第9話 Fig_03


 ゛ __新生児を設けた家族は故郷である国に戻ることがこの国の慣習に為りつつあったので、この村のその多くが一族を伴いそれぞれにその国々へ招き戻された。

 一方この村に残る家族も少数ではあるがいた。 また、この村では無く国内の他の村に転居した家族もあった。

 その中に痛ましい事件に巻き込まれた家族が存在した事実を記さねば為らないであろう。


 『国境近くの村に仕事の上で転居した家族が夜半、何者かに襲撃を受け家族全員が無惨にも殺害された。 新生児の遺体だけが見付からず、連れ去られた可能性が高いと推定された。 その翌年アジアのいち国内で、健康診断に訪れた子供の集団の中の(見た目と年齢が著しく異なる)幼児が、その子供であるとDNAから判明される。 この子供を連れていた者達の調書から、乳幼児を対象とする人身売買組織の存在が明るみにされた、と発表された』

 この事は全世界に速報として流され世界は涙し、安堵し、怒りに震えた。

 国連では、新生児の完全なる保護とその家族に危害を及ぼす者への厳しい刑罰を課す国際規法が、緊急に議決され、即時執行されるよう各国に要求した。


 これが『全人類新命完全保護法』である__ ゛




 そう、これが私達を締め付けるの生まれた瞬間だ。


 出生率が限りなくゼロに近付くにつれ新生児の総数から桁が抜けてゆき、低年齢の内は家庭での教育が義務付けされ、十歳に達すると各地の国立教育センターに集められ、そこで最終学歴を卒えるまで生活させられるのが一般常識化していく。

 最後の新生人類とも称される『コレクションケース』にいた私達には、その上に死ぬまで課されるものが二つある。


 一つはより安全に生き寿命を全うする事。


 もう一つは、生殖保存医療に全面的協力する事。


 この協力に、本人とその両親(実父母を含む)の生活面や経歴云々、個人レベルの情報、それに加え本人には遺伝子レベルまで身体に関する情報の提供が何かの罰のように課されている。

 又、男は可能な年齢に達すると新鮮な精子を決められた量の提出を求められた。 それは凍結され永久保存、或いは研究と称して名も知らぬ誰かの卵子との受精卵作りに使用されているらしい。

 女は卵子の抽出であろうが、詳しくは知らないし知る必要性を感じない。

 女には興味が無い、関わりが全く無いからだ。 と云っても性欲は体も心も異性に向けて放つ。 単に行動を共にしたいと思わないだけで、私が男色家な訳が無い。



 コピーの残りにはこれ以上知りたい事柄は載っていず、最後の一巻の数頁は白紙で中の一頁が誰かがメモ書きに使った(と説明した付箋があった)為に削除されていた。

 裏表紙にも悪戯書きされていたが削除するでも消去するでも無くその儘にされていて、書かれていた言葉は『 Denne frihånd 』。 意味は不明。




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