キャパオーバーにはご注意を
「はい、どうぞ。いっぱいあるけん、じゃんじゃん食べてね?」
「ありがとうございます!いただきます!」
今日の推しのご飯は、ピンク色の卵焼きのようなものと、青黒いそぼろのようなものと白く輝くご飯です!
普段なら覚悟を決めて臨んでいる部分が心なしかあるのですが、今の僕には
パクっ
うん!でも味はいつも通りこの世のものではないです!きっと時代がこの味に追いついていないだけでしょう!これから追いつくとも限りませんが!てか、白米めちゃくちゃうまいな!!!
……まぁ、それはおいといて、推しが目の前でニコニコしながら頬杖をついてこちらを見ている。隣に越してきただけでも明日死ぬんかレベルの幸福だったのに……
もしかしたら俺は前世に世界でも救っているのかもしれんなぁ。おそらく貰っていたチートは胃袋関係だろうな。うん!白米はやっぱり最高だ!
「……味はどう?おいし?」
「はい!もう最高の味です!」
「そう?前から思っとったんやけどさ、君って珍しい舌しとると?私いっつも味見のとき死にそうになるんやけど……まぁ、味覚だって人それぞれよね。君がこの味がいいならこれからも作ってあげるね!」
…………ほぇ?
そう言いながら李梨沙はキッチンから、少し崩れたしっかりと黄色の卵焼きと、茶色のそぼろと純白に光り輝くご飯をテーブルに持ってきて、いただきますと一言。
……あ、あっれれ〜おっかしいぞ〜?
俺の推理では李梨沙は料理が凄い……いや想像を絶するほど下手で、漫画みたいなダークマターをこの世で作り出せるただ一人の存在だと思っていたのに、目の前には見覚えのある料理が並んでいるぞ?
もしかして……彼女は俺を殺そうとしているのではなく、失敗を俺が褒めたから俺のことを、とち狂った舌を持つ奇食ハンターだと勘違いしているのか!?
もしくは
どちらにしても一刻も早く訂正しなければ……
……いや、待て!早まるな、千堂 大地!よく考えるんだ、真実を知って自分はヤバいものを嬉々として食べさせていた事実に、心優しい李梨沙は心を痛め自分を責めることが安易に予想できる。
そんなこと、この俺ができるはずがないだろう!!!
推しが悲しむようなことをするくらいなら、あえて茨の……いや、地雷の道を選ぼうじゃないか!マインスイーパーと俺を呼べ!全部、胃の中で爆発させてやるよ!
うん、これは卵焼き。これは卵焼き。いや、卵は卵でもチュパカブラの卵でも使ったかのような臭みが鼻を通り抜ける。チュパカブラ見たことないけど。あいつ卵産むんか? あ、全く同じ味がそぼろ(笑)からもする……冷静に考えてどういうこと?これグルメ漫画で出てきたなら即打ち切りだぞ。てかこの一連の食レポ1ミリも中身なさすぎてうけるんだけど。
とにかくだ、味わうな!掻きこめ!掻きこむしかお前の生き残る道はないんだ!
「っ、ご馳走様です!」
何とか、何とか食べ終わったぞ……
もうわんこそばとか意味わからない事は言わない……
「……もう、いらんと?」
え、李梨沙がそう言って少しシュンとしている。きっとまだ残っているから食べて欲しいのだろう。
……推しの期待に応えるのがオタクというもの!
「はい!もちろんください!」
「え!いいの?それじゃ、持ってくるね〜♪」
李梨沙が嬉しそうに鼻歌を奏でつつキッチンへと向かう。
君の笑顔がみれるのなら、この程度の壁……いや山くらい乗り越えてみせる!
ん?なんかキッチンからジュージューと聞こえるのは気のせいか?
いや、気のせいであってくれ。まじで。
「はい!お待たせ〜、どんどん食べるんよ!」
「…………はい!」
笑顔の李梨沙が、持ってきたおかわりは先ほどの二倍の量があった。
ラスボスを倒したら真のラスボスが出てきたみたい……もう名前もトンヌラに改名しようかな……
李梨沙。僕死んじゃう……
でも前を向いたらキラキラした目で李梨沙がこっちを見ている。その時点で俺の選択肢は一択しかないのである。
「……いっただきまーすっ!!!」
***
あぁ……幸せ。
まさかこんな展開になるなんて!私、初めてゴキブリに感謝したんだけど!
最初は緊張してたけど、彼のダイナミックな転け方を見たらなんか肩の力が抜けちゃった。それにさー大地くんの博多弁エグくない?可愛いの極みだったんやけど……
しかもさ!また私の料理を美味しいって!やばい、嬉しすぎてにやけが止まらんのやけど!
あら?ふふ、やっぱり大地くんも男の子ね、もうご飯も無くなりそうだわ。こんなに早く食べ終わるなんてよほどお腹が空いてたのね!いっぱい作っておいて良かったぁ!お腹いっぱいになって欲しいしね!
「ご馳走様です!」
あれ?
もう食べないんかな……もしかして、やっぱり美味しくなかったんかな……そう考えていたら、
「……もう、いらんと?」
そうポツリと言葉が出てしまった。
……ちょ、何言ってんの私は!? 大地くんはご馳走様って行ったの!
うぅ……これじゃ大地くんにめんどくさい女って嫌われ……
「はい!もちろんください!」
なかった。彼は間髪入れずに二つ返事で、『もっと君の料理が食べたいよ李梨沙』と言ってくれた。(言ってない)
な、な、なんって優しいの大地くんは!!!♡
そんなこと言われたら、期待に応えてもっと追加で作るしかないわ!
待っててね!大地くん!!!
***
「ご、ご馳走様です!」
「お粗末様でした〜♡」
李梨沙がニコニコしている。
頑張って良かった、本当に良かった……ゴキレウス、いやゴキ兄のおかげでまさかこんな笑顔が拝めるとは……!!!
「あ、SNSで取り上げていただき、どうもありがとうございました!おかげさまでサラダがすごい人気でしたよ!」
「あ〜、全然全然。本当に美味しかったし……働いてる君も見れたし」
「え?最後なんて言いました?」
「んや!何でもない何でもない!」
最後になんかぼそっと言ったような気がするが気のせいか?
李梨沙が顔を赤くしてなぜかモジモジしている。
「あはは……なんか暑いねぇ。クーラーでもつけようか」
そう言った彼女は少し恥ずかしげに笑いながらリモコンを取ろうとする。
が、彼女とリモコンの間には水の入ったコップが存在するではないか!!!
まずい!このままでは!
「危ない!」
「ん?……!? あ、あ……」
俺はとっさに李梨沙の手をつかんでいた。
ふぅー、あぶなかった。あと少しでコップにあたるところだった。コップが倒れて彼女の洋服が濡れでもしたら大変だしな。
「大丈夫でしたか李梨沙さ、ん……」
ホッと息をつき李梨沙の方に目を向けると、彼女は顔を真っ赤にし眉間にしわを寄せ、まるで犯罪者を見るかのごとき形相で俺をジッと睨みつけていた。
……え、何で? あ!もしかして、突然手に触れたから!?
俺はそう考え咄嗟に手を離すが、彼女はそのまま言葉を発する事なく、俯いて動かなくなってしまった。
ゴキ兄のバフが解けたのか、はたまた俺が彼女にとってのゴキ兄になったのか、真相は定かではないがどうやら俺はまだ彼女に嫌われていたようだった……
(´・ω・)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます