第3話
「このコート温かいね。ありがとう。」
由美は屈託のない笑顔を俺に向けた。
寒くて凍えていたんだから仕方ないよな。
これから先、ずっと使えそうだし・・・・
俺、いい買い物したよな?
いろいろ理由をつけて自分を納得させた。
「色違いのお揃いコーデになったね。」
「シドニーは寒いから、ココに居る間はずっとお揃いだね。」
高い買い物だったけど・・・
俺は彼女の笑顔を見れて嬉しかった。
日本では手をつないでいて歩く事なんてなかったけれど・・・
小雨の降る石畳は人影もまばらで、恥ずかしがり屋の由美も今日は平気みたいだ。
俺はずっと手をつないでいて居たかったけど、大きな吊り橋が見えるカフェに入った。
「天気が良かったらあの吊り橋を歩いて渡って海や街を見てみたいね。それから、コアラやカンガルーにも会ってみたいな。」
「そうだね、オーストラリアの定番メニューだからね。」
「ねぇねぇ オペラハウス見てこない?」
「割と近くに見えたね?中は入れないかもしれないけど・・・ 近くまで行って見たいね。」
俺たちは海辺近くまでおりていった。
なんとなく海の匂いがした。
でも、日本の磯の香りとは違う様な・・・
俺がそう感じただけか?
オペラハウスのそばに来る頃には雨もやんで雲もきれ始めていた。
近くで観る白い貝殻模様と空の蒼はよく似合っていて壮観だった。
残念ながらイベント中で中の見学は出来なかったが、写真でしか見た事が無い風景が目の前にある事にドキドキした。
楽しい時間はあっという間だ。
コアラやカンガルーを観たり、トロッコに乗って自然を満喫したりしているうちに、気がつけば最終日になってた。
お昼はファーストフード店でハンバーガーを食べようという事になったが・・・
俺は高校の英語の授業を思い出す。
リスニングが全然ダメだった。
しかも授業でやったオーストラリア独特のナマリの話しが・・・
英語で今日はTodayだけれどオーストラリアでは訛りでto die(死にに行く)に聞こえるとか・・・
なんとか身振り手振りで昼食にありつく事が出来てホッとした。
お昼を食べて繁華街を歩いていたら由美が突然きいてくる。
「ねぇ? オーストラリアのお金、いくら残ってるの?」
「日本円換算で8万円くらいかな?」
「それ、私に頂戴!」
「えっ? べつにいいけど・・・」
由美は俺からオーストラリアドルを受け取ると
「すぐ戻ってくるからココで待ってて!」
ってルイヴィトンの専門店に入っていった。
俺は繁華街の人の流れを観察したりしながら、由美が戻るのを待った。
三十分位そこで佇んで居ると彼女が現れた。
手にはルイヴィトンの紙袋を持っていた。
「ねぇねぇ〜 コレ丁度さっきのお金で買えたんだ。このポーチ、カワイイんだよ。日本だとこの値段じゃ買えないんだよ。」
俺は顔をひきつらせながら
「いい買い物できて良かったね。」
と応えたが・・・
旅先で現金を失った事への不安に襲われた。
あと半日有るのに、もし何かで現金が必要になったら・・・
由美は「飲み物を買う位は残ってるからのどが渇いたら言ってね。」とあっけらかんとしている。
結局、何事も無く日本に着いて俺はホッとした。
でも、織姫様(由美)の本当の姿を見た様でこれからの生活が不安になる俺だった。
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