本当の勝者



「お邪魔しました。料理も美味しかったです!」


「ありがとう、また来てね!」


 俺は推し争奪戦争(笑)を見事に勝利し、時間も時間ということもあり部屋へと戻ることにした。


 お見送りもしてくれる李梨沙。あぁ、そんな天使のような微笑みまでしてくれるなんて……眩しすぎて直視デキナイ!


 だけど、うん、まだまだリカちゃんには睨まれている。同担拒否という人はいくらか見たことはあるが、ここまで顕著にでている人はなかなか珍しいな。


 妹ということもあり幼い頃から共に暮らしてきた大好きなお姉ちゃんが、多くの見ず知らずの男から好意の目を向けられるのが我慢ならない、という部分もあるのかな。案外可愛いところもあるじゃないか!


 俺はそんなことを考えながらリカちゃんを見ると、スゴぉぉぉぉぉぉく嫌そうな顔をしている。まるで本当にゴキレウスを見ているかのような……


 うん!やっぱりコイツ、ムカツク!!!



 ***



「……で、お姉ちゃん。さっきの話なんだけど」


「はぁ。だからむりだって……

 心配なのは分かるけど、一人暮らしもまだ始めたばかりなんだから……」


「むー……」


 私が今日お姉ちゃんのところを尋ねた理由は、あのクソ忌々しいゴミ……ゴホン。隣人の男に対抗するわけではなく、両親からなんとか説得をして一人暮らしを辞めさせてくれと頼まれたからである。


 いや、正確にいうとすれば、もっとセキュリティのいいところへと引っ越させてくれ。だ。


 我が最愛の姉である李梨沙お姉ちゃんは、皆も知る通り少し前まで……いや、引退した今も尚トップアイドルとして、世間では大人気の存在だ。


 それもこれも、幼い頃からアイドルになる!と夢に定め、そのために努力し続けた成果だろう。本当にお姉ちゃんはすごい!


 だからこそ、突然お姉ちゃんが辞めると言い出した時には家族全員が心底驚いたものだ。


 だけど、驚きはそれだけにとどまらなかった。


 お姉ちゃんはこれまた突然に一人暮らしを始めると言いだし、しかもこのよくわからないアパートを名指しで選んだ。しかも部屋まで。


「ワ、ワタシハ、ココカラノケシキガ、キニイッタノ!」


 お姉ちゃんがそこまで言うんだ、そんなに景色が良いところなのだろう。……なぜかとてもカタコトなのはきになったけど。


 私はお姉ちゃんの選んだ部屋がどれだけいい部屋なのかを調べてみたが、特になんの特筆事項もないような『普通』という言葉が似合いすぎているただのアパートだった。


 普通の人ならそれでいいのだろうが、お姉ちゃんは元トップアイドル。正直、防犯対策に不安が残る……いや、不安しかない。なんでお姉ちゃんは景色が良いだけでこんなところを……


 だからこそ両親と私は心配して、お姉ちゃんの現状を確認をする為に、今日ここに私は来たのだが……別に景色も良くはなかった。


 尚更何故かと考えていたところ、ヤツと出会ってしまった。


 お姉ちゃんの隣人 千堂大地 。私がこの部屋を訪ねた時、お姉ちゃんの部屋から出てきた男。そう、外からではなく内からだ。私は最初この状況が理解できなかった。それだけの衝撃があの瞬間に私をおそったのだ。


 あの、付き合った事もないお姉ちゃんが男を部屋に!?ま、まさか……彼氏!?


 そう考えた私は、半ば無理矢理に部屋へとあがらせてもらい関係を問いただす事にした。


 そこからは知っての通り散々な結果だったけど……


 な、何故こんなに天使みたいに可愛いお姉ちゃんが、あんな男に……


 いや、そりゃお姉ちゃんがあの男を見ている表情は認めたくはないが正直可愛い……でもなんでこのアパートと同じように、特筆事項もなんにもなさそうなあの男に!?3回目だが、なんであんな男に!?


「……お姉ちゃんってあの人の事、好きなの?」


「!? ど、どうしたの突然!べ、別にそんなことは……」


「あーうん。もう大丈夫」


「な、なによ!」


 はぁ、我が最愛の姉ながらなんでわかりやすい……でもそこも凄く可愛い。


 ……アイドルをやめた今、妹である私はお姉ちゃんの恋を応援してあげた方がいいのだろうが、この可愛い最高のお姉ちゃんをアイツにとられると思うと正直ムカつく。


「ねぇ、本当に帰ってくる気はないの?」


「うん。大丈夫よ、心配しなくても。

 この前だってゴキブリが出たけど騒がないで倒せたんだから!(大地くんが)」


「!? あのお姉ちゃんが、ゴキブリを!?」


 な、なんという事だ……目にすればギャーギャー騒いで逃げ回るくらいにゴキブリが苦手だったお姉ちゃんが、騒がないはまだしも倒したですって!?


 そんなに本気だったなんて……本当にお姉ちゃんを家に連れ戻すことはできないの……


「そうよ!もう大丈夫だから、梨花も安心して?」


「……」


 うぅ、安心できるはずないよ!だって隣にあんな変なやつが住んでるんだよ!


 でもこの事を両親に教えたら、きっと無理矢理にでもお姉ちゃんを連れ戻すだろうし、その理由は流石に私も望むところではない。


 私はお姉ちゃんと一緒に居たいけど、お姉ちゃんを悲しませたくはないのだ。


 ……でもどうしよう。アイツが嫌すぎる。


 何かいい方法は…………あ、そっか!


「……わかった」


「! 分かってくれたのね!なら、その事をパパとママに……」


「私もここに住む」


「……へ?」


「私もここに住んだらパパ達も防犯とかなんやら何も言えないはずよ!ねぇ、いいでしょ?そうじゃないと無理矢理にでも連れ戻されちゃうかもだよ!」


「え!?

 …………わ、わかった。

 とりあえず一週間だけ、なら……」


「!? やったーーー!」


「一週間だけよ!一週間だけ、ね!」


「わかってるわかってるー!」


 我ながらこんなにいい結末に持っていかことができるなんて!試合には負けたけど、勝負には勝ったとはこの事ね!


 ふふ、私はまだ諦めてないわよ。さっきめちゃくちゃ勝ち誇った顔をしてたけど、まだ終わってないわ。みてなさい、千堂大地!絶対にアンタに泣きっ面をかかせてやる!



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る