第3話 Ficus_02


『 Man Kloftede 建国に際して ~奇跡の村と呼ばれる由縁〜 Ⅳ』


 もう柔らかく為っている厚紙の表紙に、こう金文字で刻ざまれている、ここ所蔵の印刷物の中では薄手の部類に入るこれを数頁読み残した所で、午後の始業を知らせるチャイムが鳴った。


 一旦、一階受付け窓口まで戻ったが、この時間からすべき作業も無いので再び地下の保管室に戻ると同席した者に告げ、あの続きと未読の一冊を読む事にした。




 ――虐げられ行き場を無くした若者達が世界各地で集い始め、この村もその様な若者が好んで訪れ居住するようになった。


 元はひなびた農村であったが、土地は肥え、流れもあり、又、最小限の施設が揃っており、それらの事が自給自足で住むには適していると判断させた様である。 人口は急激に増加し村から町へと変貌していった。


 MATERIALEマテリアル 教は、ここに支部を置き、努めて誠心的に彼らを保護、支援し助け、同教団は信者を増やしただけでなく、教えを享受しない者達の支持をも獲得した。


 他所他国(この頃には国境というものが撤廃されていなかったのである)にも、別の宗教が介入し、彼等を集めようとした場所も多く存在したが、殆どは、閉鎖的で偏った信念に基づき繁栄を望むもの、つ信者のみを受け入れるとあって、目立って人口を伸ばす場所は無かった。


 同教団は世界的に教会や支部を持つもので、各国の特定政党のバックボーン的団体でもあったが、それ等の政党関係者の中にあっても、これを支持をする者達は必ずしも信仰しているとは限らず広範囲に至っている。


 MATERIALEマテリアル 教は、国連(世界人類統括連合の基盤)に働き掛け、同教団が支援している各地の施設団体を、この町周辺に集約させる事を条件に(そうする事で連邦国加盟国とは名分だけであった衰亡ゆく一個の自治領を存続させ、経済国家として確固たる自立を果たす迄に回復させた)、新たな一つの国と成す事を世界に提言した。


 これに共感を示した世界の名だたる企業(各国に莫大な影響力を持つ企業)複数が、国庫を支える事に次々と手を挙げ、同教団の後ろ盾となり『 Man Kloftede 』建国に尽力したことをここに明記しておきたい――



 後は、何処の地区から何という村や町がいつ集約されたのか、人口の推移、新たに建設された施設、歳入歳出の記録、歴代の評議会議院の名前と経歴、支援企業に団体の名称、そして最後に建国に際して MATERIALEマテリアル 教最高指導者が贈った国家憲章が、大きく記されてこの巻は終っている。

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