第4話
お義母さまはソントクに負けず劣らずのアイデアを与えてくれます。
食材を冷やして置ける魔道冷却庫、氷を作り出す魔道製氷庫。フルーツを細かくカットしてペースト状にする魔道ミキサー。
これらは、キッチン用品として大ヒットしました。
「お義母さま、またまた大ヒットですわ。」
これだけではありません。お義母さまは料理やスイーツ作りにもその才能を発揮し、私の提案で惣菜店とスイーツの専門店を貴族街に開店しました。
お義母さまはレシピを提供するだけで、運営や調理は専門のスタッフに任せています。
「お義母さま、プリンの人気がすごいです。もう、開店前に行列ができていて、30分で完売してしまうんですよ。」
「まあ、皆さんに喜んでいただけて良かったわ。」
「おかげで、砂糖とタマゴの消費が急増して、どこも品薄になって大変みたいですわ。」
「うちのお店は、シュリさんの発案で専用の養鶏場と工場があるので大丈夫ですね。ホント、シュリさんの先見性には恐れ入るわ。」
私のお母さまは、弟を産んでまもなく亡くなってしまいました。
ですから、こんなふうにお義母さまと料理やスイーツの話をするのが新鮮で楽しくて仕方ありません。
「なあ、ソントク母子の人気が凄いことになっているようだな。」
「当然ですわ。私の婚約者ですもの。」
「母親の方にも、結婚の申し入れが殺到しているようだぞ。」
「えっ!」
「奥方を亡くした貴族っていうのは結構多いからな。」
「まあ、お父様もそうですけど……。」
「だが、中には資産目当ての申し入れも多いようなんだが、その辺もサポートしてやれよ。」
「そうですわね。もう、そこいらの侯爵並みには資産がありますからね。」
「そこまでなのか!」
「だって、プリンの売上だけで、一日金貨300枚とかありますからね。」
「そこに、お前の開発した魔道具のアイデア料が上乗せされるのか……、いやお前の資産も想像できんが……。」
「私たちには、国からの給付金はありませんからね。お父さまみたいな。」
「お義母さま、率直にお伺いします。」
「はい。」
「貴族からの求婚が多いと聞いておりますが、如何でしょうか?」
「そうなのよね。こんなこと初めてなので、どうお断りしたらよいのか分からなくて困っているんです。」
「そうだったんですか。再婚される意思はないんですか?」
「だって、私ってただの庶民じゃないですか。貴族の奥さまなんて、到底無理ですよ。」
「お義母さま……。」
「それに、会ったこともない人から、突然求婚されてもねえ。」
「あはは、確かにそうですよね。」
「どうしましょう……。」
「……うーん……、そうだ!嘘の婚約を発表しては如何でしょうか。」
「えっ、嘘の婚約?」
「そうです。ソントクが卒業するまでは結婚できないからということで、とりあえず婚約ということにして、まあ、時がきたら偽装結婚してもいいですけど。」
「偽装結婚?」
「名目上結婚という形にして、今の生活を続ければいいんです。」
「そんな勝手なことできませんよ。」
「いえいえ、そういうのにうってつけなのが一人いるじゃないですか。」
「ひとり?」
「私のお父さまですよ。」
「という訳で、お父さまご協力をお願いします。」
「何が『という訳』なんだ。俺は仮にも国王だぞ。」
「若い・美人・胸が大きい・頭が良い。超優良物件じゃないですか。」
「む、胸が大きいのか……。」
「一緒にお風呂に入ったこともありますが、ピンク色でタワワーンでしたよ。」
これは嘘であるが……。
「料理上手で、優しくて、私にとって理想の母親ですわ。」
ちなみに、すぐに顔合わせさせてのであるが、二人とも赤面して可愛らしかったです。
やがてソントクが卒業し、私たちは結婚しました。
偽装結婚ではなく、ラブラブなのはいうまでもありません。
お父さまとお義母さまがどうなったかは、ご想像にお任せします。
【あとがき】
王女の憂鬱完です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
短編集 令嬢の憂鬱 モモん @momongakorokoro3
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