「偽教授接球杯Story-3」偽教授さん執筆分

 扉を開けた。入ってすぐのところに、巨大な天蓋付きのベッドがあった。そして香が焚かれている。浅めではあるが、いい香りがする。おそらくは安眠のための香だろう、と直観的に理解できる。


 そういえば、自分がすごく疲れている、ということを忘れていた。とりあえず外套を脱いでそのへんに引っかける。とりあえず横になりたい、という強い誘惑が私を襲う。


「あなたは横になってはいけません」


 またあの声がした。眠いんだが。少しくらい休ませてくれ。ふとベッドの枕元を見る。白いふわふわの枕が置いてある。見るからに高級品だ。このふわふわに頭を預けたい。さぞかしぐっすり眠れることだろう。


「あなたは眠ってはいけません」


 だとよ。ムカつく。だったらこんなものを置いておくな。人が寝るためにあるからベッドだろ。


 とりあえず香炉を蹴飛ばして叩き割った。派手に散らかった。火事になると困ると思ったので、念入りに踏みつけて消す。


 それから、枕をつかみ、両側から強く引っ張った。よい枕と頑丈な枕は別であるので、あっけなく二つに裂けた。羽毛らしきものが飛び散りまくった。むせる。


「げふっ、げふっ、げふっ」


「あなたは進まなくてはなりません」


 ベッドも破壊しようかと思ったが、でかいし、柔らかいのでそれは大変そうである。


「あなたは進まなくてはなりません」


 私はまた奥を見る。またドアがある。扉を開けた。


「ようこそいらっしゃいました」

「うわっ!」


 裸の女がいた。それも、三人。


「こ、この屋敷の方ですか? すいません勝手に入ってきて。えーと」

「ようこそいらっしゃいました」

「ようこそいらっしゃいました」

「ようこそいらっしゃいました」


 いや。


 こいつらは人間じゃない。精霊? それとも、アンドロイド? どっちだか分からない。どちらにせよ、人間に似ていて、人間と性交渉が可能で、だが人間ではない、そのような存在だ。妊娠もしないだろうから、あとくされのない相手だ。


「どうぞ、わたくしたちをお好きになさってください」


 冗談じゃない。


「その者たちを抱いてはなりません」


 言われんでも分かるわい。パターン繰り返しやがって。


「その女たちと交わってはなりません」


 全員叩きのめしていこうかと思ったが、料理や枕とは勝手が違うのでそれはさすがに気が引けた。無視して進む。縋りつかれたりはしない。


「あなたは進まなくてはなりません」


 ドアがまた、奥に一つ。


「あなたは進まなくてはなりません」


 ああ、そうだろうよ。

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