Ficus

第2話 Ficus_01


 人口の増減に人為的理由が影響していたのは大昔の事で、ひと家庭に二人以上の子供を設けることが全世界共通で法律化されてから、既に二世紀が経つ。

 その半世紀程以前から、世界的に急激な出産率低下が見られるように為った。

 原因は未だに解明されておらず、富裕層貧困層、国や人種等の境界線は無く、先天的な遺伝レベルにもその異常は関与していない。


 所謂、自然淘汰の類いではないかと考えているが、その答えが出る頃には私自身も用済みにり消えていることだろう。


 最初のうちには環境汚染が一因、いな一種のウイルス、等々と定義付けが計られたが、長期に渡る実験的試みも全てが時間と労力を消費するだけと証明したに過ぎなかった。

 今以てそれを続けているのは化学を崇拝する盲信的な学者か、莫大であった援助をすすり続けた業界の残党どもで、何某かの研究発表も正気の者たちから相手にされはしない。


 期待するに能うすべも機関も存在しない。 ならば後は防衛策を執るのみ。


 となると、産めよ増やせよの声が地球規模で巻き起こり、子を授からない夫婦や独身者には寄付という名目で課税が課され、子を宿せばその子が成人する迄のかん、家族は手厚い補償としてこれを手にする事となった。


 恋愛するかしないかは自由である。 結婚の相手をその中から見付けるか他を当るかも、時期を如何するかも同上である。 然し結婚しないという選択は。


 他人と共有するのが苦であったり異性をパートナーとしたくないなどの生理的な面、地域の男女比を始め経済的困難や宗教や思想の違いで相応の相手の不在という物理的な面、そもそも結婚したくないという結婚への意欲の大小や気持ちの問題を含め精神的な面。

 結婚しない理由は様々あり、あって然りだろう。 結婚を強制されないのも権利の一つなのだ、少なくとも二世紀前までは、個々が当たり前に容認された自由だった。 が、現在その様な言動をすれば袋叩き以上の事態を呼ぶ。

 

 つまり人類はこれ等の『自由』を失っていったのである。


 やがて、結婚相手の条件は子孫を残せる健康体が第一義となり、符合しない者は『欠陥品』の烙印をされたに近い人生を送る羽目に追い遣られた。


 ――酷い事例では、その手の人間は性的異常者か暴力的人格者に変貌へんぼうする恐れ有りと、逮捕起訴され矯正施設に送致する地域も有ったと――資料に書かれていた。


 『時代錯誤も甚だしい限りである』と。

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