パンを咥えたJKはぶつからない



「いやぁ、美味しいですなぁ」


「……えぇ、本当にね」


「すっごく、あっまいですなぁ」


「……エェ、ホントウニ、ネ」


「「……」」


 現在俺たちはクレープを買い終わり、近くの公園のベンチにて実食中でございます。


 突然ですが、不肖、千堂大地。ここにお集まりし皆々様に質問がございます!


 ……優里、いや優里さんがさっきからどこか俺に対してよそよそしいんですが何故ですか!?


 だってさっきまで同じ目的をもって、周りの敵ども(カップル)と共に戦ったてたよね!?いわば戦友じゃないか!?仲良くなるはずだろ!?ズッ友だよな!?


「あのー?……優里さん?」


「……あなたの言いたい事は理解しているつもりよ。でもこれ、こんな態度をとっちゃうのは……あなたのせいもだからね。あと絶対に呼び捨ては忘れずに」


「あ、はい!」


 モジモジしながらそう言うが、最後の一言にはいつものような凛々しさが込められており、ついつい反射的に返事をしてしまった。


 というか彼女は原因の一端には俺が関わっているとはっきり言った。


 いつもなら自らの言動を振り返り、要点を把握することから始めるのだが、あえて彼女の言葉で言うのなら、『俺のせい』の部分が何のことなのかを俺は既に分かっている。


 簡単にいうと、カップルのふりをやりすぎてしまったのだ。


 見たらすぐにわかるとは思うが、優里さんは俺とは違い、いうならば上流階級。俺がどれだけ羨んでも、手の届かないようなキラキラとした誰もが一度は夢見るような理想の大学生活をおくっているような人なのだ。


 だが、そんな彼女に近頃ふと親近感を沸く時が頻発している。それは、自身が含まれる恋愛関係が話題に上がっている時だ。


 この時に限っては、かつて大黒柱と例えていたような常に冷静沈着かつ合理主義な考え方を持つ、頼りになるような彼女のイメージは音をたて崩れ落ち、まるで恋愛の、交際するということの真意を理解し始めた中学生のような初々しい少女のような印象を受ける。


 まぁ、端的にいえばDo貞のような反応ということだネ♫


 ということは優里さんは交際をした事がないということなのか?こんな美人が?いささか信じられないな……


 けど、こんなこと聞けないでしょうが!我が妹ならばともかく、こんな完璧な美女にそんな事を聞くなんて、世間体を気にするDo貞としては荷も気も総じて重すぎる。


「……なにか知らないけど、また失礼な事を考えているわね?」


「い、いやいや〜優里にそんな事を考えるわけ、ないでしょ?」


「あなたって考えている事が顔に出やすいって言わなかったかしら?」


「……じゃあ仮に失礼な事として、何を考えていだと思う?」


「私が恋愛に対して免疫がないことに関して」


「……ほぼ正解!」


「はぁ、知ってるわよそんなこと……でも仕方がないじゃない。高校まで女子校に通ってて、関わりのある男性なんてあまりいなかったんだもん……ジロジロと、なによ」


「いや、もじもじ優里さんめちゃくちゃ可愛いっす」


「……うるさい」


 なんだろう。うん。なんだろう。完璧な子がここまで弱みを見せて恥じらってると、いくら心に決めた推しがいるガチドルヲタだとしても可愛いとしか言えないよね。


「でも、そんなに免疫がないと苦労しない?言い寄られる事とかたくさんあるでしょ」


「別に会話やらの日常生活くらい普通におくれるわよ。女子校といっても接する機会が全くない監獄のような場所でもないもの。ただ……」


「ん?ただ?」


「……カ、カップルの真似とかは、その、あなたとは、あなたとだけは……無理なのよ」


「あぁ……」


 いやこれに関してはまじでごめんとしか言いようがないな。もう理由は悲しいから皆まで言わない!察してよね!バカ!




「「……」」




 少しの沈黙が俺たちを包むと、優里は何かを決心したのか、こちらへと向き自らのクレープを前に出し


「……あーん」


「? あーん?」


「あーーーん!」


「え?」


 そう言って、顔を真っ赤にしながら俺にクレープを食べさせようとしている。


「あ、あーん」


「美味しい?」


「……バナナが美味しい。けど、どうしたのさ」


「……あの店に書いてた。食べてみた感想をSNSに投稿してね。と。だから、クレープを食べ終わるまでは、私たちはまだカップルのはずよ。だから……これも当たり前の事よね」


「へ?」


 そう言って優里は俺の口元、正確には唇のすぐ横へと唇を重ねた。


「な、ど、ど、どうしたのさ!?」


「クリームがついてたからとってあげたの。おっちょこちょいね大地くん」


 そう言ってペロッと舌を出し、妖艶な微笑みを見せる優里。彼女って本当たまに小悪魔になるんだよな……


 ……てかよく考えたら唇じゃなくてもこれはキスだろ!キスじゃない?いや、キスだ!


「あら?顔が真っ赤よ大地くん?あなたも初心うぶなのねぇ」


「……いや、この状況はさすがに仕方がないでしょ」


「そんな都合のいい偶然なんてこの世に一つとしてないわ。あなたは私が作り出した、必然とも言える状況に対して私を意識し顔を赤くした。そして、私もカップルを演じていた時にあなたを意識し、顔を赤くした。…………ほら、互いが互いを意識することにより、顔色を変えているでしょ?大事な事なんてそこだけで充分なのよ」


 得意気にそういう優里だったが、今、彼女は一つ気になりすぎる事を言ったよな?


「え?必然?私がつくりだした?

 もしかして、クレープを食べさせたのってわざとクリームをつけるためだったの!?」


「ふふふ。さぁ、ね?」


 ……だめだ。どう考えても優里の手のひらで踊っている気がして、彼女に勝てる気がしない。


 そして気づいてしまったが、俺はどうやら彼女のこの微笑みにはめっぽう弱いらしい……



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