話している……俺はこっそり聞き耳をたてると


「ねぇ、後ろの子綺麗すぎない?芸能人かな?」


「いや、だとしたらこんなに堂々と彼氏と並ばないだろw」


 や、やはりカップルに見られてる!?


 照れますな〜お兄さん。だが、苦節20年。女性のじの字も無かったこの人生で初めて、こんな勘違いをされてあっしは嬉しいでやんすよ!ありがとう!前のお兄さ……ん?


「いや、ふっ、それはないでしょ……言っちゃ悪いけど釣り合ってないもん」


「こら、聞こえてたらどうすんだ……」


 …………おなごよ。バッチリ聞こえとるがな。


 おいおいおいおいぃ!こちとら、どこぞの部族かってくらい耳はいいんじゃこらぁ!!!しかも鼻で笑いやがったなこらぁ!あ、彼氏さんはいい方ですよ。本当に(^^)


 チラッと優里さんの方を見るが、幸い彼女には聞こえていなかったらしく反応はない。優里さんって案外行動的だから、ないとは思うが喧嘩にでもなったら大変だからね〜


 いやでも、内心悲しい事は悲しいがそこまでではないな〜。


 そりゃそうだろ、と自分自身が当たり前だと感じてしまっている事が大きいのだろうか。はたまた、女性関係に関してはどこか諦めに入っている事が大きいのか。


 どちらにせよ現在の俺の心は、某配管工ブラザーズにおいてのスターモードだと言って差し支えないだろう。コインくれよコイン。


 ……でも、これで納得だな。俺に集中するこの好奇ともいえる視線の数多は、どうしてこいつがこの美人と!?的な事ってところだろう。




 …………なんかそう考えたら腹立って来たゾ!一人ならまだしも大勢なら話が変わってくるゾ!せっかく器の大きい所を見せようとしてたのが台無しなくらいムカつくゾ!


 ……!ふふふ、こうなったらプラン『K・B・K』を実行する時だ!


「優里さん……いや、優里?喉は乾いてない?」


「!?  ……ん、少し」


「はい」


「あ、ありがとう、大地くん」


 そう言って俺はカバンから飲料水を取り出し、優里へと渡す。


 ふふふ、何しているんだクソオタク。何が優里だ!って?


 ハハハハハ!バカめ!私は既に作戦を実行へとうつしているのだよ!


 なにが?って?説明してやろうじゃないか!これが通称『K・B・K』作戦。要するに 『か、勘違いしないでよね!別にアイツらにムカついているんじゃなくて、彼氏(仮)だからやってるんだからね!』 だ。


 内容は実にシンプル。彼氏がやりそうな事をして、周囲の好奇の目を向け鼻で笑ってくる輩の鼻っ柱をへし折って植木鉢に植え、その成長記録を夏休みの自由研究にする。ただ、それだけだ。


 そう、この作戦は俺の自尊心を取り戻しながらも、優里の本来の目的である偽彼氏も果たせる至高の作戦なのである!



「ありがとう大地くん。冷たくて美味しかった……あの、それで……その、さっきはなんで呼び捨てにしたの?」


「あ、ごめん。この前言われたから呼んでみたんだけど、やっぱりダメだったかな……」


「いや!全然大丈夫よ!是非ともこれからもお願いするわ!」


 珍しく前のめりになってそう言う優里。


 なんかこの頃の彼女からは、以前に抱いていた彼女の印象とは違うものを感じるなぁ。どこか、感情的になったと言うか……いや、いい意味でね?


「う、うん。ありがとう優里」


「うっ……い、意外と破壊力があるわね、呼び捨てって……」


 そう言い頬を少し赤く染める優里。


 ど、どうしたんだ優里さん!?このやりとりはまるで、初々しいカップルのソレではないか!


 俺の知る優里さんはこの状況でそんな事をするような人じゃない。ましてやこんな合理的ともいえないような行動を……まてよ?この状況、合理的…………はっ!?


 まさか、優里さんはカップルでの来店時限定の特典が、俺が周囲に疑われているせいで受けれないかもしれない事を懸念して、自らを犠牲にして『K・B・K』作戦の為に演技を!?


 な、な、なんて心優しいお方なんや……

 本当に何度でも言うが、俺に李梨沙という心に決めた女神がいなければ絶対に優里さんを推しているな。うん、推せる。


「……いや、なんで泣いてるの?大地くん」


「……この推せるけど、推す事の出来ないどこへも昇華できないやるせなさ……ロミジュリ的展開についに涙腺が決壊したんだよ……」


「あぁ、うん。よくわからないわ」


 そんな事を話していると、また前からコソコソ話が聞こえてきた。


「……え、本当にカップルなの!?」


「いや、そうだろ……」


「でも、なんで泣いてるの?怖い……」


「それは俺も怖い……」


 ふっ、みたか、前列の者(女性)よ。

 俺だってやればできるんだからね!?


 そう自身を誇らしげに思いながら、俺やりましたよ顔をしながら優里さんの方を見ると


「……カ、カップルですって!?

 え、でも、なんで、なんで……?」


 …………隣の美人が顔を真っ赤にして、4時間ぶり二度目の狼狽えを見せていた。……エート、ユリ?ドシタ?


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