第2話
ケアンズでのんびりとした時間を過ごした後に俺たちはシドニー行きの国内線で移動した。
シドニー空港に降り立った俺たちはあまりの寒さに凍えた。
外はみぞれ混じりの雨が降っていて・・・
秋物のセーターしか着ていない俺は全身が震えていた。
「由美ちゃん、南半球はあまり寒くないんだよね?」
「そう思ってたんだけど・・・ 最近は異常気象が多いからね。」
「由美ちゃんのデニムの上着、貸してくれないよね?」
「ダメ、私が寒いよ!折角だから街で上着買えばいいじゃない?私が選んであげるよ。」
「風邪ひく前にお願いしますね!」
旅行会社の方に案内され俺たちは今夜宿泊予定のホテルに着いた。
そこは小高い丘の上にあり部屋の窓からはホタテ貝の貝殻の様な建物が見えた。
「もしかしてあれが“オペラハウス”?」
由美とほぼ同時に同じ事を言ってしまった。
同じホタテの貝殻でも俺が想像するものなんて教科書にのってた絵画“ビーナスの誕生”くらいなもんだが・・・・
目の前で観る事が出来るなんて・・・
少し興奮した。
ホテルの裏手には石畳の街並が拡がっていた。
中世ヨーロッパを思わせる様な佇まいで、その場所は“ロックス”と呼ばれている様だ。
由美は「ヨーロッパの風景に憧れてるんだ。ここの風景もなかなか良いよね。」とか一人ひたっていた。
「せっかくいい場所に宿が取れたんだし、散策にでてみる?」
由美に急かされホテルを出た俺たちは石畳を歩き始めた。
でも、外はみぞれ混じりの雨が降っていて、傘をさす手が凍える。
というか、俺は秋物のセーターなので全身が凍えている。
「ねえ!? 上着を探すか、どこかのカフェにでも入ろうよ。」
「せっかく雰囲気を楽しんでるのに、あなたは残念な人ね!」
「それじゃあ、せめてそのデニムの上着貸してよ?」
「分かったわよ! 私が選んであげるから。」
そんな会話しながら歩いていると・・・
「日本から観光ですか?」
あるブティックの前で日本語で声をかけられた。
「えぇ 新婚旅行なんです。」
「ちょっと見ていきませんか?」
由美はサッと内に吸い込まれていった。
俺はちょっと戸惑っていたのだが・・・
「上着探しているんでしょ?丁度いいじゃない。」
俺は店員さんに連れられて店に入ってしまった。
「いい上着ありますよ。この革のコートなんかどうですか?」
店員さんは濃い目のベージュのコートを差し出して鏡の前に俺を立たせた。
そんな俺をみて由美はウンウンと頷いてみせた。
「この革はカンガルーの革なんです。非常に貴重で日本では手に入らないですよ。ウンやっぱりこの色かな?着てみてください。」
俺は言われるままに着てみた。
・・・ん?カンガルー革?
いったい、いくらするんだ?
「スイマセン。これっていくらなんですか?」
「えっと、コレは日本円で8万5千円くらいですね。」
「8万5千円ですか?」
俺が少し悩んでると店員さんは畳みかけてきた。
「カンガルー革のコートなんて一生モノですよ。これからワシントン条約が厳しくなれば手に入れる事が出来なくなりますし・・・ それに日本に持って行くなら税金が15%後からクレジットカードに還元されますから。」
俺はどうしょうか迷って、後ろの由美の方に振り返った。
しかし、そこに由美は居なかった。
アレ?
由美は店の片隅で茶色のコートを試着して嬉しそうに鏡に微笑んでいた。
俺が近寄ると
「一着も二着も変わらないでしょ。ケチケチしないで凍えている女の子にプレゼントしなさいよ。」
「それで・・・ それはいくら?」
「はい! 72000円になります。」
俺はうなだれてクレジットカードを差し出した。
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