言ってはなんだが、嫌がらせ


 ****



 バタン




「……ふぅ。」


 ……いよっしゃぁぁぁぁあああ!彼が、大地くんが!私の作ったご飯を美味しいって!


 思わず私はガッツポーズを掲げてしまう。


「ムフフフ……」


 あぁ嬉しい。料理サイトを見ながら作った甲斐があったってものね。まぁ、少し私がアレンジを加えたことによるものだと思うけどね。


 渡してから味見してみたとき死にかけたからどうしようって心配だったけど、そっか〜彼はこの味が好みなのか〜。

 という事は、今後の料理の課題としては見た目だけね、それなら簡単だわ。ライブの時だって装飾は私が担当していたようなものだもの!


 それに明日も会えるなんて……彼の反応を見るに、私が彼に好意を持っている事は知ってるみたいだし〜♪これなら私が彼の彼女になる日も近いわね!


 でも未だに彼を前にすると緊張しちゃうのよねー……

 さっきだって連絡先を聞こうと思ってたのに緊張して聞けてもないし……


 けど前にスタッフさんが緊張してる李梨沙さんも可愛いです!って言ってたから態度は悪くはうつってないはず!大丈夫!


 ……でも昨日のタオルぶん投げ事件だけは良くなかったわね。緊張が限界を迎えたからって、あれだけはダメね。反省反省。


 その分、明日のご飯は豪華なものにしてあげよ〜っと♡


 本当に大地くんが引越してなくてよかった……

 彼と結婚するために仕事を辞めてきたっていったら喜んでくれるかな。


 うん!大丈夫!だってずっと私を応援してくれたんだもの!今度は私が大地くんのお願いを叶えるべきよね!


 待っててね大地くん。私と、榎本李梨沙と結婚したいって夢をすぐに叶えてあげるからね!




 ……この時、彼女は知らなかった。

 今、彼女が考えた中であっている事など『タオルは顔に投げてはいけない』だけだという事実……


 そう、元スーパーアイドル 榎本 李梨沙 は今まで一度も恋愛というものをしたことがない顔面偏差値MAX、恋愛偏差値ド底辺の勘違い残念美女なのである ———



 ****


【1日後】




 ふふふ。時刻は21時。#大地正座で待機なう だぜ!

 この時間に何があるんだって?そんな事決まっているだろう!


 ピーンポーン


 推しの手作りウー○ーイー○だ!一日の最高の締めくくり李梨沙との握手会へ Here We Go !!!


「はいっ!こんばん……は。」


「こんばんは、大地くん。こんな時間だというのに元気いっぱいね。」


「あぁ、いえ、ハハ、haha……」


 ん?俺は夢でも見てるのか?

 恐らくこの時間に来ると思っていたのに、今俺の目の前にいるのは李梨沙ではなく、バイト先の同僚である白瀬さんじゃないか……


 いや逆に夢から覚めたのか……?

 てかなんでこんな時間に白瀬さん?もうっ!ワケワカンナイッ!


「取り敢えず立ち話もなんだし、上がってもいいかしら?」


「え?あーいや、ちょっと……」


「ん?何?誰かいるの?」


「いやーそんな事はないんですけどーhahaha」


「……さっきから笑い方が外国人みたいになってるわよ?汚いとかなら気にしないから。お邪魔するわね?」


「……はい。どうぞ」


 ……握手券落としちゃったみたいだ。


 でもさ!なんで白瀬さんがこんな時間に俺の家に?美人の考える事はわからん!


「取り敢えず、はい。」


「ん?これは?」


 そう言って白瀬さんが差し出したのは、花柄のランチボックスだった。


「昨日はもしかしたら虚勢を張ってただけなのかと思って、心配だったから作ってきたの。お口に合えばいいのだけれど」


「え……俺のためにですか?」


「そ、そんな改まって言われると照れるわね……」


 な、なんだ?このモテ期到来イベントみたいなやつは。

 こんなテンプレ展開、アニメかラノベでしか見た事ないぞ……


 いや待てよ、これが俗にいう美人局ってやつなのか!?

 白瀬さんみたいな美人が俺のためにご飯を作って、わざわざお家訪問なんて考えるだけで疑問点しか出てこないぞ!ん?李梨沙はどうなのかって?


 ……俺には推しを疑う脳の回路なんて存在しないんだ。ドゥーユーアンダスタン!!?!?


「……もしかして、お気に召さなかったかしら?」


 前を向くと白瀬さんが目に見えてシュンとしている。


「い、いえ!少し驚いただけです!」


 俺は受け取ったランチボックスを開ける。

 開けたランチボックスには彩り豊かな野菜や、美味しそうな卵焼きなど主に和食で構成された、売り物と言われても疑わないクオリティの食材たちが綺麗に敷き詰められていた。


 こ、これはお世辞抜きでうまそう……


「……いただきます」


 ……う、うんまぁぁ 〜〜〜!ほんまもんの宝石箱やでこれ!なんやのこれ、野菜たちが口の中で踊っとるで!


 エセ関西弁が思わず出てしまうほど、白瀬さんの手料理は極上の味だった。


「どう?お口にはあったかしら?」


「はい!めちゃくちゃ美味しいです!」


「ふふ、それは嬉しいわ。

 とらないからゆっくり食べてね」


 俺の返事を聞き白瀬さんはニコッと微笑んだ。


 か、可愛い……


 さすがカフェの売上を支える『大黒柱』の一人。俺がオタクだから我慢できたけど非オタクだったら我慢できなかった。


 ガタン


 ん?何か玄関の方で音がしたな。


「ちょっとすみません」


 俺はその場を離れ玄関へと向かうと、扉の郵便受けにこれまた紙製のランチボックスが放り込まれていた。


 なんだ?……も、もしかして!


「き、きた!」


 俺は急いでランチボックスを開封すると、夢にまで見た女神からの贈り物生物兵器が詰められていた!今回は青色と黒色の岩(おそらく食べ物)が4つほど入っている。やったぜ!!!


「何がきたの?」


 俺が声を出してしまったので、白瀬さんが何事かと様子を見にきた。

 背中越しに背伸びをし、俺が手に持っている宝石箱生物兵器を見て


「……もしかして、大地くんは虐められているの?」


 と一言。俺は彼女の方に振り返り


「いくら白瀬さんでも、これだけはあげませんよ?」


「そんな気持ち1ミクロンもわいてはいないから心配しないで?」


 そう清々しい笑顔で返された。何はともあれ今日は貰えないと思ってたから、

 ちゃんと作ってくれてるなんて嬉しい……大好きだ、李梨沙ー!!!



 恋は盲目。彼は異常だ。


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