推しの料理はまるでパリコレ
「ただいまーっと……」
バイトも終わり、誰もいない部屋に帰ってきたことを伝える挨拶をする。
いつも行っているどこか寂しさを覚えていたこの行為も気にならないほど、今の俺の頭の中はこんな時間でも李梨沙一色だ。
さ、この調子でいつもの日課の李梨沙の出ている番組をチェックしないと!
……あ、そうだよな。これからはもうこの日課もなくなるのか。
こう考えると俺の毎日は想像以上に李梨沙で構成されていたんだなぁ……
「……ぐすっ」
うぅ、けどやっぱりそう簡単に染み付いた日課をなくすのは無理だ!
気を取り直して李梨沙のライブDVDでも見よう。そうだよ、なくなるのなら新しく作るまでだ!『感謝の正拳突き』ならぬ『感謝のDVD鑑賞』ってな。
ピーンポーン
いいところなのに誰だ?もう21時だぞ。
こんな時間にいったい……いや、まさか!
俺は急いでドタバタと玄関へと向かい、
玄関ドアを開ける
「……ども。」
「こ、こんばんは。」
俺の予想は的中しており、チャイムを押したのは俺の推し 李梨沙 だった。
相変わらず睨まれてるけど、それでもこんな夜に会えるなんて幸せだ……
それに彼女の綺麗な銀髪が艶めいている。もしかしてお風呂上がりか?今から感謝の気持ちを込めてお賽銭にでも行こうかな。
「ど、どうされたんですか?」
「……いや、ご飯を作りすぎたから。
いらないなら捨てるから別にいいです。」
「い、いや、貰う!
じゃなくて……いただきます!」
「……そう。じゃあ、はい。それじゃ」
俺が勢いよくそういうと眉間にしわを寄せ俺を睨みつけ、タッパーをグイッと差し出し、李梨沙はそのまま部屋へと帰っていった。
ま、まさかこんな日が訪れるとは……
手作りだぞ……推しの手作りご飯……
オタクが一度は憧れる推しとしたい事ランキング上位勢の一つ
『推しが手作りごはんを作ってくれる』
が今!この俺の手の中に!
お隣さんってこんな幸せポジションだったのか!!!!!
俺の中のえ○り君が「さて、今夜、私が頂くのは、推しが作ってくれたご飯です。」とバス停で笑顔で言ってくれているのを感じるぞ!(ウー○ーイー○って最高だよね⭐︎)
とりあえずどうしよう、永久に保存して家宝にしたいところだけど、味わいたい自分もいる。なんて罪深いことを考える男なんだろう俺は!(普通)
ともすれば一生後悔しそうな行為なのに、自分の欲には逆らえない意志の弱い俺は、散らかしていた机を急いで片付け、正座をし深呼吸で息を整えて推しから授かった晩ご飯を食べることに決めた。(実に普通)
……準備は整った。いざ、実食!
俺は、
そこに入っていたのは、黒と紫で構成されたスクランブルエッグのようなナニカだった。
……ん?
……これは、いったい……何だ?
まるで、ゲテモ……いやいや、奇しょk……ゴホンっ!何をいう千堂 大地!
推しが余りものとはいえ、わざわざ俺のために持ってきてくれた料理だぞ。
先入観に囚われて食欲を失うのは無礼!いや、即打首レベルの大粗相だ!
容器の底を触ると少し暖かいことから、作りたてということが容易に想像ができる。俺に暖かいものを食べさせてくれるために、作ってすぐ持ってきてくれたのかな。あぁ、李梨沙ちゃん。君はなんて優しいんだ……
俺は一生君についていくよ……
覚悟を……いや、ご褒美を噛み締めろ!
いただきまーす!
パクっ
「…………がふっ」
この味は、な、なんだ。まるで毒薬……爆弾……生物兵器なのか……?
胃の中で俺の居場所はここではないと生き物が暴れているみたいだ……食感は……例えるのならマシュマロに鼻水をかけたみたいな……
ひ、一口でこの威力か。
これはもしかして、神が俺の李梨沙への信仰心を試すためにすり替えたものなのだろうか……容器には、あと8割程度……いや、推しの手料理を食べることができるイベントなんてこの先の人生できっと2度と訪れないだろう!
はっはっは!残念だったなぁ、神よ!
李梨沙のためなら俺はバベルの塔でさえ何度でも建設してみせるぞ!!!
「うわー!美味しそうなスクランブルエッグだなぁー!いっただっきまーーーーーす!!!」
*
ピーンポーン
「……はい」
「あ、先程はお裾分けをどうもありがとうございました。」
「……そうですか、全部食べたんですか……」
「あ、はい。美味しくいただきましたよ(嘘である。)」
「そう、ですか。
……死ななかったんですね。」
「……?(ん?……死?)
とっても美味しいスクランブルエッグでした!」
「……ナスのホワイトソース餡かけですが」
「……ごめんなさい。(あーあの紫って茄子かぁー……なにその料理。)」
「……そんなに美味しいのなら、明日も何か作りましょうか?」
「えっ!い、いいんですか!!!」
「……ち、近いです。」
「あ、す、すみません……」
近づきすぎてめちゃくちゃ睨まれた……
けどさーしょうがなくない?
推しが毎日晩ご飯を作ってくれるって言ったんだぞ!(言ってない)
けど、死ななかったんだって言ったよね……
もしかして、李梨沙は俺のことが嫌いすぎて こ、殺そうとあの生物兵器を……
いやいや、そんなことあるはず……ないよね?
「まぁ、いいです。
……明日もお伺いします。」
「あ、はい。
ありがとうございました……」
バタン
……まぁ、何はともあれ李梨沙と明日も会えるってことだろ?
最高じゃんか!……たとえ本当に李梨沙に殺されたとしても、よく考えてみたら俺にとっては最高の死に方じゃん!という事は、俺の懸念はないも同然!
さぁさぁ早く家に帰って明日を迎えよーっと!
良くも悪くも能天気な大地は、鼻歌を歌いながら自室へと戻ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます