第3話
二つの特性持ち、いわゆるダブルスタンダードは極めて珍しく、1000人に一人といわれているそうです。その中でも僧侶と魔法使いの特性を持った賢者は更に稀で10万人に一人とか聞きました。
私が王子の婚約者に選ばれたのも、魔術学園始まって以来の賢者であり、伯爵家の娘というのが大きかったようです。
私の得意魔法の一つに、レビテーション(空中浮遊)がありますが、上級の魔法使いが使うレビテーションとは違い、私は高速移動のレビテーションを無詠唱で使うことができ、更にマルチタスクと呼ばれる複数魔法の同時発動ができるのです。
武器屋で防寒用のマントを購入した私は、町から少し離れた林に移動してマントを身にまとい、一気に上空へ飛び上がります。500メートルも上昇すると地上の人間が小さく見えます。これくらい上がれば下から見ても鳥に見えるでしょう。
私は西のトラウ山に向かって水平移動に移りました。さすがに寒いので、マントの内側をヒート魔法で温めます。
馬車で三日と言われた距離を30分で飛び、そのまま山頂を目指します。
高さ1000メートル程でしょうか、トラウ山の山頂は複数の尖塔のような頂があり、そのどこかにクリスタルバードがいるのでしょう。
その時です。ピーという甲高い鳴き声が響き渡りました。
声のする方を見ると、一羽の銀色に輝く鳥が、枝に乗った黒い獣に突っ込んでいくところでした。
黒い獣は鳥の突進を躱し前足の爪で鳥を引き裂きます。
ピーッという鳥の断末魔が聞こえ、鳥は枝の先に落ちてしまいました。
私は指の先から氷の矢を放ち、獣を貫きます。
枝から落ちていく獣を確認し、鳥を両手に抱いて治癒魔法をかけます。
腹を裂いていた傷はすぐに塞がりましたが、鳥が動き出すことはありませんでした。
私は鳥の亡骸を布に包んでリュックに入れました。
一段上の枝に、枯草で編まれた巣があります。覗いてみると割れた卵の殻が数個と、割れてない卵がいっこあります。
このまま置いておいても、世話をする親鳥はもういません。私が手を伸ばすと、コツコツと音がします。
「産まれるの……。」
見ていると、殻に小さな亀裂が入り、少しずつ広がっていきます。
コツコツ、コツコツ、やがて小さな破片が殻から剥がれ小さなひな鳥が顔を出します。
まだ綿毛も生えそろっていないヒナは、殻から抜け出し力尽きたかのようにクテッと転びました。
「おいで、私がお母さんになってあげるから。」
私はヒナを両手で包み込みマントの内ポケットに入れました。
そして、巣や枝に残っていた羽を回収して町に戻ります。
「戻りました。」
そういって冒険者ギルドのカウンターに声をかけます。
「えっ?トラウ山に出かけたんじゃなかったんですか?」
「はい。ですから帰ってきました。」
「えっ?」
「えっと、これが羽です。」
「えっ!ほんとに……。」
周りがざわつきます。
「それと、獣に襲われて亡くなってしまった亡骸もあります。」
「えっ!まさか……。ホントに……。」
お姉さんはほかのスタッフに声をかけます。
「魔道具の工房に行ってきます。誰か受付をお願いします。」
私はお姉さんに連れられて、少し離れた魔道具工房にやってきました。
「こんにちわ。ギルドのアカリですが、クリスタルバードの羽が届きました。」
「やあ、アカリちゃん、いらっしゃい。ホントならすぐに作業に入るから見せてもらえるかい。」
奥から出てきた小柄で痩せた老人がそういったので、私はリュックから羽と亡骸を取り出した。
「おお!なんて強い光なんだ。亡骸も全部任せてもらえるのかい。」
「はい、どうぞ。」
「これだけの量と強烈な光。最上級のライトボールが作れるよ。褒章は最低でも金貨50……いや100枚でも大丈夫だろう。」
「ひゃく……枚……ですか?」
「ああ。じゃが、私のところにそんな大金はないからな。支払いは、ライトボールにして卸してからになるがいいかい。」
「はい。私はかまいません。」
「ギルドも大丈夫です。」
「よし。弟子たちを総動員して、今夜は眠れないな。」
【あとがき】
魔道具ライトボールは、昼の間に蓄光して暗がりで光ります。蝋燭やランプと比べ、安定した光量と長時間かつ繰り返し使えるので、室内灯・街灯だけでなく、冒険者の迷宮探索などで使用されます。
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